では第２問です

Q2

その夜、中堅守護聖たちは約束の時間に地の館を訪れた。

「おや、テラスに準備がしてあるんだね。どうして？」

「ルヴァ様、このディスプレイには何かいわくがあるのですか？」

「なんだよ、団子で酒飲むのか？」

通された宴席で、３人は口々にルヴァに質問を投げかけながら設けられた席に着いた。
ルヴァは楽しそうに微笑んで３人を迎える。

「今日は満月ですからね。せっかくですから月を見ながらお酒をいただこうと思いまして」

「月を見ながら？　ふうん、そりゃまた風流なことだねぇ」

オリヴィエが面白そうに空を見上げる。
真円の月は既にかなり高く昇っていた。

「このお酒の原産の土地では、秋の満月のときにお月見をする風習があるのですよ。
お団子と薄を供えるのは、そのお月見の約束事だということです」

オスカーの土産の酒瓶を手にして、ルヴァはそう説明した。
３人は珍しそうに酒瓶や三方に乗った団子や薄を眺め、また月を見上げた。

「さあ、ではオスカーのお土産をいただきましょうか。

ルヴァは楽しそうにガラス製の酒器を手に取った。
可愛らしい丸い形の容器は外側に深いくぼみがあって、氷が入っている。
容器の中では透き通った酒が美味しそうに冷えていた。

「で、めでたく全員で乾杯できるわけ？」

オリヴィエが横目でオスカーを見ながら尋ねた。
笑いをこらえるような口調に、オスカーがムッとした様子でオリヴィエを睨む。

「何が言いたいんだ、お前は」

「何がって、大切な同期だから心配してあげてるんじゃない」

「お前の心配などいらん！」

「で、どうなの、ルヴァ。オスカーも解くことができたわけ？」

重ねてのオリヴィエの問いに、ルヴァはクスクスと笑った。

「皆さんからの解答はちゃんと全員分いただきましたよ」

「私だってずいぶん苦労して解いたんだからね。オスカーが解けたとは思えないんだけどなぁ」

「お前、さりげなく俺に失礼なこと言ってないか」

果てしなく言い合いを続けそうな２人を見て笑いながら、ルヴァは「さて…」と酒器を持ち上げる。

「では、リュミエール、乾杯しましょう」

「はい、ルヴァ様」

ルヴァは静かにリュミエールの杯を満たし、自分の杯にも酒を注いだ。

２人が乾杯をするのを、オリヴィエとオスカーは言い合いを止めてまじまじと見詰めていた。

ルヴァとリュミエールは揃って杯を干してにっこりと笑い合った。

「美味しいですねぇ～。オスカーの見立てはさすがですね」

「ええ、口当たりもいいですし、仄かにフルーティーな味わいが感じられます」

満足げな２人の様子に、オリヴィエがうろたえたように口を挟む。

「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、何？　オスカーだけじゃなくて、私も間違えてたってこと？」

「はい。残念でしたね」

ルヴァはほんのりと笑うと、再び酒器を取り上げた。

「さあ、ではこれからは全員でいただきましょう」

「そっか。残念だけど、ま、仕方がないわ。最初の乾杯は逃したけど、これからは遠慮しないからね」

オリヴィエはルヴァの前に杯を突き出した。

「さ、注いでちょうだい！」

「俺にも注いでくれ」

オリヴィエに続いてオスカーも杯を出す。
ルヴァは「はいはい」とうなずいて２人の杯を酒で満たした。
２人は一気に飲み干して満足そうに息を吐いた。
クスクスと笑いながら、ルヴァはリュミエールと自分の杯に２杯目を注ぐ。
オリヴィエとオスカーも２杯目を要求する。
しばらくは和やかに献酬が続いた。

