Q2

「ルヴァ！　今週の課題だ！　これでいーんだろ！」

「あぁ、はいはい。確かにいただきました。じゃあ、中は後でしっかり確認しておきますね」

「ちゃんとやってあるから、見なくったっていいぜ」

「そうはいきませんよ、ゼフェル」

「俺がやったって言ってんだからいーだろ。俺を信用しねーのか！」

「そういうことじゃありませんよ」

「何？どーしたの？」

突然掛かった声に、ゼフェルが振り向くと華やかな色の洪水が目に飛び込んできた。

「あ〜、オリヴィエ、リュミエール、いらっしゃい。いえ、何でもないんですよ」

「でも、ずいぶん大きな声が聞こえてきてたよ。またゼフェルが何か駄々こねてるんじゃないの？」

「なんだよ、その言い方は。俺ぁ駄々なんかこねてねーぞ」

「じゃあ、ルヴァに甘えてじゃれついてたってことか」

「バカヤロー！　そんなことするか！　もういーよ。　ルヴァ、ちゃんと提出したからな」

出ていこうとするゼフェルに、ルヴァが慌てて声を掛ける。

「ゼフェル、あなたもお茶をいかがですか」

「いらねー。てめーらはここで茶でも何でも飲んでな」

バタンと乱暴に扉を閉めて、ゼフェルは走り去った。
オリヴィエとリュミエールは改めてルヴァに挨拶してソファに座った。
いつもながらのティータイムが始まる。

「ルヴァ様、先程のゼフェルのこと、よかったんですか」

「え？　あぁ、構いませんよ。心配してくださってありがとうございます、リュミエール」

「ねえ、あれって、アレでしょ。ジュリアスに言われて、アンタにしごかれてるってヤツ」

面白そうにオリヴィエが笑う。
ルヴァは困ったようにほんのりと笑った。

「しごいてなんかいませんよ。いつもより少し余分に課題を出しているだけです」

「そう？」

「ルヴァ様、なんだか楽しそうでいらっしゃるのは…わたくしの気のせいでしょうか」

リュミエールに言われて、ルヴァは一瞬絶句し、リュミエールとオリヴィエを見回して「あははは」と小さく笑った。

「楽しい…そうですねぇ。ゼフェルはなんだかんだ言っても、要求しただけのことをムキになってやってきますからねぇ…楽しいかもしれません」

「おや、あっさり認めたね」

３人は顔を見合わせ、吹き出すように笑った。



「楽しそうだな」

ノックをして入ってきたオスカーは、３人の様子を見るとそう言った。

「何かあったのか？」

「いえ、何もありませんよ。視察はいかがでしたか、オスカー」

「ああ、別に何の問題もなく、無事に終わった」

「そうですか。それはよかったですね」

「ああ。ややこしい星はこりごりだぜ」

出されたお茶を飲みながら、オスカーはグチのように言った。

「そうだよね〜。アンタ、妙な星に行くこと多いもんね〜」

「嬉しそうに言うな。極楽鳥」

「オスカーはわたくしたちより視察に出る機会が多いですから、妙な星に行く確率も高い、ということでしょうね」

「そういうことだな。リュミエール、よくわかってるじゃないか」

「お〜や、行ったのがアンタじゃなきゃ苦労しないで済む確率も高いと思うけどね〜」

「オリヴィエ、それを言ったらオスカーが可哀想ですよ」

「ルヴァ、それ、フォローのつもり？」

陽気な笑い声が飛び交う。
視察を終えた開放感で、オスカーも楽しそうに笑っていた。


ゆったりとお茶を楽しみながら、これまでに視察で行った星の話になった。
様々な変わった風習の話に、驚いたり、笑ったり、賑やかに場は盛り上がった。

「ねぇ、ルヴァ」

ほとんど聞く側に回っているルヴァに、オリヴィエが声を掛ける。

「なんです？」

「ルヴァはそんなに外へ出掛けることってないけど、在任期間が長いんだから、けっこうあっちこっち行ってるんじゃない？」

「ええ、まぁ…そこそこ行ってるでしょうねぇ」

「なんか変わった話はない？」

「あ〜そうですねぇ〜」

湯飲みを抱えて、ルヴァは考える。
