Q1

「じゃあね〜ルヴァ」

「ルヴァ様、お邪魔いたしました」

挨拶を残して、オリヴィエとリュミエールがそれぞれの執務室へと戻って行く。

「明日もまた来てくださいね〜」

笑顔で見送って、お茶の道具をざっと片付けると、ルヴァは午後の執務に取り掛かった。



しばらく集中して書類を処理してゆくと、急ぎの分はあらかた片付いた。
処理済の書類を次に回すよう秘書官に指示をして、ルヴァはやれやれと伸びをした。

　（残りの書類は急がなくてもいいものばかりですから、ゆっくりやりましょうか…）

熱いお茶を淹れて一息ついているところへ、ノックの音がした。

「ルヴァ、少しよいか」

「おや、ジュリアス。どうぞ入ってください」

「うむ…」

「何かありましたか」

「いや、特に何かというわけではないが…」

「座ってください。とりあえずお茶をいかがですか」

「あぁ、すまぬ」



「それで、何があったんです？」

ゆったりとお茶を味わったあと、ルヴァは世間話のように切り出した。

「うむ…子供たちのことだ」

「ゼフェルが、また何かしましたか？」

心配そうな口調で尋ねるルヴァに、ジュリアスは面白そうに笑った。

「相変わらずだな、ルヴァ」

「はい？」

「子供たちのことというと、まずゼフェルの行動を心配するか」

「あぁ…いえ、そういうわけではありませんが…」

ルヴァは苦笑を浮かべる。

「ゼフェルももう充分一人前の守護聖なんですから、私がどうこういうことはないんですけれどね。何かあると、反射的に私の責任のような気がしてしまうんですよ」

「ゼフェルのことでは、そなたにずいぶん苦労を掛けたからな」

「いえ、私の力不足であなたにもご心配ばかり掛けてしまいました」

「いや…ゼフェルだけでなく、ランディやマルセルも合わせて、いつの間にか年少守護聖たち全員の責任者のようにしてしまったからな。すまぬと思っている」

「その言葉だけで充分ですよ」

微笑んで湯飲みのお茶を飲み干すと、ルヴァは改めてジュリアスを見詰めた。

「で、そんなことをわざわざ言いにいらっしゃったわけではないのでしょう。子供たちがどうしたというんです？」

「本当にたいしたことではない。ちょっと暇が出来たのでな、子供たちの学習状況のことを確認しようと思ったのだ」

「あぁ、そうでしたか」

安心したように、ルヴァは笑った。

「３人ともよくやっていますよ。まぁ、もう少し意欲的に学んでくれたら、と思うときもありますけれどね…」

「そうか…」

「遊びたい盛りでもありますし、守護聖としての務めを果たしながらということもありますから、あまり無理なことは言いませんが」

「守護聖である以上、務めは仕方があるまい。それでも学ぶべきものは学んでもらわねば困る。容赦なくビシビシと叩き込んでくれ」

「はぁ…」

「そういえば、少し前に試験をしたと言っていなかったか？」

「よく覚えておいでですね。ええ、しましたよ」

「結果はどうだった」

「あ〜そうですねぇ…マルセルはどの科目も順調に理解しています。ランディは…あ〜…一生懸命努力してますよ」

「ゼフェルは？」

「ゼフェルは…能力は高いんですけれどねぇ…どうしてもムラがありますねぇ」

「ムラ？」

「興味を持ったものは頑張るし、出来もよいのですが、興味がないものは…あの…」

口ごもるルヴァに、ジュリアスは苦笑交じりにため息を漏らす。

「なるほど…あれらしいな」

「はあ…」

「だが、好き嫌いを通していては済むまい。能力があるならあるように、努力を怠らないようにせねばならぬ」

「えぇ…」

「よし。ルヴァ、ゼフェルに改めて試験を受けさせよ」

「はい？」

「各科目ごとに目標得点を設定させ、目標を達成出来るよう学習させるのだ」

「はぁ…」

「ゼフェルが不満を言ったら、私の館にエアバイクで突っ込んで温室の一角を荒らした代償だといってやれ」

「ジュリアス…」

「大丈夫だ。ゼフェルにはケガはなかったぞ」

「はぁ…」

やっぱりそんなことをしていたんですね、と、ルヴァはため息をつく。

「代償云々は冗談だが、試験のことは冗談ではない。ゼフェルには地道な努力をさせる必要がある」

「わかりました…」

ルヴァはもう一度ため息をついた。


試験のことを知らされて、ゼフェルは腹を立てたが、光の館の温室の件を指摘され、更に、尻尾を巻いて逃げるようなら思い切り笑ってやる、というジュリアスの伝言を聞いて、試験を承知した。

「ジュリアスのヤローに笑われてたまるか。受けて立ってやらぁ！」

闘志を燃やすゼフェルの姿を見て、ルヴァはまたため息をついた。





翌週の土の曜日、試験は実施された。
採点が済んだころ、ジュリアスはルヴァのもとを訪れた。

「ルヴァ、ご苦労だったな」

「いいえ…」

「で、結果はどうであった」

「ええ、１００点満点の試験を５科目行いました、
合計３８０点でしたよ」

「３８０点か」

「目標点の合計は４００点だったんですけどね」

「詳しく聞かせてくれ」

「ええ。

目標点は５科目全部違う点数でした。
宇宙構造学の目標は１００点だったんですけれどねぇ、結果として１００点だった科目はありません。
宇宙構造学は亜空間力学より５点少なかったです。
亜空間力学は目標より１０点良かったんですよ。
汎用言語学概論だけが目標通りで、目標より良かったのは亜空間力学だけです。
汎用言語学概論と小宇宙間通商史は合わせて１２０点しかありませんでした。
結果だけを見ると、汎用言語学概論と辺境宇宙生物学が同じ点数で、あとは同じ点数のものはありませんでした。
一番良く出来たのは亜空間力学ですね。この科目は目標でも２番目でしたけど。
辺境宇宙生物学ではありませんが、目標より１５点も低かった科目があるんですよ。
ああ、点数はすべて５点きざみでした」

「ルヴァ…」

「はい？」

「そなた、私を試すつもりか」

「あ、いえ…そんなつもりはありませんが…」

「まぁ良い。ゼフェルの成績はわかった。しばらく課題を増やして学習させてくれ」

「そうですね。今回の成績があまり良くなかったことは本人もわかっていますから、この際しっかり努力してもらいましょう」

「ああ、そうだな」

２人は顔を見合わせ、苦笑しながらうなずき合った。

問：各科目の目標点と結果は何点だったでしょうか？

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