Q2


問題の他にも、ルヴァは幼いころの思い出をいろいろと語った。
珍しい砂漠の話に、皆興味深く聞き入った。


やがて、少年たちが「もう帰るわ」と言って帰っていった。

「俺が新しく作ったゲームをやるんだ」

誇らしげにゼフェルが言う。その両側で他の２人も楽しそうに笑っていた。



少年たちが帰っていって、辺りは急に静かになった。
それが落ち着いたといえるのか、寂しいというのか、大人たちは決めかねていた。
お茶のお代わりを淹れ、子どもたちには聞かせられないような話題も交えて、様々な会話が行き交う。


午後もかなり遅い時刻になって、ジュリアスとクラヴィスが訪れた。

「王立研究院に寄ってきた。あそこも今日はヒマそうにしていたな」

勧められたソファに腰を下ろしたジュリアスは、そう言ってにっこり笑った。
傍らのソファに沈みこんだクラヴィスがフッと笑う。

「まったく、土の曜日だというのに朝から聖殿で仕事をしたり研究院に足を延ばしたり、首座殿は勤勉、というより貧乏性だな。付き合わされるこちらはいい迷惑だ」

「どこへ行ってもダラダラと寝てばかりいるそなたに言われたくはないな」

「まあまあ、お２人とも、それくらいにしてお茶をあがってください。お菓子もありますよ」

苦笑しながらルヴァがお茶を勧める。

「ほう…これは鳥の形か。変わった菓子だな」

「あ、ねえねえ、ジュリアス〜。そのお菓子、頭から食べる？お尻から食べる？」

「何？　何のことだ…」

新しい顔触れを迎えて、また、ひとしきり話は盛り上がる。



「それはそうと、ルヴァ」

何か笑いをこらえているような表情で、ジュリアスが口を開く。

「はい」

「報告書を問題形式にまとめてくるというゼフェルの悪癖は、やはりそなたの影響らしいな」

「何を仰るんですか。そんなことはありませんよ」

平然と応えるルヴァの声は、ごく僅かうろたえているようでもあった。

「またゼフェルが何かしたの？」

お気楽にオリヴィエが尋ねる。

「いや、そうではない」

ジュリアスはクスリと笑うとファイルから１枚の紙を取り出した。

「ルヴァからの報告書に紛れ込んでいた。報告書の中身とつき合わせてみたところ…」

ジュリアスはルヴァを正面から見詰める。

「ルヴァ、そなた、報告書をまとめるついでに、それを問題の形にまとめ直したようだな」

「あ〜あのぉ…それはですねぇ…ちょっと気分転換のために…見当たらないのでどうしたのかと思っていましたが、あなたのところに行っていましたか…」

ルヴァは照れたように「あははは…」と笑った。
周りの一同は苦笑を浮かべる。

「ねえねえ、どんな問題？　見せてよ」

好奇心いっぱいでオリヴィエが手を出す。

「ふむ、そうだな。ではオリヴィエ、リュミエール、それにオスカー、そなたたち、今からこの問題を解いてみよ」

「えっ、あの、俺もですか…」

「どうした、オスカー。何か支障があるか」

「いえ…別にありませんが…」

「そうか。それなら頑張って考えてみよ。２人はもう取り掛かっているぞ」

「はっ！」

覚悟を決めてオスカーは２人が見詰めている紙を覗き込む。
丁寧で読みやすいルヴァの文字がびっしりと並んでいた。
見ただけで頭が痛くなりそうだ、とばかりにオスカーはソファの背にもたれこむ。

「どうした、オスカー。闘う前から白旗を掲げるのか」

からかうような口調でジュリアスが声を掛ける。

「そんなばかな…」

余裕の笑みでオスカーは答える（が、どう見てもその笑顔は引きつっていた）。

「オリヴィエとリュミエールが読んでからでにします。３人で読むには小さい紙ですし」

「そうか…」

ジュリアスは面白そうにオスカーを見ていた視線を外して、「ああ、そうだ、ルヴァ…」とルヴァに話を振った。
オスカーは微かに肩をすくめる。

「で、どんな問題なんだ」

ボソッとつぶやくと、オリヴィエが「ほら…」と紙を突き出してきた。

「けっこうややこしいよ。アンタもしっかり考えな」

「『三人寄れば文殊の知恵』とも言いますからね。オスカー頑張ってください」

「何を言ってやがる。お前ら２人いりゃ充分だろ。さ、早く解けよ」

小声で言いながら、ワイワイと３人は問題を読んでいった。
その様子を見ながら、ジュリアスは満足そうに微笑んだ。


３人がため息混じりに眺める紙には、次のような文章が記されていた。


この星系に統一議会が設けられたのは、星系の標準暦１３８８年、今年１４８８年ででちょうど１００年になる。
議長は星系を構成する全ての星から選挙によって選ばれるが、１回の任期は４年で、再選を妨げない。
この１００年間に議長を務めた人間は５人で、就任期間は全員異なっている。
また、不連続に議長を務めた者はいない。
選挙は常に年の途中で行われる。仮に前の議長の任期が１３８８年から１３９２年までならば、次の議長は１３９２年からということになる。

５人の議長の名前は以下のとおり
　アレフ、カイル、コリン、ジョーン、マルト

５人の議長の姓は以下のとおり
　ウォーカー、オーウェン、カーター、ジョプリン、ラヴィング

５人についてのデータは以下のとおり
　１．コリンの姓はカーターではない。
　２．ウォーカー氏はアレフより２期（８年）多く議長を務めた。
　３．ジョーンの次に議長を務めたのはラヴィング氏だった。
　４．マルトの任期はカーター氏の２倍の長さだった。
　５．１４７２年から議長を務めたのはウォーカー氏ではない。
　６．ラヴィング氏の任期はコリンの２倍だった。
　７．１４３２年に議長に就任したオーウェン氏の名はコリンでもアレフでもない。
　８．ジョーンの任期はオーウェン氏の半分だった。
　９．カイルとウォーカー氏は議長に就任する前に議員として議会に参加していた。
　
５人の姓名と、それぞれの任期が何年から何年かは上記のデータから知ることができる。


「さっぱりわからん…」

オスカーは早くもあきらめムードだった。

「そんなことないって。手掛かりはいくつかあるんだから」

「ええ、そうですね。１にコリンの姓はカーターではないとありますから、まずデータの４と６を考えてみましょう…。この４人は重なりませんね」

「うん。じゃあそれを踏まえて、次に考えるのは…ジョーンの姓だね。ジョーンの姓はラヴィングじゃないんだから、え〜と、これかこれでないかのどちらかって考えるのはどうかな」

「ええ。ではジョーンの姓が、これではないと仮定してみましょうか」

「あぁ、それだと矛盾が出るねぇ。じゃあジョーンの姓はこれだってことか」

オリヴィエとリュミエールはわかっていることをメモ用紙に書き出していった。
オスカーはまた１つため息をつく。

問：５人の姓名とそれぞれの任期を明らかにしてください。

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