Q2


宇宙はゆったりと落ち着いて、何の異常もなく運行している。
ここしばらくの労をねぎらって、守護聖たちに休暇が与えられた。
守護聖たちは、保養地とされた惑星で現地時間で３週間の休暇を過ごすことになった。
専用の高速艇で、美しいリゾート地を訪れる。
堂々と聖地の外に出られるというので、何人かはかなりはしゃいでいた。



「いいですか、ゼフェル。いくら休暇だからといっても、それなりの秩序を持って行動してくださいね」

「わかってるよ。なんで俺だけに言うんだよ」

「え、あの…」

「そりゃ一番の問題児だからだろうぜ」

「なんだと！」

ゼフェルはカッとして振り向いた。
ニヤニヤと笑いながらオスカーがこっちを見ている。

「あんたにだけは言われたくねーぜ、赤毛のおっさん」

「何？」

「よぉ、ルヴァ。俺ばっかりじゃなくて、このおっさんにも注意してやれよ」

「あぁ、オスカーはいいんですよ、ゼフェル」

「何でだよ」

「さっき、ジュリアスにきつく言われてましたからね。私が言わなくても大丈夫だと思いますよ。ねぇ、オスカー」

ルヴァに真っ直ぐに見詰められて、オスカーは少し口ごもった。
こころなしか、笑顔が引きつっているようでもあった。

「あ、ああ…。心配しなくても大丈夫だぜ。このオスカー、ジュリアス様の信頼を裏切ったりはしない」

「そのわりには、しょっちゅう聖地を抜け出しているけどねぇ〜」

笑いを含んだ声がして、オリヴィエが姿を現した。

「ルヴァ、オスカーのことなら心配いらないよぉ〜。私たちがしっかり監視してるからさ」

「ええ。わたくしたちにお任せください」

オリヴィエに続いて、リュミエールもやってきた。

「何だよ、お前ら…」

「何？　何か言うことがあるっての」

「あ、いや、別に…」

（オスカーは、この２人にはどうしても勝てないみたいですねぇ）

（態度が偉そうなわりには情けねーよなぁ）

中堅組のやり取りを見ながら、ルヴァとゼフェルはそれぞれに考えていた。


「じゃあな。また夕食ンときに会おーぜ」

これ以上何か言われない先にと、ゼフェルは走り去った。
その後ろ姿を見送り、中堅たちの様子を見て、ルヴァは （ゼフェルに直接言うよりマルセルに注意してもらう方がいいですかねぇ） などと考えた。


「ねえ、ルヴァ」

オリヴィエとリュミエールは改めてルヴァに向き合う。

「眺めのいいカフェテラスがあるんだ。お店も洒落てるし、女の子も可愛いんだよ」

「ルヴァ様、ご一緒にいらっしゃいませんか」

「ああ、それは楽しそうですねぇ。じゃあ行きましょうか」

ルヴァは笑顔で応じる。

「オスカー、あんた、どうする？」

「そうだな、せっかくだし、俺も行こうかな」

「オスカー、お店の女の方に手を出さないでくださいね」

「リュミちゃんの言うとおりだよ。オスカー、気を付けてちょうだいね」

「お前らなぁ」

相変わらずの３人を、ルヴァは笑顔で見守っていた。



休暇の日々は楽しく過ぎていった。
ジュリアスとクラヴィスも彼らなりに休暇を楽しんでいた。
ちょっと離れた町の図書館に古文書の類がたくさん保存されているのを見付けて、ルヴァはいそいそと通っていた。
中堅の３人は一緒にお茶を飲んだりお酒を飲んだりしている。オスカーは２人の目を盗んでこっそりと出掛けようといろいろ頑張っていた。
少年たちは、海辺で遊ぶことが多いようだ。
平和で穏やかな１週間が過ぎた。
休暇はまだ３分の２残っている。
皆が豊かな満ち足りた気持ちでいた。


「ルヴァ、まだ起きてる？」

「おや、オリヴィエ、リュミエール。ええ、大丈夫ですよ。どうぞおはいりなさい」

ルヴァは読んでいた本を閉じると、立ち上がって２人を出迎えた。

「どうぞ座ってください。今お茶を淹れますね」

「お茶はいいよ。グラスだけ用意して」

「え？」

不思議そうに見返るルヴァの前に、オリヴィエとリュミエールは持参したものを示す。

「おや、お酒ですか」

「うん。せっかくの休暇だし、たまにはいいんじゃないかと思って」

「このお酒ならルヴァ様にも味わっていただけると思います」

「そうですか。それではありがたく頂きましょうか」

ルヴァはお茶のカップではなく、グラスを取り出した。
軽やかな色の酒がグラスに満たされる。

「じゃ、乾杯！　朝まで飲み明かすからね」

「朝まで、ですか…」

苦笑しながらルヴァはグラスを合わせた。


２人が持ってきた酒は、ほどほどの強さで、ルヴァにも無理なく飲めるものだった。
香りも味わいも素晴らしくて、ルヴァは２人の気遣いに礼を言った。
ほろ酔いで、あれこれと話が飛び交う。
お茶会とはまた違った楽しさだった。

