では第１問をどうぞ

Q1

「お茶のお代わりはいかがですか…」

のんびりとした声でルヴァが尋ねる。
オリヴィエもリュミエールも、同じようにのんびりとお代わりを受けた。

金の曜日の午後。
３人はいつものように地の執務室でお茶を飲んでいた。
今週の執務はとっくに片付けた。
あとはゆったりと執務の終わる時刻を待つばかりだった。

「平和な１週間だったよね～」

しみじみとオリヴィエがつぶやく。

「今週は大きな事件もやっかいな案件もなくて、毎日のんびりお茶飲んでたような気がするよ」

「そうですね。先週まではずいぶん忙しかったですから、こういう平和な期間は嬉しいですね」」

同じようにしみじみとリュミエールが答える

「私たち守護聖が暇でいられるっていうのは、宇宙が穏やかで安定している証拠だからさ、今週はたいへん良い１週間だったってことだよね」

オリヴィエに視線を向けられたルヴァが「ええ、そうですねぇ」と微笑む。

「確かに、宇宙に何も問題が起こっていないということはいいことです。でも…」

「でも…何？」

聞きとがめるように、オリヴィエがルヴァを見る。

「宇宙は絶えず変化をしていますからね。悪い方じゃなく良い方にも事態はどんどん動いていきます。問題が起こらなくても、私たちの仕事がなくなるということはありませんよ」

クスクスと笑うルヴァを見て、オリヴィエは苦笑を浮かべる。

「ま、確かにそうだけどね。でも、宇宙の綻びを繕うのに走り回ったり、災厄を防ぐために苦労させられることに比べたら、そんなお仕事は簡単なことだよ」

「良い事態に対応するのは嬉しいことですしね…」

微笑んでリュミエールが言い添える。
そういうことだ、と３人はうなずき合った。

「宇宙が平和に発展していくことの手助けは、守護聖として願ってもないことだもんね」

外見に似合わず生真面目な性格のオリヴィエがつぶやくように言った。
ルヴァとリュミエールは目を見合わせて微笑み合う。

開け放った窓からは明るい午後の日差しが差し込み、カーテンをそよがせて爽やかな風が吹き込んでくる。
まったりと満ち足りた午後だった。

「おうっ、邪魔するぜっ」

「こんにちは…」

「お邪魔しま～す」

のどかな静けさを破って、子どもたちの賑やかな声が飛び込んできた。

「おや、来たね、悪ガキども」

オリヴィエが面白そうに少年たちを見る。

「好きなところにお座りなさい。今お茶を淹れますから」

ルヴァの言葉に、少年たちはそれぞれに返事をして席に着いた。
手近なテーブルに、すぐにお茶とお菓子が供される。
少年たちは元気良く食べたり飲んだりし始めた。
その様子を、大人たちは微笑ましそうに眺めていた。

「どうやら３人とも研修を無事終えたようですねぇ。お疲れ様でした」

ルヴァは少年たちに向かって微笑みかける。

オリヴィエとリュミエールは「ああ…」と顔を見合わせた。
今週は急ぎの仕事がなさそうだからというので、少年たちは王立研究院で研修を受けることになっていた。
少年たちのどこかに疲れた雰囲気が漂っているのは、けっこうハードな研修だったということなのだろう。

「研修は確か２日間でしたね」

お茶のお代わりを注いでやりながら、リュミエールが尋ねた。
少年たちはため息と共にうなずく。

「２日間びっしりだったもんな。それ以上の日数でなくてよかったぜ」

「４日間まるまるじゃなくてよかったよな」

「２日間でも僕すっかり疲れちゃいました」

口々に訴える少年たちには、それでもそのハードな研修をやりこなしてきたという誇らしげな面持ちも見出すことができた。大人たちは密かに微笑む。

「月の曜日から木の曜日の間に２日間ずつってことだっけ？」

オリヴィエの問に少年たちはうなずいた。

「３人とも連続した２日間、研究院に通ったんです」

「行った日がまったく重なるってことはなかったですね」

「あぁ、毎日誰かは聖殿でお仕事してたしな」

「そういえば、あんたたちがそうやって３人揃ってるのを見るのは久し振りだよねぇ」

笑顔でそう言ったオリヴィエは、「お陰で聖殿が静かだったよ」と付け加えてキャハハッと笑った。

「あ、なあなあ、俺らがそれぞれ何曜日に研究院に行っていたか知ってるか」

ゼフェルの問に、ルヴァは「ええ」とうなずき、オリヴィエとリュミエールは首を横に振った。
ゼフェルは「ふ～ん」と笑みを浮かべる。

「じゃあ、ルヴァは除いて、あんたら２人で考えてみな」

「おや、ゼフェルから問題ねぇ。それも研修の成果とか？」

「うっせー。考える気があるのか、ねーのか、どっちだよ」

オリヴィエとリュミエールは顔を見合わせてうなずき合った。

「いいよ。考えようじゃない」

「どうすればいいのですか」

「あぁ。さっき言ったように、俺たちは月の曜日から木の曜日の間に連続する２日間研究院に行った。まったく同じ２日間に行ってたヤツはいねー。ここまではいいか？」

オリヴィエとリュミエールは黙ってうなずく。

「さて、水の曜日に研究院にいたヤツは必ずウソをつく。そうでないヤツがホントのことを言うとは限らねーとして…」

ゼフェルはニッと笑うと、厳かに宣言した。

「マルセルは水の曜日に研究院にいたぜ」

「は？　どういうこと？」

思わず聞き返すオリヴィエに、ゼフェルはこう尋ねた。

「さあ、水の曜日に研究院にいたことが確かなヤツがいるかどうか。いるならそれは誰か。考えてみな」

オリヴィエとリュミエールは顔を見合わせると、それぞれ考え始めた。
少年たちは興味深げに２人を見詰めている。
ルヴァは新しいお茶とお菓子の用意に取り掛かった。

問：水の曜日に研究院にいたことが確実な人はいるでしょうか。もし、いるならそれは誰でしょう。
どう考えたかも合わせて答えてください。