月はすっかり中天高く上がっている。
時刻は真夜中に近かった。

「綺麗な月ですね…」

リュミエールがしみじみとつぶやく。
皆、月を見上げて感嘆の声を漏らした。

「満月を愛でながら歌を詠んだり楽器を奏でたりするのも、観月の宴の趣向だそうですよ」

ほんのりと頬を染めたルヴァが、楽しそうに言った。
おや、とオリヴィエが片眉を上げる。

「なるほど。リュートを持ってこいって言ったのはそういうことだったんだね」

そう言いながら傍らに置いたままになっていたリュートを取り上げる。

「じゃ、あの満月を見ながら合奏といこうか、リュミちゃん」

「ええ」

リュミエールも同様に傍らのハープを手にする。
月光の降りそそぐ中を、美しい音楽が流れていった。

演奏が終わり、最後の余韻が辺りを満たしていた。
その静寂を打ち破るように乱暴に扉が開くと、一つの影が急ぎ足で部屋を横切りテラスに姿を現す。

「よぉ、楽しそうだな」

「ゼフェル！　どうしたんですか。何か質問でも？」

「バカなこと言ってんじゃねーや。集まって酒飲んでるってから来たんだ。俺にも飲ませろ！」

ゼフェルはテラスの様子を見回すと、部屋の中から手頃なイスを運んできて、ルヴァの傍に座り込んだ。
テーブルの上から杯を取ってルヴァに突きつける。

「自分たちだけで飲むなんてずりーぞ。さあ、注いでくれよ」

「あ、あのですねぇ、ゼフェル…あなたはまだ未成年で…」

「るっせー！　んなこたどーだっていーだろ。さっさと注げよ」

傍若無人なゼフェルに、オスカーが声を掛けた。

「おい、ぼうず、ガキが粋がってわめくんじゃない。ここは、大人が優雅に酒を飲む場だ」

「なにが『優雅に』だ。あんたがいるって時点でそれはありえねーだろ」

「なにっ！」

絶句するオスカーの顔を見て、オリヴィエが声をあげて笑った。

「確かにそうだね。その点に関しちゃゼフェルの言うとおりだよ」

「オリヴィエ、それを言ってはオスカーが可哀想ですよ」

リュミエールも面白そうに微笑む。
ルヴァも苦笑を浮かべていた。
ゼフェルは勝ち誇ったようにオスカーを見て「フフン」と笑った。

「さあ、注いでくれよ」

「え、でも…」

「ルヴァ、あきらめた方がよさそうだよ。こうなったらゼフェルは後に引かないからね～。あの月に免じて飲ませてやりなよ」

オリヴィエの言葉にゼフェルは得たりと微笑む。
ルヴァは小さくため息をついた。

「仕方がありませんね。ではゼフェル、問題に答えてください」

「は？」

何を言われたのか咄嗟に理解できず、ゼフェルはルヴァの顔を見直した。

「どういうことだよ」

「今日は皆さんにも先ず問題を解いていただいたんですよ。ですから、あなたもお酒が飲みたいなら問題を解いてください」

「なんだよ、それ」

「そうそう。私たちもややこしい問題考えたんだよ。あんたも見事に問題解いてお酒を飲む権利を手に入れるんだね」

ゼフェルは３人の顔を見回す。
リュミエールは笑顔で、オスカーは難しい顔でうなずいて見せた。

「わかった。解いてやるから問題言えよ」

挑戦的な目で、ゼフェルはルヴァを正面から見据えた。
ルヴァは「はいはい～」とおっとりと応じた。

「じゃあ、問題を言いますよ。いいですか」

「お、おう！」

「ではいきます。
ここに１組のトランプがあるとします。
この中からキング、クイーン、ジャックの絵札を抜き出すと何枚になりますか」

「３枚の４柄だから１２枚だ」

「ええ、そうですね。
トランプのマークは４種類ですから絵札は１２枚です。
で、そのうちの１種類は３枚のうち２枚を除いて１枚だけにします。
ですから、カードは全部で１０枚ですね。

その１０枚を裏返しにして１枚ずつめくってゆき、
どのマークのカードが１枚しかないかを当てるとします。
このとき、最も早くわかる場合と最も遅くわかる場合は、
それぞれカードを何枚めくったときにわかりますか。

という問題ですけれど、いかがですか？」

言い終わって、ルヴァは微笑んでゼフェルを見詰める。
中堅の３人も興味津々でゼフェルを見詰めている。
ゼフェルは腕を組んで考え始めた。

問：最も早くわかる場合ともっとも遅くわかる場合は、
それぞれカードを何枚めくったときにわかるでしょうか。
めくった中身も答えてくださいね。

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