Q1　　　（注：この問題は前々回の第２問、前回の第１問に続いています）


執務室の窓を大きく開けると、爽やかな風が吹き込んできた。
ルヴァは気持ちよさそうに、背を伸ばして深呼吸をする。
今まで根を詰めて書類を作っていたので、背中がミシミシと音を立てそうだった。
窓の外を見上げると、美しい聖地の空が広がっていた。
故郷の砂漠を覆っていた空に比べて、なんと穏やかで柔らかな色だろう。
遙かに遠くなってしまった記憶をたどりながら、ルヴァはもう一度空を見上げふわりと微笑んだ。

　――さて、次の案件に取り掛かりましょうか。

ルヴァはゆっくりと机に戻った。



「ルヴァ、今、よいか…」

扉を開けながら声が掛かる。
書類から目を上げたルヴァは「おや」と笑顔になった。

「クラヴィス、あなたがいらっしゃるとは珍しいですね。ええ、構いませんよ。どうぞ掛けてください。今、お茶を淹れます」

「うむ…」

クラヴィスはソファに腰をおろして、ルヴァの淹れたお茶を美味しそうに味わった。
ルヴァもゆっくりと湯飲みを傾ける。

「昨日届いた新茶なんですよ」

「そうか…。うむ、うまいな…」

「ええ、香りもなかなかいいですねぇ」

のんびりとした空気が流れていった。



「それで、何か私にご用でしたか」

ややあって、ルヴァが尋ねると、クラヴィスは「ああ…」と微かにうなずいた。

「お前のレポートのことだ…」

「え…？　ああ、あのことですか」

「そうだ。ジュリアスは最近暇があると何かを考えている。何のことかと思ったら…最初のレポートに加えて、問題形式で事例をいくつか、追加レポートにしてジュリアスに渡したそうだな…」

「はあ…すみません…」

ルヴァが困ったような笑いを浮かべたとき、元気よく扉が開いて、オリヴィエとリュミエールが入ってきた。

「ルヴァ、お茶にしようよ…　あれ、クラヴィスじゃない。珍しいねぇ」

「あぁ…」

「ジュリアスがどうかした？」

さりげなく問うオリヴィエに、クラヴィスは僅かに目を見張った。

「…なぜ、そう思うのだ…」

「ん？　勘かな」

楽しげにオリヴィエは笑う。

「そうか…」

「ジュリアス様がどうかなさったのですか」

リュミエールが控えめに尋ねる。

「何か…というわけではないが…」

「ジュリアスはまだ惑星トーラスのレポートに興味を持っているのだそうですよ」

ルヴァがさらりと説明する。
ああ、とオリヴィエが大きくうなずいた。

「あぁ、例のあの星ね。ふふ〜ん。さしづめ、ジュリアスがその問題に夢中になっていて放ったらかしにされている恨みでも言いにきたってとこ？」

「いや…あれが何かに没頭していてくれれば、私を怒鳴りにくるのが減るから好都合だ…」

どこまで本当なのかわからない口調でクラヴィスが言う。
３人は苦笑を浮かべてクラヴィスを見詰めるばかりだった。

ややあって、オリヴィエが再びクラヴィスに尋ねた。

「まぁ、それはそれとしてさ、あんたはジュリアスに問題出されたりしたの？」

「あぁ、いくつか聞かれたな。なかなか興味深い星だ」

「なんだ。ジュリアスだけじゃなくて、あんたまで面白がってるんじゃない。じゃあ、今日はルヴァにもっと問題を出してもらいに来たとか？」

からかうように笑いながらオリヴィエが聞くと、「ん？」とクラヴィスはオリヴィエを見た。

「そうだな…そうかもしれぬ…」

フフッとクラヴィスが笑った。

「だってさ。ルヴァ、とびっきりややこしい問題でも出してやってよ」

「私は構いませんが、クラヴィス、どうします？」

「ああ…私も構わぬ。どうせなら、ジュリアスに報告したものよりややこしいものを聞かせてくれ」

「おや、対抗意識？　ルヴァ、うんとややこしいのをご所望だそうだよ」

「ややこしいものですか…」

苦笑を浮かべてルヴァは少し考えた。

「じゃあ、こんなものはどうでしょう。オリヴィエとリュミエールも考えてくださいね」

「いいよ」

「はい」

２人は神妙にうなずいた。

「クラヴィス、状況はわかっていらっしゃいますね」

「ああ。青色人は山生まれが正直で海生まれがウソツキ。赤色人は山生まれがウソツキで海生まれが正直、だったな」

「ええ、そうです。そして、兄弟は必ず同じ色をしています。
では問題を出しますね。
これは私が彼らの文明について調査をしているときに、この星には統一した『王』がいるかどうか尋ねたときのことです。

王はいるのか、という問いに２人の兄弟が次のように答えてくれました。
それで私は王がいるかどうかわかったのです。

Ａ「私は山の生まれで、かつ、この星に王はいない」
Ｂ「私は海の生まれで、かつ、この星に王はいない」

さあ、この星に王がいるかどうかわかりますか」

「え、ちょっと待ってよ。その兄弟は何色人なの？」

「ルヴァ様は直接会ってお聞きになったのですね」

「ええ、直接彼らに会って聞きました。でも、もし直接会っていなくても、私には王がいるかどうかわかりましたよ」

「なるほど、面白い星だな…」

「クラヴィス、おわかりになりましたか」

「ああ…わかった…」

クラヴィスは満足げに微笑んだ。


問：この星に王はいるでしょうか。どう考えたのかも説明してくださいね。

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