Q2


壮大な夕焼けを残して太陽が海に沈もうとするころ、残りの３人が到着した。
荷物を置き、楽な衣服に改めて、まずお茶になる。

「遅くなるかもしれないとおっしゃってましたから心配してましたけど、予定通りにいらっしゃいましたね」

お茶を勧めながら、ルヴァが嬉しそうに言った。
「ああ」とジュリアスが微笑む。

「オスカーのお陰で早く片付いた。それに、珍しくクラヴィスが早く行こうと急かすのでな」

「おや、そうでしたか」

「首座殿は勤勉だからな。付き合っているといつまでも出発出来ぬ」

面白そうにクラヴィスが言った。
ジュリアスは反論しようと口を開きかけたが、思い直したように口を閉じる。

「それは…お世話を掛けましたね、クラヴィス」

「いや…」

ルヴァとクラヴィスが何やら意味ありげに視線を交わすのを、ジュリアスは不思議そうに眺めていた。
ルヴァはオスカーともそっとうなずき合っているようだった。
何かあるのだろうか…とジュリアスは考えたが、思い当たるものはない。
妙に落ち着かない気持ちのまま、とりあえずお茶を飲む。


「お前ら、楽しい１日だったか。悪さはしてないだろうな」

「してませんよ、オスカー様」

からかうようなオスカーの問いに、ランディが生真面目に答える。

「そ〜そ〜。俺たちなんも悪いことなんてしてねーぜ。健全に海で遊んでたさ」

「ほう、そうか」

「そうですよ。オスカー様も明日は一緒に泳ぎましょうね」

「ああ。俺の華麗な泳ぎを見せてやるぜ」

少年たちと話しているオスカーは、自身もまるで少年のようだ、とリュミエールはクスッと笑った。

「あ、そうだ。オスカー様、この問題わかりますか」

ランディは、さっきゼフェルに出された問題をオスカーに出題した。
ゼフェルとマルセルは期待に満ちた目でオスカーを見詰めている。

「簡単だ。ちょっと待ってろ」

余裕を見せながら、さりげなく真剣に考えているオスカーを、大人たちは笑いを抑えて眺めていた。




ディナーの刻限となった。
食卓に着いて、では、と食事を始めようとするジュリアスを、ルヴァが止めた。

「ジュリアス、待ってください。まず、乾杯しましょう」

「乾杯？　それは構わぬが、何に乾杯するのだ」

「まあ、グラスを取ってください」

「あ、ああ…」

ジュリアスがグラスを持つと、ルヴァは嬉しそうに言った。

「ジュリアス、お誕生日おめでとうございます」

ルヴァの言葉に合わせて全員がジュリアスに向かってグラスを上げ、それぞれに祝いの言葉を述べた。
一瞬戸惑ったジュリアスの表情が、照れたような笑顔に変わる。

「今日は私の誕生日だったな。忘れていた…」

「あなたは自分のことは後回しになさいますからね」

ルヴァが優しく笑う。
ジュリアスに内緒でいろいろプランを練っていた８人は、食事の後、様々な方法でジュリアスのバースディを祝った。
嬉しそうなジュリアスを見ながら、ルヴァはそっとクラヴィスにささやく。

「クラヴィス、ジュリアスを間に合うように連れてきてくださってありがとうございました」

「いや…」

クラヴィスはフッと笑いを漏らす。

「１週間守護聖全員がいなくなっても大丈夫か、心配だったのだろう。ジュリアスは出発が明日になっても構わぬという態度ですべての状態を確認しようとしていたがな、オスカーと私で片っ端から確認済みのチェックをした…」

「おや、そうでしたか」

ジュリアスはきっと唖然としていたことだろう、と想像して、ルヴァもクスクスと笑った。
ジュリアスを囲んで、陽気な笑い声や歓声が続いている。
和やかな夜がゆっくりと更けていった。




「あ〜楽しかったねぇ」

「ええ、そうですね。ジュリアス様が喜んでくださってよかったです」

もう夜中に近い。
辺りはシンと寝静まっていた。
テラスで波の音を聞きながら、オリヴィエとリュミエールは静かにお茶を飲んでいた。

「まったく、ジュリアスは仕事の虫だからねぇ。たまには強制的に休ませないと。今回の休暇は時期的にちょうど良かったね」

「ええ…」

「おや、深夜のお茶会ですか」

不意に後ろから声が掛かった。

「ルヴァじゃない。あんたも寝そびれたクチ？」

「ルヴァ様、こちらへいらっしゃいませんか」

「ええ、ありがとうございます」

深夜のテラスで、いつもの顔触れでお茶を飲むことになる。
それがなんだかおかしかった。

「ねえ、ルヴァ」

「なんです？」

「何か物足りないと思ったらさ、今日はルヴァが問題を出してない」

「オリヴィエ…」

リュミエールが小さく笑う。
ルヴァも苦笑を浮かべた。

「実はね、さっきの場でジュリアスに出題しようかと思って準備した問題があるんですよ」

秘密めいてルヴァが笑う。

「でもあんまりお祝いっぽくないように思えたので、止めたんですけどね…解いてみます？」

言いながら、ルヴァはすでにポケットを探っている。

「もちろん、受けてたつよ。ね、リュミちゃん」

「ええ。ルヴァ様、どうぞ…」

「じゃあ…簡単な問題なんですよ」

ルヴァはテーブルの上に４枚のカードを並べる。
「赤いカード」「緑のカード」「○が描かれたカード」「△が描かれたカード」だった。

「えーと、この４枚のカードは片面が赤か緑で、もう片面には○か△のどちらかが描かれています。よろしいですか？」

オリヴィエとリュミエールが小さくうなずく。

「では問題です。

『すべての赤いカードの裏には△が描かれている』
これを確かめるためには、どのカードをめくればいいでしょうか。
確認するための最低の枚数と、どのカードをめくるのかを答えてください。

さあ、どうですか？」

言い終わって、ルヴァは満足そうに２人を見た。
オリヴィエとリュミエールは、テーブルの上の４枚のカードをじっと見詰めている。

問：確認するための最低の枚数と、どのカードをめくるのかを答えてください。

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