馬車が王立研究院に着いた。 車寄せにルヴァの馬車は見当たらない。 　　やはりいらっしゃらないのでしょうか… がっかりしながら、でも念の為にと研究院の建物に向かう。 夕刻を過ぎて、既に主だった部分は今日の業務を終了している。 ただ、１日を通じて眠らない部分が、研究院には存在している。 静まり返った建物の中の、ここかしこに人の活動の波動が感じられる。 リュミエールは、その一つへと歩を向けた。 ドアを開けると何人かの研究員が、それぞれ端末を前にしてデータの解析中だった。 水の守護聖の姿を認めて、その長が駆け寄ってくる。 ルヴァのことを聞くと、今日はここへは立ち寄ってないという答が返ってきた。 　　やはりいらっしゃいませんか… 静かに礼を言って、リュミエールは研究院を後にする。 　　ルヴァ様、いったいどちらへいらっしゃいました… 研究院の建物を出て車寄せに向かって歩いていくと、前方から誰かが歩いてくるのに気が付いた。 「ジュリアス様…」 「リュミエールか。どうした、今日はそなたのサクリアを送る予定ではなかったと思ったが、何か用事だったか」 「いえ…。あの…ルヴァ様が来ていらっしゃらないかと思いまして…」 「ルヴァか。ルヴァなら」 「ジュリアス様、ルヴァ様の行く先をご存じでいらっしゃいますか」 「あぁ。知っているが」 「ルヴァ様はどちらへいらしたのでしょう」 「夕刻、緊急の事態が起こって急いで現地へ行ってもらったのだ。急なことだったので知っているのは僅かな人間だけだから、尋ねても知れなかっただろう」 「現地、と申しますと…」 「先日から会議に上がっていた例の惑星だ」 「そうでしたか…」 「緊急のことではあったが、難しいものではないから、そうは掛かるまい。早ければ今夜のうちに帰ってこよう」 「そうですか。ありがとうございます」 「もうよいか。私はこれからサクリアを送らねばならぬ。もう行くぞ」 「はい。お手間を取らせて申し訳ありませんでした」 「気を付けて行け」 「はい…」 研究院の中に姿を消したジュリアスを見送って、リュミエールはふぅっと息をはいた。 　　ルヴァ様、そうだったのですね… 　　ご無事で、一刻も早いお帰りを… さて、ルヴァの行く先はわかったが、これからどうしよう…。馬車へ戻りながら、リュミエールは考えていた。

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