Q2


その夜、地の館では先週に引き続き飲み会になっていた。

「オスカーのヤツ、結局自力じゃ解けなかったのにさ。ルヴァはオスカーに甘いよねえ」

オリヴィエがちょっと拗ねたように言った。

「そんなこと言わないでくださいよ。ほら、飲んでください」

「ああ、ありがと」

ルヴァの持つボトルに、オリヴィエは手にしたグラスを差し出す。

「オスカーもリュミエールも遠慮なく飲んでくださいね」

「ありがとうございます」

リュミエールはオスカーの顔を見てクスッと笑うと、ルヴァに向かってにっこりと微笑んだ。

「ルヴァ様、どうせですから、オスカーに関しては、ルヴァ様にいろいろ問題を出していただいて、うまく答えられたらグラス１杯飲んでよし、ということにしませんか」

「はあ？　おいリュミエール、何言い出すんだよ」

「ああ、それも面白いですねえ」

「ルヴァまで何言うんだ。やめてくれよぉ〜」

オスカーが悲鳴のような声をあげる。
オスカー以外の３人が楽しそうに笑った。

「安心してください、オスカー。いくらなんでもそんなことはしませんよ」

ルヴァの言葉を聞いて、オスカーがホッとしたように脱力する。

「オスカー、あんた本気で心配してたんだね。可愛いねえ〜」

オリヴィエが笑いながらオスカーの肩を叩いた。

「さ、飲んでください」

ルヴァは笑顔でオスカーにボトルを差し出した。



「でも、せっかくですから、少しぐらいはオスカーに問題をお出ししましょうか…」

そう言い出したルヴァは、ほろ酔い機嫌でほんのりと頬を染めていた。身体はグラグラと揺れている。

「ルヴァってば、１杯目のグラスもまだ残っているのに、もうそんなになってるじゃない。それで問題なんか出せるの？」

すでに何倍もグラスを干しているオリヴィエはほとんど酔った様子もない。

「ルヴァ様、大丈夫ですか…」

オリヴィエと同じくらい飲んでいるリュミエールは、オリヴィエ以上にしっかりした口調で言った。

「酔ったルヴァの出す問題なら解けるかもしれないな。いいぜ、問題出してくれよ」

オスカーは、機嫌よさそうに言った。少し酔いが回っている目付きだった。

「おやおや、オスカーったらもう酔ったのかなぁ。大胆なこと言うじゃない」

「うるさいな、オリヴィエ。ルヴァはこんな状態なんだから、いつもほどややこしい問題は出ないだろ？」

「甘いですね、オスカー」

「なんだよ、リュミエール。どういうことだ」

「この程度の酔いなら、問題を考え始めた途端に、ルヴァ様は素面に戻られますよ」

「まさか、そんな…」

「ホントだって。見てごらんよ、オスカー」

「え？」

振り向いたオスカーの視線の先で、ルヴァは問題を考えていた。
頬こそほんのりと色づいているものの、すでに酔っている雰囲気はない。
オスカーはしまったという表情になったが、もう遅かった。
恐る恐る見詰める眼差しの前で、ルヴァはにっこりと笑った。

「じゃあ、こんな問題を差し上げましょう。オスカー、うまく解けたら秘蔵の１本を開けますよ」

え、と３人の目が輝く。

「だってさ。オスカー、見事解いてよ」

「オスカー、頑張ってくださいね」

「…努力はする」

「さあ、いいですか、オスカー」

「あ、ああ…」

「王立研究院のスタッフと私たち守護聖はいつもいろいろな件に関してお付き合いしていますでしょう。
あるとき宇宙にちょっとしたトラブルが発生して、６人の研究員が年長、中堅の６人の守護聖とコンタクトを取ることになりました。
それぞれの研究員は状況に応じて私たちのところを訪れるのですが、担当の分野があるので、どの守護聖のところにもやってくるわけではありません。
その状況はこんなふうでした。

１．ジュリアスのところに来ない人はクラヴィスのところに来ません。
２．私（ルヴァ）のところに来ない人はオスカーのところに来ます。
３．オスカーのところに来るがクラヴィスのところには来ない人はリュミエールのところに来ます。
４．ジュリアスのところにもオリヴィエのところにも来ない人は私のところに来ます。
５．リュミエールのところに来る人はオリヴィエのところに来ません。

さて、このとき、
「私のところに来ない人はジュリアスのところに来る」
という命題が正しいか正しくないか、その真偽はいかに、という問題です。
いかがですか」

言い終わったルヴァは、手にしたグラスの中身を、ほんの少し舐めるようにして味わい、ほわあと頬を染めて微笑んだ。

「なんで酔ってるときにこんなややこしい問題が出せるんだよ…」

オスカーが情けない顔付きでつぶやいた。


「なあ、ルヴァ、なんかヒントをくれよ」

しばらく問題のメモを睨んでいたオスカーは、懇願するような口調でルヴァを見た。

「ヒントですかぁ？　そうですねえ…」

酔いに潤んだ眼差しをオスカーに向けたルヴァは、婉然と微笑みながらヒントを語り始めた。
　問：この命題は正しいでしょうか。論理的に解き明かしてください。


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