小首をかしげて考えている様子がなんとも可愛い、と３人はそれぞれに思っていた。

「私が行った星の中で、風変わりだといえば…そうですねぇ、こんな星がありましたよ」

「何何？」

「その星の人たちは、陳述をしないのです」

「は？　何、それ？」

オリヴィエが思わず間抜けな声で聞き返す。

「これはこうだ、とはっきりモノを言うことをしないんですよ」

「じゃあ、何を言うわけ？」

「質問です」

「はぁ…？」「え？」「何だって？」

今度は３人の声が重なった。

「質問しか口にしないのです」

「それは…変わった星だな…」

「ええ。しかも、外見からは見分けが付かない、２種類のタイプの人がいるんですよ」

「どういうことですか」

「仮にＡタイプとＢタイプとしましょうか。
Ａタイプの人は『はい』と答えられる質問しかしません。
そして、Ｂタイプの人は『いいえ』で答えられる質問しかしないのです」

３人は、ルヴァの言ったことを考えて、しばらく声もなかった。

「よくわからんな。つまり、どういうことなんだ」

オスカーが首をひねりながら尋ねる。
オリヴィエもリュミエールも同じような表情でルヴァを見た。

「つまり、ですね。Ａタイプの人は、たとえば『２たす２は４ですか？』という質問は出来ますが、『２たす２は５であるか』という質問は出来ないのです。逆に、Ｂタイプの人は、『２たす２は４か？』と尋ねることは出来ませんが、『２たす２は５であるか』とか『２＋２は６になるか』などということは言えるのです」

「変わった星なのですね」

「なんで、それで会話が成立するのかわかんないね。みんな、普通に生活してんでしょ？」

「ええ。そのときは短期間の滞在でしたが、機会があればじっくり研究してみたいと思いますよ」

「俺は…俺がそんな星に行かなくてよかったと思うよ」

オスカーのしみじみとした発言に、オリヴィエもリュミエールも真顔でうなずいていた。

「彼らの発言を考えると、なかなか面白いですよ。
たとえば、そうですね…
次の発言が可能かどうかわかりますか。

『私はＡタイプか』
『私はＢタイプか』

さあ、どうです？」

「え？　…ちょっと待って…。リュミちゃん、わかる？」

オリヴィエに視線を向けられて、リュミエールが考えながら話しだす。

「え〜と…
Ａタイプの人が『私はＡタイプか』と聞くのは答が『はい』ですから可能です。
Ｂタイプの人が『私はＡタイプか』と聞くのは答が『いいえ』ですから可能です。
ですから、どちらのタイプの人もこの質問をすることは出来ます。
ただし、どちらのタイプかを見分けることは出来ません」

「ええ、そうですね」

ルヴァの言葉に、リュミエールは不安そうな表情を少しやわらげて次を続けた。

「Ａタイプの人が『私はＢタイプか』と聞くのは答が『いいえ』ですから不可能です。
Ｂタイプの人が『私はＢタイプか』と聞くのは答が『はい』ですから不可能です。
ですから、どちらのタイプの人もこの質問をすることは出来ません」

「はい、よく出来ました。そのとおりですよ」

ルヴァがにっこりと微笑むと、リュミエールも嬉しそうな笑顔を浮かべて、ホッと緊張を解いた。

「では、こんな問題はいかがですか。オリヴィエもオスカーも考えてくださいね。

ここにムツキという姓の夫婦がいます。
ムツキ氏はムツキ夫人に『ねぇ、僕らはそれぞれ違うタイプかな？』と尋ねました。

さあ、この２人について、何がわかりますか」

ルヴァは微笑んで３人を見回した。
３人とも、まるで狐につままれたような表情だった。

問：ムツキ氏とムツキ夫人に関して、わかることを答えてください。
　　なぜ、そう言えるのかも説明してくださいね。

おわかりになった方は、下のアイコンから解答ページにお進みください。

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