Q2


「そういうことか…」

ルヴァの説明を聞いたオスカーは、大きくため息をついた。

「簡単な問題だよ。引っ掛かるのはあんたくらいじゃないの？」

笑いを抑えてオリヴィエが言うと、オスカーは挑戦的にオリヴィエを見返した。

「そんなことはない。これは難しい問題だぜ。…よし、この問題をガキどもに出して困らせてやろう」

オスカーは急に元気付いたように言った。
オリヴィエは憐れむような目でオスカーを見る。

「やめときなよ。あっさり答えられて反撃をくらうのが落ちだって」

「いや、そんなことはないぞ。あいつらだって悩むに決まってる。おい、ルヴァ、今日はガキどもは来ないのか？」

「さあ、どうでしょう…。私にはわかりませんよ」

困ったような笑いを浮かべてルヴァが答える。
そのとき、勢いよく扉が開いて、少年たちが賑やかに走りこんできた。
オスカーは「よし！」とこっそりガッツポーズをとった。
オリヴィエとリュミエールは目を見交わして、やれやれと肩をすくめる。

「おい、お前ら…」

オスカーが声を掛けようとするより先に、少年たちが元気よく話し始めたので、オスカーの言葉は空しく宙に消えた。
少年たちは、さっき出掛けた公園で見掛けた出来事を口々に話している。
ルヴァは、執務時間内ではないのかと注意することも忘れて、「１人ずつ話してください」と苦笑していた。

ルヴァが少年たちに捕まってしまったので、リュミエールが少年たちにお茶を淹れてやった。
お茶を飲み、茶菓子をつまみながら、少年たちの話は続いた。
話しを切り出すきっかけを伺っているオスカーを、オリヴィエは面白そうに眺めていた。

「…てことなんだ。妙だろ」

ゼフェルが話を締めくくる。
マルセルとランディももっともらしい顔でうなずいていた。
さて、ここだ、と話し出そうとして勢い込んだあげく、オスカーは目の前のティーカップをひっくり返す。
カップが落下して割れる音が派手に響いた。

「わっ、す、すまん…」

オスカーは慌てて立ち上がってカップのかけらを拾おうとする。

「ああ、いいですよ、オスカー。怪我をするといけませんから、そのままにしておいてください」

ルヴァはオスカーを止めて、箒とちり取りを取りにパタパタと走っていった。

「何やってんだよ、おっさん」

呆れたようにゼフェルが声を掛けた。

「まったくだね」

ぽつり、とオリヴィエがつぶやく。




割れたカップを片付けた後、新しいお茶を（ついでに全員に）淹れ、全員が一息ついた。
さて、いつ少年たちに切り出そうか、と考えながら、オスカーは神妙にお茶を飲んでいた。
そろそろいいかな、と思ったとき、マルセルがルヴァに話しかけたので、オスカーはまた口を閉じることになった。

「あの、ルヴァ様…」

「はい、なんですか、マルセル」

「この間、ゼフェルが天国への道と地獄への道の問題を出しましたよね（第９８回第２問）」

「ええ、あれはなかなか面白い問題でしたね」

「それで、僕たち、あのバリエーションでもっと難しいのを考えたんです」

「おや、それはすごいですねぇ〜」

ルヴァは楽しそうに微笑む。
少年たちは誇らしげな笑顔で胸を張っていた。
ゼフェルがチラリと横目でオスカーを見てフフンと笑った。
オスカーはムッとした顔でゼフェルを睨み返す。
そんなやり取りにも気が付かない様子でルヴァが少年たちに声を掛けた。

「どんな問題なんですか。早く聞かせてください」

「ああ、いいぜ。みんなよ〜く聞きな」

大人たちを見回してゼフェルが言った。

ルヴァもリュミエールもオリヴィエも、笑顔でうなずく。
オスカーだけが、やや引きつった笑いだった。
少年たちは、顔を見合わせうなずき合うと、おもむろにマルセルが話し始めた。

「えーと、この間と同じように、１本道を歩いていくと、あるところで道が２つに分かれています。
片方は天国へ、もう片方は地獄への道ですが、どっちの道がどっちに行くのかは見ただけではわからない、というのも同じです。
そして、分かれ道には悪魔と天使がいます。
天使は天国への道の方に、悪魔は地獄への道の方に立っていますが、どちらも人間に化けているので、どちらがどちらなのかはわかりません。
もちろん天使は必ず本当のことを言い、悪魔は必ずウソをつきます」

「この間の問題と同じじゃないか…」

ぼそり、とオスカーが漏らした言葉に、ゼフェルはフンと笑った。

「ちゃんと違ってるさ。慌てずによく聞かなきゃダメだぜ。ほら、マルセル、続けろよ」

「うん。
じゃあ問題です。
この天使と悪魔のどちらかに質問をして、どちらの道がどちらに続いているのかを見分けてください。
ただし、できる質問は『こっちへ行くと天国ですか』と『こっちへ行くと地獄ですか』の２とおりです。
なるべく少ない回数で見分けるには、何回、どう聞けばわかるでしょうか」

言い終わって、マルセルはどうですか、というようにルヴァを見てにっこりと笑った。
ゼフェルとランディもルヴァを始めとする大人たちを試すような視線で眺め回している。

問：どちらの道がどちらに続いているのかを当てるには、何回、どう聞けばいいかを答えてください。
どう考えるのかも説明してくださいね。

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