御者に、水の館に向かうようにと言って、リュミエールは馬車に乗り込む。 　　そういうことなら探し回っていても意味がありませんね。 　　館に戻って、お帰りになるのを待ちましょう。 入浴を済ませ、くつろいで一息つくと、わけもなく寂しさが胸に迫ってくる。 少しだけブランデーをグラスに注いで、ソファに腰を下ろす。 その時ノックの音がして、来客が告げられた。 一瞬の期待は、「夢の守護聖様です」という執事の返答に、あっけなく破れる。 「はぁいリュミちゃん、遅くにごめんねぇ」 「いぇ、わたくしは構いませんが、オリヴィエ、どうかしたのですか」 「どうってこともないんだけど、ルヴァがいなくて寂しがってるんじゃないかなって思ってさ」 「オリヴィエ…あなた、ルヴァ様のことをご存じだったのですか」 「うん、ちょうどルヴァが出掛けるところに居合わせたんでね。リュミちゃんに知らせてあげなくっちゃと思ったんだけど、私の方もいろいろあって研究院に足止めくらってたんだよ。でも、リュミちゃん、ちゃんと知ってたんだね」 「えぇ。ジュリアス様に教えていただきました…」 「そっか…」 「オリヴィエ…ありがとうございます…」 にっこりわらうと、オリヴィエは照れたように笑って、リュミエールの手元に目を落とした。 「おや、飲んでたの」 「え？　あぁ、オリヴィエもいかがですか」 「うん。もらおっかな」 「えぇ」 新しいグラスを出して、オリヴィエに勧める。 「ありがと。リュミちゃん、こっちおいでよ。ほら、どうせなら並んで飲も」 オリヴィエはリュミエールの手を取って立ち上がらせると、長いソファに並んで腰をおろした。 「オリヴィエ…」 「乾杯！」 ゆったりとブランデーを味わう。芳醇な香りが鼻腔を満たす。 伝わってくるオリヴィエの体温が、なんだか嬉しかった。 ルヴァの不在が、思ったよりこたえているのだと認識させられる。 オリヴィエがリュミエールの肩をそっと抱き寄せる。 抱き寄せられるままにオリヴィエにもたれかかり、優しいぬくもりに浸る。 寂しさが癒されていくように思える。 「オリヴィエ…」 「ん？」 「ありがとうございます」 「いいよ。私は２人の保護者だからさ。寂しいときには頼っといで」 リュミエールは微笑を浮かべ、目を閉じてオリヴィエに寄りかかった。 オリヴィエは小さい子をあやすように、リュミエールの肩をぽんぽんと叩く。 　　ルヴァ…早く帰ってやりなよ… 一抹の寂しさと、優しいぬくもりの中で、静かに夜は更けていった。 　　　　【　Ｅ　Ｎ　Ｄ　】