飲み始めてしばらくした頃、オスカーがやってきた。

「よぉ、邪魔するぜ」

「おや、オスカー、いらっしゃい」

「今夜は珍しく酒飲んでるって聞いたからな。これは土産だ」

オスカーは何本かの酒瓶と様々なつまみを差し出した。

オスカーを加えて、更に会話は弾む。
気が付けば、オスカーがこの休暇中に声を掛けた女性たちの話になっていた。
いつの間にそんなに…と３人は驚嘆の思いで聞いていた。

「ところでな…」
オスカーの声音が少し変わった。
おや、と３人はオスカーを見た。
オスカーは、どこか悩んでいるような風情でグラスを傾ける。

「どうかしたのですか、オスカー」

「何か揉め事を起こしたとか…」

「手を出してはいけないような方に手を出したとか…」

「お前ら、俺をなんだと思ってるんだ。そうじゃない。ちょっと妙なことがあったんだ」

「何なんです？」

妙なこと、と聞いてルヴァの目が嬉しそうにキラリと光った、と３人は思った。

「何があったんです、オスカー。話してください」

「ああ。ルヴァにはぜひ聞いてほしい。実はな…」

グラスをもてあそびながら、オスカーは話し始めた。

「昨夜、俺はある場所で４人の女性に出会った。４人とも綺麗で頭が良かった。
彼女たちとの会話は機知に富んでいて、楽しかった。
ところが、４人は名前を教えてくれないんだ。
いくら聞いても笑っているばかりだった。
そうしたら、もう１人、４人よりはちょっと年上かなという感じの女性が話に加わってきて、４人についての情報を教えてくれたんだ。
その情報を俺がちゃんと解くことができたら…あ、いや、
とにかく、その情報を解くことができるかどうか挑戦されたんだ。
明日の夜、同じところで同じ時刻に会う約束をした。
そのときに答が出ていなければ、俺は１晩、その店の全ての客に酒をおごらなくちゃいかん」

「オスカー…。あんた私たちの目を逃れて何をやってるのさ」

「そのような場所に出入りしていらっしゃるとは…」

「おいおい、何を考えているんだ。そんないかがわしいような店じゃない。格式の高い名店なんだぜ」

「どうだか」

「あ〜、オスカーの夜遊びはまた別の問題としておいてですねぇ、とりあえず、その謎を解いてみませんか」

「ルヴァ様…」

リュミエールが苦笑を漏らす。

「まったく、ルヴァはいつだってルヴァだねぇ。ま、そういうことにしておこうか。オスカー、さっさとその情報をってのを話しな」

「あ、ああ…」

オスカーは手にしたグラスを干すと、ポケットから１枚のメモ用紙を取り出した。

「いいか、読むぞ。

４人の名前は、アリス、イーゼル、ケイト、グレース
４人の目の色は、灰色、緑、青、黒
４人の好む服の色は、白、紺、ピンク、水色
４人はそれぞれ、１羽、２羽、３羽、４羽の小鳥を飼っている。

１．灰色の目の女性と白い服の女性とイーゼルの３人が飼っている小鳥は合わせて８羽。
２．緑の目の女性と紺の服の女性とケイトの３人が飼っている小鳥は合わせて９羽。
３．黒い目の女性と水色の服の女性とグレースの３人が飼っている小鳥は合わせて７羽。
４．ピンクの服の女性の目は灰色ではない。
５．ケイトの目は青ではない。
６．イーゼルの目は黒い。

という情報で、それぞれの目の色と服の色、飼っている小鳥の数を当てろというわけだ。
ルヴァ、これだけの情報でわかるものなのか？」

「ええ。ちゃんとわかりますよ」

「そうか。じゃあ、どうなるのか教えてくれ」

「オスカー…」

オリヴィエがあきれたような声をあげる。

「そんなことなら自分で考えなさいよ。ルヴァに聞いたりしないで」

「いいんですよ、オリヴィエ」

「ルヴァ…」

「せっかくですから考えてみましょう。でも、私だけじゃなくてみんなで考えませんか。オスカーもね」

「俺もか？」

「ええ。しっかり考えたことがわかったら、説明してあげますから」

「そうだね。半分でも出来なきゃ教えてやることはないね」

「ええ、わたくしもそう思います。オスカー、頑張って考えてくださいね」

３人に見詰められ、オスカーは深いため息をついた。

問：４人の女性それぞれの目の色、服の色、飼っている小鳥の数を答えてください。

おわかりになった方は下のアイコンから解答ページにお進みください。
解き心地はいかがでしたか？