「ルヴァったら、何沈んでるの」

後ろから声が掛かる。
振り向くと、いつもよりも明るい色に髪を染めたオリヴィエが楽しそうに笑っていた。

「あぁ、オリヴィエ…」

「せっかくこんな気持ちのいいところで休暇を過ごしてるっていうのに、ため息ばっかりだね」

「あ…す、すみません」

「まったくもう…」

笑ったままルヴァに近付くと、オリヴィエはルヴァの額を軽く突付く。

「リュミちゃんが傍にいないと、すぐ元気がなくなるんだから」

「そんなことないですよ。そんなこと…」

「そんなことないことないでしょ。元気がなくなって、悲観的なこと考えてる。ま、リュミちゃんが来ればそんな考えどっかに行っちゃうけどね」

「オリヴィエ…」

「出発直前に急な案件が持ち上がったからってリュミちゃんは後からくることになっちゃったけど、片付き次第ちゃんとここへ来るんだからさ、がっかりしてないで、おとなしく待ってなさい」

「え、えぇ…」

まだかなり沈んだ様子でルヴァは微笑んだ。

「一緒に後に残ればよかった、なんて思ってないでしょうね」

「え？」

「そんなことしたらリュミちゃんが気を使うよ」

「…そう、ですね…」

「それより、ルヴァがここで楽しく過ごしてる方がリュミちゃんも安心するよ」

にっこり笑ってオリヴィエがウインクを飛ばす。
少し考えて、「はい」とルヴァが微笑んだ。

「さ、それよりお茶にしない？　海の見えるテラスでお茶ってのもいいでしょ」

「…そうですね。お茶にしましょうか」

ルヴァはお茶の用意を乗せたワゴンを運んでくると、お茶を淹れ始めた。
その様子を、オリヴィエは微笑みながら見詰めていた。


「ん〜っ」

オリヴィエは伸びをすると、気持ち良さそうに深呼吸をした。

「それにしても、ここ、気持ちがいい場所だよね〜」

「ええ、そうですね」

ルヴァは彼方まで続く豊かな海を眺める。
海を渡ってくる風は、涼しく心地よい。

「あ〜あ」

わざとらしく、オリヴィエがため息をつく。

「どうしたんです、オリヴィエ」

「ん？　ルヴァがさ」

「私が？」

「今一緒にいるのがリュミちゃんだったらいいなって顔してる」

「あ…」

ルヴァの頬がほんのりと染まる。

「悪かったねぇ、傍にいるのが私で」

「何言ってるんですか、もう…」

ルヴァが苦笑を浮かべたその時、部屋の扉が開く音がした。

「ルヴァ様、遅くなりました」

涼やかな声が、急いでやってきたように、少し弾んでいた。
振り向いたルヴァの顔が、見る間に幸せそうな笑みに変わる。
クスッと笑って、オリヴィエが立ち上がる。

「やっと来たね、リュミちゃん。じゃ、交替」

「え？」

「お姫様に悪い虫が付かないように、ちゃんと守っていたからね。後はよろしく」

「オリヴィエ…」

「オスカーやガキどものところに行ってくるわ。また、ディナーの時にね」

オリヴィエの笑顔に、リュミエールも微笑みで応える。

「ええ、ディナーの時に…」

「んじゃ…」

後ろ手に手を振りながら、オリヴィエは部屋を出ていった。
その姿を見送って、リュミエールはゆっくりと振り返る。
柔らかな笑顔のルヴァがそこにいる

「リュミエール、お疲れ様でした」

「ルヴァ様…お待たせしてしまいましたね」

広げた腕の中にそっと駆け寄ってくるルヴァを抱き締めて、リュミエールはその耳元でささやく。

「早くお会いしたかったです」

「リュミエール…」

頬を染めてリュミエールを見上げるルヴァを、蕩けそうな笑顔で見詰めて口付けを落とす。
リュミエールの腕の中で、ルヴァが幸せそうな微笑みを浮かべた。

「ルヴァ様…」

ルヴァを抱き締めるリュミエールの腕に力が加わる。

「ルヴァ様…」

リュミエールの指がルヴァの着衣の中に滑り込み素肌をまさぐる。

「あ、待ってください、リュミエール…ここでは…」

「オリヴィエが気を利かせてくれました。ディナーの時まで２人きりです」

「そんな…リュミエール…あっ…」

「ルヴァ様」

「…リュミ…エール…」

ルヴァの声が甘く潤んでゆく。
その声に、波の音と海鳥の啼き声が重なっていった。








「美しいところですね、ここは」

ルヴァを背中から包み込むように抱き締めて、リュミエールがささやく。

「ええ、本当に…」

リュミエールにもたれるようにして抱かれながら、まだ弾む息を抑えてルヴァが答える。
少し冷たさの加わった風が、火照った肌に心地よい。
２人の目の前には夕暮れの海が広がっていた。
沈みかける太陽の光を反射して、波は金色に揺らいでいる。

「わたくしの故郷の海もこんなふうでした…」

「リュミエール…」

「いつか、わたくしの故郷の星へ、２人で行きましょうね」

「ええ…」

「ルヴァ様の故郷の砂漠の星にも行きましょう」

「ええ…」

それがほとんど実現不可能な夢であることに目をつぶり、しばし２人は幸せな想像に酔う。

「ルヴァ様…」

ルヴァの身体を反転させ、口付ける。
波の音が２人を包んでいた。


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