では第１問です

Q1

「お茶のお代わりはいかがですか～」

「あ、私もらおうかな」

「わたくしもいただきます」

地の執務室ではいつもの顔触れが集まってのんびりとお茶を飲んでいる。
いつもながらのまったりとした午後だった。

ノックの音がして、オスカーが入ってきた。

「また茶会か。お前ら気楽に過ごしてるなぁ」

「ジュリアスの下僕やってる誰かとは違うからね～。優雅でいいでしょ」

呆れたようにつぶやくオスカーに、すかさずオリヴィエがやり返す。
これも見慣れた光景だ。

「誰かって誰だよ」

「いいじゃない、そんなの。ま、座んなさいよ。ルヴァ、早くお茶淹れて」

「あ～、はいはい…」

にこやかに微笑んでルヴァはお茶を淹れる。

「オスカー、あなた視察に行っていたのではありませんか」

ふと思い出したようにリュミエールが尋ねると、オスカーは「ああ」と笑った。

「さっき帰ってきたところだ。ジュリアス様への報告を済ませて、研究院に寄ってからここに来た」

「はぁん…」

「なんだよ、オリヴィエ、その笑い方は」

「いや、なんでもないよぉ」

そう言いながら、オリヴィエは可笑しそうに笑った。

「視察から戻ってきて口頭での報告が済んだら、次は詳細の報告書だもんねぇ。急いでルヴァに頼まないといけないってことでしょ」

「あぁ、そうですね」

オリヴィエと同じように、リュミエールも微笑んでオスカーを見詰める。
居心地悪そうに、オスカーは２人を見返した。

「なんだよ、お前ら、その目は。人のことはほっとけよ」

拗ねるようなオスカーの態度に、２人はますます可笑しそうに笑っていた。
お茶を淹れ終わったルヴァが、これもクスクスと笑いながらお茶を勧める。

「２人ともそのくらいにしてあげてください。オスカーはやるべきことはちゃんとやってますよ」

「ルヴァ、言葉は正確に使わなくちゃダメだよ。『やるべきこと』じゃなくて『自力でできること』でしょ」

「え？」

一瞬戸惑ったルヴァは、次の瞬間「あぁ…」と笑い出す。

「ルヴァまでなんだよ」

オスカーは口をとがらしてルヴァを見詰める。

「ま、そうかもしれないけどな…」

一瞬の後、全員が笑い出した。

「とにかく、それはそれとして、ルヴァに土産があるんだ」

オスカーは手にした包みを解く。

「相変わらず、ルヴァに対してはマメだねぇ。また珍しい本？」

「いや、本じゃなくて…」

オスカーはルヴァの前のテーブルの上に、１升瓶よりはやや小振りな瓶を何本か並べた。

「今日はこれだ」

「おや、『大吟醸』ですね。ありがとうございます、オスカー」

「何？　お酒？」

オリヴィエは訝しげに卓上の瓶を眺め、その視線をオスカーに移した。

「オスカー、それってあんたが飲みたいだけじゃないの？」

「いいじゃありませんか、オリヴィエ。せっかくですからみんなで戴きましょう」

ルヴァの言葉に３人は嬉しそうにルヴァを見た。

「それはいいねぇ、ルヴァ。オスカーのお土産で宴会しよう」

「ええ、それは楽しいですね。わたくしもぜひ参加したいです」」

「大勢で戴いた方が美味しいですからね～」

「やっぱりそうなったか。多めに買ってきてよかったぜ」

少し肩をすくめて笑ったオスカーは「ああ、そうだ」と包みに残った箱を取り出す。

「何、それ？」

すかさず目にしたオリヴィエが尋ねる。

「その酒屋でオマケに付けてくれたんだ。ルヴァ、これもあんたにやるよ」

「ありがとうございます、オスカー」

ルヴァは箱を受け取って、外に書かれた文字を読む。

「何なの？　ルヴァ」

「ええ、『枡』のようですね」

ルヴァは楽しそうに箱を開ける。

「マス…？」

取り出されたモノを見てオリヴィエが首を傾げる。

テーブルの上には木製の四角いモノがあった。側面になにやらマークが焼き付けてある。

「ええ。これは枡といってお酒などを計る計量器です。立方体とは限りませんが、底面は普通正方形をしています」

ルヴァは枡を手に取って、正方形の底を見せる。

「なるほど、面白いね。で、その横に焼き付けてあるのは？」

「これは、その店の屋号でしょうね」

ルヴァはオリヴィエに枡を手渡す。

「ヤゴウ？」

受け取ったオリヴィエは、手の中の枡をクルクルと回してその焼印を眺めた。

「お店の名前ですよ」

ルヴァはそう言って、湯飲みを手に微笑んだ。

「で、その宴会はいつやるんだ」

「ん？明日は土の曜日だし、今夜でいいんじゃない？」

「ええ、そうですね。場所はどうします？　ルヴァ様のところでよろしいのでしょうか」

「そうだね、そうしよっか」

「ああ。俺もそれでいいぜ」

中堅の３人が次々と話を進めてゆくのを、ルヴァは「おやおや…」という顔で眺めていた。

「ルヴァ、じゃ、そういうことでいい？」

オリヴィエと一緒に、ほかの２人も同じようにルヴァを見た。

「ええ、私は構いませんよ」

そう答えながら、ルヴァはクスッと笑った。

「ルヴァ？」

訝しげに見詰める３人を、ルヴァは楽しそうな笑顔で見回す。

「いいことを思いつきました。この枡に関連した問題を差し上げますから、宴会のときまでに解いてください。ちゃんと解けた人で最初の乾杯をしましょう」

「ということは、解けなかったら最初の１杯は指をくわえて見ているということですか」

「はい」

リュミエールの問いにルヴァは笑顔で答えた。

「だってさ。オスカー。頑張らないと寂しいよぉ」

オリヴィエがオスカーに向かってニヤニヤと笑う。

「うるさいな。俺だってやるときにゃちゃんとやるさ」

「へぇ～。じゃ、お手並み拝見といこうか。ルヴァ、問題言ってよ」

オリヴィエに促されて、ルヴァは「はいはい」とうなずいた。

「じゃあ、問題を言いますよ。いいですか？」

ルヴァの言葉に３人は力強くうなずく。

「では、いきますよ。

ここにお酒の入った樽があります。
ここから別の容器に３リットルと７リットルを分けたいんですが、
使えるものは５リットル枡と６リットル枡の２つしかありません。
一番少ない手数で分ける方法を示してください。
１度枡に取ったお酒を樽に戻すことはできませんし、
容器に移したお酒は枡や樽に戻してはいけません。

という問題です。
宴会が始まるまでに解いて、私に答えてくださいね」

ルヴァは楽しそうに３人を見回した。

問：最小の手数で３リットルと７リットルを計ってください。