Q1

聖地の中枢は、このところずいぶん騒がしい。
王立研究院と聖殿の間には、頻繁に連絡が取られ、
研究員も守護聖さえも、緊張の面持ちで忙しく走り回っていた。

新たな星系が発見され、聖地との交流が始まったためであった。
女王の恵みは届いていたが、女王の存在も聖地の存在も知らぬままに、独自の文明をゆったりと築いている星系であった。
運命のいたずらでか、存在を知られることなく過ごしてきた星系が、偶然の働きで発見されることになって、その星系でも、聖地でも、驚きと喜びが満ちていた。

豊かな文明を育みながら、まだ他の星系への移動段階に達していなかったその星系に、聖地から多くの使者が使わされた。
女王の意思を携えて、守護聖自ら現地を訪れる機会もあった。



「よう、相変わらずここはのんびりしてるな」

「おや、オスカー、久し振りだねぇ」

「例の星系に行っていらしたのでしょう？」

「お疲れ様でしたね、オスカー。ジュリアスへの報告はもうお済みですか？」

地の館を訪れたオスカーに、いつものようにお茶を飲んでいた３人が次々と声を掛ける。

「あぁ、たった今ご報告してきた」

疲れたようにイスに腰を下ろすオスカーに、「お帰りなさい」とお茶のカップが差し出される。


「で、あちらはどうでした？」

好奇心いっぱいの顔つきでルヴァが尋ねる。

「あぁ、そうだな。文化が独特っていうか、変わったところが多いみたいだ。だが、まぁ女性は綺麗だったな」

「何、それ。いかにもアンタらしい感想だね」

からかうようにオリヴィエに言われて、「何だよ」とオスカーは拗ねたように言った。

「俺は真面目に話してるんだぜ」

「つまり、そこの人々は見目が良かったということですね」

とりなすようにリュミエールが口を挟む。

「…あぁ、そうだ。女性だけじゃなく、男性も見栄えのするのが多かった」

オスカーは３人の顔を見回して、真面目な顔で言った。

「人が住む惑星が７つばかりあったんだが、どの星の人間もみんな整った外見をしていた。まぁ、俺ほどじゃないがな」

「最後の冗談はともかくとして」

得意げなオスカーを容赦なく切り捨てて、オリヴィエが言う。

「なかなかいい感じの星だったってことだね」

「あぁ、酒も料理もなかなかのものだったぞ」

「へぇ〜」

「さっき文化が独特っておっしゃってましたよね。例えばどんなふうなんですか」

話題を本筋に戻すように、ルヴァが尋ねた。

「あ、あぁ、それは…う〜ん…王立研究院が詳しいレポート作ってたから、そっち見てもらった方が正確だと思うぜ」

「つまり、わざわざ聖地からお出掛けあそばした炎の守護聖様は、オンナの子の顔と、酒と料理しか認識してないってことなんだね。アンタらしいわ」

呆れたようにオリヴィエが言う。オスカーは「うるさい」と小さく吠えた。

「あぁ、そんな堅苦しく考えなくっても、あなたが実際に出会った出来事を話していただけたら、それで充分ですよ」

「俺が出会ったことか…そういや変な奴らに会ったぜ」

オスカーの言葉にルヴァの目が輝いた。

「どんな人たちなんです？　話してください、オスカー」

「うん。公式に接触した要人たちは別に変わったところはなかったが、街へ出たときに…」

「街へ出たんですか？」

「あ、あぁ。目立たない服装に着替えて街を歩いてみたんだ。星の状態を直接肌で感じることは重要だからな」

「もっともらしいことを言うんじゃないよ。街ったって目的は酒場かどっかのくせに」

「オリヴィエ…そんな本当のことを…」

笑いだすオリヴィエとリュミエールに、オスカーはじろりと視線を飛ばす。
ルヴァは「あははは…」と苦笑を漏らしてから改めて質問した。

「で、そこで何があったんです？」

「あぁ、俺は…まぁつまり酒を飲めるところを探しながら、街をぶらぶらしてたんだ。街一番の繁華街だって言われた通りも歩いたぜ。でも、ずいぶん落ち着いたおとなしい通りだったな。繁華街ってより商店街って言った方が当たってると思ったぐらいだ」

「おや、そうでしたか。それで、酒場はあったんですか」

「あぁ、まぁ…居酒屋程度のものしかなかったがな」

オスカーは３人の顔を眺め回してから話を続けた。

「そこで俺が飲んでいると、５人の男が声を掛けてきたんだ。外からの来訪者かって聞くから、そうだと答えると、自分たちもそうなんだと言った。何人かはサイラス、何人かはラパンの人間だと」

「あ〜、サイラスとラパンというのは、その星系にある有人の惑星の名でしたねぇ」

「そうだ。しかし、どう見ても誰がどちらの星の人間かはわからなかい。で、聞いてみたんだな。誰がどっちの星の人間なんだってな。そうしたら…」

「そうしたら？」

「ルヴァ、あんたがそこにいればよかった。やつらは当ててみろっていったんだぜ」

「へぇ〜、突然そんなことを言うなんて、確かに変わってるねぇ」

「どうやって当てろというのですか」

「あ〜そうですねぇ〜、何かヒントがないと当てるのは無理ですからねぇ〜」

「あぁ、もちろんヒントがあったさ。やつらはそれぞれ名乗ってからこんなふうに言ったんだ。

パル「ポルとプルのうち、１人だけがサイラス人だよ」
ポル「プルとファルのうち、１人だけがラパン人だよ」
プル「ファルとパルのうち、１人だけがラパン人だよ」
ファル「プルとフィルのうち、少なくとも１人はサイラス人だよ」
フィル「パルとポルのうち、１人だけがサイラス人だよ」

４人は真実を話しているが、１人はウソをついているんだそうだ。
それぞれがどちらの星の人間か、うまく当てたら１杯おごろう、間違えたら全員に１杯ずつおごってくれって言われた」

「なるほどね。ルヴァ向きの星だわ、それは」

「それで、オスカー、あなたはどう答えたのです？」

「まさか、スラスラと解いた、なんてことはない、よね？」

「お前ら、俺を見くびってるだろ」

「では、ちゃんと答えたのですか」

びっくりして見詰めるリュミエールに、オスカーはフンと笑った。

「オスカー、アンタ、まさか…ウソでしょ？」

「俺にわかるわけあるか。どうしようかと思ってたら、後ろから肩を叩かれてな」

「誰に？」

「振り返ったら顔なじみの研究員だった。護衛を兼ねてこっそり付いてきてくれてたと後で聞いた。
で、彼がな、『やぁ、オスカー、どうかしたのか』ってさりげなく会話に加わってきて、
『そんな問題なら君の手を煩わせることもない。俺で充分だ』って、代わりに答えてくれたんだ」

「すごい。まるで正義の味方だね」

オリヴィエが感心したように声をあげて笑った。

「ルヴァ様、どうかなさいましたか」

会話に加わらず、ぼうっと考えにふけっているようなルヴァに気が付いて、リュミエールがそっと尋ねた。

「え？　いえ、どうもしませんけれど、面白い星だと思いましてね…」

ルヴァの頭の中では、もうとっくに問題は解けているようだった。

問：５人がそれぞれどちらの星の人間かを答えてください。
どう考えたのかも書いてくださいね。

では第２問へどうぞ　⇒⇒