Q2

聖殿の廊下を歩いていたオリヴィエは、ふと振り向いて、後ろから聞こえてくる軽い足音の主を待った。

「はぁい、ルヴァ」

「あぁ、オリヴィエ…」

「さっきリュミちゃんと執務室覗いたんだよ。留守だったね」

「あぁ、それはすみませんでしたねぇ。急に王立研究院に行く用事が出来てしまって、急いで行ってきたんですよ」

「そうだったんだ。用事はもう終了？」

「ええ」

「んじゃ、お茶にしない？」

「え？　あぁ、そうですね。ちょっと遅くなりましたけれどお茶にしましょうか。羊羹のいいのがありますよ」

「ＯＫ。じゃ、リュミちゃん誘ってすぐに行くからね☆」

「はい。お待ちしてます」




穏やかな午後の日差しは既にかなり傾いている。
地の執務室では、３人がいつもと同じように、ゆったりとお茶を飲んでいた。

「今日は急ぎの案件もなかったし、ヒマだなぁ〜って思ってたんだけど、ルヴァはけっこう忙しかったみたいだねぇ」

「わたくしも、今日はゆったりとしていました。」

「ええ、私も予定としてはヒマなはずだったんですけどね…」

ルヴァは苦笑めいた笑いを浮かべる。

「急な用事って言ってたよね。何か事件でも起こった？」

「いえ、そうじゃないんです。今日はヒマになりそうでしたから、この間から気になっていたことをちょっと調べてみようと思ったんですよ。そうしたら、研究院にあるデータがどうしても見たくなってしまって…」」

「気になって、というのは、先日発掘された、例の惑星の遺跡のことですか」

「お見通しですね。その通りです」

「遺跡って…　ああ、この間そんな話もしてたっけ。気になってたことってどんなこと？」

「ええ。あの遺跡には興味深い特徴が見られるんですよ―――」

ルヴァは嬉しそうに話し始めた。



「…ということなんですね」

話し終わったルヴァはやっぱり嬉しそうだった。
話の内容はともかく、ルヴァが嬉しそうにしている様子を見ていることは楽しかったから、
オリヴィエとリュミエールもにっこりと微笑んでいた。


お茶のお代わりをして、まったりと時が過ぎていった。

「あ〜ヒマっていいよね〜」

「オリヴィエ、突然どうしたんです？」

「リュミちゃんもそう思わない？　ヒマな時間があって、こんなふうにゆっくりお茶が飲めるって嬉しいって」

「ええ、確かにこうした時間が持てるのは嬉しいことですね。この間までかなり忙しかったですから」

「そうだよねぇ、忙しかったよねぇ。　ねぇ、ルヴァ」

「は、はいっ？」

急に話を振られて驚いたように、ルヴァは湯飲みから口を離してオリヴィエを見た。

「どうかしましたか？」

「うん。この間までやけに忙しかったのには何かわけがあるんじゃないかって思ってさ。ルヴァ、何か知ってるんじゃない？」

「あぁ、そのことですか」

「何何ィ？　やっぱり何かあるのォ？」

「嬉しそうですねぇ、オリヴィエ。何もありませんよ」

「ホントにィ〜？」

「本当ですよ。この間まで忙しかったのは、ただ純粋に忙しかったんです」

「ふぅん…　ねぇルヴァ、それならなんでそんなふうに笑ってるのさ」

「え？」

「さっきから、楽しそうに笑ってる」

「私…笑ってましたか？」

驚いたようにルヴァは２人の顔を見た。
オリヴィエとリュミエールがうなずくのを見て、ルヴァは苦笑を浮かべる。

「そうじゃないんです。私が笑っていたのは、そのときの数値で面白いことがあったからなんですよ」

「面白いこと、ですか？」

「えぇ」

「何なの、それ？」

好奇心を露に見詰めてくる２人に、ルヴァは逆に質問を返した。

「その忙しかったときに、どのくらいの案件を処理したか、覚えてます？」

「え、処理した案件の数？　そんなの覚えてないよ。リュミちゃん、わかる？」

「いいえ、わたくしも覚えてはいませんが…　ルヴァ様、それがどうかしたのですか？」

「ええ。　さっき研究院で面白いデータを見ましてね。つい統計を取ってしまった研究員がいたんですよ。まぁ、数えるというのは観察の第一歩ですし、何かを研究しようとする人には、無意識のうちに目の前のものを数えるのが癖だっていう人も多いですからね。あぁ、そういえば、こんな話もあるんですよ…」

「ルヴァ！　で、どんなデータを見付けたの？」

どこかへずれて行きそうになるルヴァの話を、オリヴィエが元の軌道に戻す。

「え？　あぁ、それはですねぇ、各守護聖が処理した案件がどれくらいあったのかを週単位、月単位でまとめた統計だったんですよ。それで、先月と先々月、この２ヶ月間はオリヴィエが言うとおりずいぶん忙しかったですが、どのくらいの案件を処理したのだろうかと見てみましたらね」

「どのくらいだったの？」

ルヴァはふっと笑って２人を見る。

「そうですねぇ。あなた方お２人、そして子どもたち３人の５人が処理した案件は、合わせて５００でした」

「合わせて？」

妙な予感を感じてオリヴィエが聞き返した。
楽しそうに笑って、ルヴァは話し続ける。

「えぇ、合わせて５００でした。いちばん多かったのはオリヴィエ、あなたです。いちばん少なかったのはマルセルでした。２人の差はちょうど１００でしたね。
案件の数は、偶数が１人、奇数が４人でしたが、全員５の倍数でした。
リュミエールの数からランディの数を引くと７５になります。
１００を越えていたのは３人です。
誰かの数を３倍するとリュミエールの数になります」

一気に言い切って、ルヴァは呆然と聞いている２人ににっこりと微笑んだ。

「ね、面白いデータでしょう？」

本当に面白がっているルヴァの様子に、オリヴィエとリュミエールはそっと肩をすくめてため息を漏らす」

「あ〜やっぱりそうきたか…つまりそれを解けってことだね」

「いえ、そうは言いませんけどね…」

ルヴァはまだ楽しそうに笑っていた。

問：ルヴァの話から、５人が処理した案件の数を答えてください。

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