Q2

「おや！」

と、面白そうにオリヴィエが言った。

「あの…」

困ったように、リュミエールが視線を外す。

「なんだよ」

挑戦的な眼差しで、オスカーが２人を見る。

「オスカー、どうしたんですか、それ…」

お茶を淹れ終わったルヴァが、ごく素直に疑問を表した。
その無邪気な言い方にオスカーの頑なさが少し和らいで、わずかに苦笑がこぼれる。

「手形…のようですねぇ」

ルヴァはしげしげとオスカーの頬を眺めながら言った。
オスカーの頬には、明らかに手形とわかる跡が鮮やかに付いている。
返事に窮するオスカーを見て、オリヴィエが笑い出した。

「今更かっこつけようったってムダだよ。さぁ、何があったのか、包み隠さず話しな」

「別に話すことなんてないぜ」

「何言ってんだか。そんな跡付けてわざわざお茶飲みにくるってことは、私たちに聞いて欲しいことがあるんでしょ。聞いたげるから、どこでどんな悪さをしてひっぱたかれたのか、とっとと白状するんだね」

「うるさいな。そんなんじゃない。ただ…ちょっと１人でいたくなかっただけだ」

「おや…なんだかまるで傷つきやすい少年のようだね。…ま、いいよ。いじめたりしないから、話したくなったら話しな」

珍しくあっさりと追求の手を止めて、オリヴィエは乗り出していた身体を戻した。
イスの背にゆったりと体重を預け、お茶を飲む。
リュミエールがそっと「オリヴィエ、優しいですね…」とささやく。
オリヴィエは照れたように笑った。


考え込むように黙ってお茶を飲むオスカーをそのままにしておいて、３人はいつものように四方山話に花を咲かせる。
やがて、オスカーが「女は…わからんな…」とぼそりとつぶやいた。
３人の視線がオスカーに集まる。

「何だって？」

聞こえたものが信じられなくて、不審そうにオリヴィエが尋ねる。

「女は謎だってことだ」

そのまま、オスカーはぽつりぽつりと昨夜の出来事を語り始めた。
女性の扱いには長けているはずのオスカーが、相手の予想外の行動に振り回された話を、同情するべきなのか、笑ってしまえばいいのか、聞き手の３人は戸惑いながら聞いていた。

話し終わって、オスカーは力の無いため息をついた。
これは、そっとしておいた方がいいようだ、と３人は目線で語り合った。

「まったく、どこまでいっても女というものはわからん存在だな…」

最後のダメ押しのようにオスカーが言った。
リュミエールとオリヴィエはいたわるような笑みを浮かべながら声をかける。

「ええ、そうですね。わからないからこそ、惹かれあうのかもしれませんね…」

「ま、わからないってところがいーんでしょ。謎めいたところが魅力な場合もあるし。男を惑わす『魔性の女』なんてね〜」

軽い冗談のようにオリヴィエが言うと、オスカーが反応するより前にルヴァが『魔性の女…』とつぶやいた。
オリヴィエとリュミエールが「え…？」と振り向くと、ルヴァが何やら面白そうに笑っていた。

「何よ、ルヴァ。どーしたの？」

「え？」

「何笑ってるの？」

「あ…私、笑ってましたか？」

「笑ってたよ。…『魔性の女』に何か思い出があるってこと？」

「あ、あの…いいえ…」

「へぇ〜。女性には縁がありません、なんて顔して、ルヴァもけっこうおもしろい過去がありそうだねぇ」

「違いますよ。私が笑ったのは子供の頃のことを想い思い出したからです」

「子供の頃って、守護聖になる前？」

「ええ。前に何度かお話ししましたけど、私のいとこのアーマドのこと覚えてます？」

「ん？　覚えてる、覚えてる。ルヴァにいろんな問題出してたいとこのお兄ちゃんでしょ」

「ええ。そのアーマドが、ある問題の中で言ったんですよ。

　４人の乙女のうち１人は魔性の女で、常にウソをつく

ってね。まだ小さかった私は、それで魔性の女というのは、ウソをつく女の人のことだと思い込んでしまったんですよ。本当の意味を知ったときにはずいぶんびっくりしました」

「何、それ。さすがのルヴァも小さいときにはたわいない間違いをしてたってこと？」

そう言ってオリヴィエは愉快そうに声を上げて笑った。
ルヴァは苦笑を浮かべ、リュミエールはいとしそうな笑顔でルヴァを見詰めた。
オスカーまでも、微笑を浮かべていた。

「ねぇねえ、それで、その問題ってどんなのだったの」

「はい？」

ルヴァはきょとんとした顔でオリヴィエを見返す。

「そのときアーマドが出した魔性の女が出てくる問題、どんな問題だったの」

「あぁ〜。なるほど。…えーと、ちょっと待ってくださいね…」

ルヴァは頭の中で整理し始める。
オスカーが「おい、オリヴィエッ」と焦ったような声をあげる。
そんなオスカーの様子に、オリヴィエもリュミエールも、楽しげな笑顔となった。
整理の終わったルヴァが、ゆっくりと話し始める…

「こんな問題でした。

ここに４人の乙女がいます。
１人は魔性の女で常にウソをつき、ヘレナとあと２人は心清らかな娘で常に真実を語ります。
４人は皆黒いベールをまとっていますが、そのうちの２つは魔法のベールで、それをまとっている者は、心清らかな娘でもウソをつきます。
４人は皆金の腕輪をしていますが、そのうちの２つは魔法の腕輪で、魔法のベールの効力を無にします（でも、魔性の女のウソに対する効き目はありません）。
４人は次のように語りました。

　アミーナ「ファラは魔法のベールをまとっています」
　ファラ　「ヘレナは魔法の腕輪をしています」
　ハーミア「ヘレナは魔法のベールをまとっています」
　ヘレナ　「ファラは魔性の女です」

さて、どの２人が魔法のベールをまとい、どの２人が魔法の腕輪をしているのでしょう？
また、誰が魔性の女なのでしょう？

という問題なんですが、いかがですか？」

ルヴァは３人を見て、にっこりと微笑んだ。

問：誰が魔法のベールをまとっているか、誰が魔法の腕輪をしているか、誰が魔性の女なのか、を、答えてください。

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