Q1

「あ〜今日はいいお天気ですね〜」

空を見上げて、のんびりとルヴァがつぶやいた。
聖地の空は美しく晴れ渡り、爽やかな風はこのテラスにも吹き通ってほんのりと花の香りを運んできている。

「えぇ、本当に、気持ちの良い日ですね」

微笑んでリュミエールが応える。

「けっ、何がいいお天気だ。聖地はいつだってバカみてーに晴れてるじゃねーか」

呆れたような口ぶりでゼフェルがつぶやく。

「まぁまぁ、ムキにならないの。何にしろ今日がいいお天気だってことは間違いないんだからいーじゃない」

楽しそうに笑いながらオリヴィエが言う。

「相変わらずいーかげんなヤツだな」

オスカーがフッと笑った。

いつもながらのやりとりに、マルセルとランディは目を見合わせてクスッと笑う。

何もかもが穏やかで平和な、土の曜日の午後だった。


館の中から時計の時を打つ音が響いてきた。
皆、なんとなくその数を数え、数えている自分に気が付いて苦笑する。

「まったく、レトロっちゃレトロだよねぇ、アンタの趣味は」

「え？　何のことです、オリヴィエ」

「あの時計。あぁやって時を打つ時計、それも大きな振り子時計なんてさ、主星じゃ博物館にでも行かなきゃ見られないよ」

「そうですか？　でも私はあぁいう時計が好きなんですよ。時を打ってくれれば本を読んでいても時刻がわかりますしね」

「はっ」

ゼフェルが大きく笑いを漏らした。

「ルヴァ、おめー、本読んでるときなんて近くで大砲撃ったって気がつかねーのに、時計の音なんて聞こえんのかよ」

「あぁ、そりゃそうだ」

オスカーが大きな声で賛同し、おかしそうに笑い、他の人々も皆笑った。
ルヴァさえも、「そんなことないですよぉ〜」と言いながら笑っていた。

「それにしても悠長なもんだよね。ゆったりと時の打つのを数えるってのはさ」

「そうだよな。文字盤見りゃ一目で何時だかわかるもんな」

オリヴィエの言葉にオスカーがうなずく。

「でも、わたくしたちはそれほど忙しい生活をしているわけでもありませんし、一見無駄なものこそが文化だと、わたくしは思いますが…」

「ふ〜ん、リュミちゃんはルヴァの肩を持つってわけだね」

「別に、肩を持つわけではありませんが…」

「僕もああいう時計は好きですよ、オリヴィエ様」

「おや、一番若いマルセルちゃんが古風なコト言うね」

「僕の家にもありました。大きな柱時計でしたけど。小さい頃は、あの時計が幾つ鳴ったらおやつの時間だとか、幾つ鳴ったらもう寝なくちゃいけないとか、そんなふうに生活してましたよ」

どこか遠いところを眺めるように、マルセルはちょっとはにかんで言った。

「あ、俺んトコのガラクタ置き場に古い振り子時計があるぞ。壊れてっけどよ、おめーが欲しいんなら直してやろーか」

「ホント？　うん、僕欲しいな。直してみてよ、ゼフェル」

「あぁ」

「すごいな、ゼフェル。時計なんて直せるんだ」

「あったりめーだ。俺様に直せねーモンはねーぞ」

少年たちの会話を、大人たちは微笑んで見ていた。

しばらくすると、時計が一つ鳴って、さっきから３０分経ったことを知らせた。

「そうそう、オリヴィエ…」

何か思いついたらしく、笑いをなんとか抑えたような真面目な顔でルヴァが呼びかける。

「あの時計が６時を打つのに３０秒かかるとしたら、１２時を打つのに何秒かかるかわかりますか」

オリヴィエはフフンと笑った。

「そんなの６０秒に決まってるじゃない」

言い切って、ルヴァの顔を見たとたん、オリヴィエは「あ！」と叫んだ。

「あ、違う！　ルヴァ、今のナシだよ、ナシ！　正解は…」

「もう遅いですよ、オリヴィエ。見事に引っ掛かりましたね」

ルヴァは愉快そうに笑っている。

「しまったなぁ…私としたことが油断したねぇ」

オリヴィエは苦笑を浮かべる。
リュミエールも静かに笑っている。
オスカーはそっとリュミエールの袖を引いて「どこが間違ってるんだ？」とささやいた。
少年たちの中でも、首を傾げるランディとマルセルに、ゼフェルが手帳を破った紙に図を書いて説明していた。

「まったく、ルヴァには気が抜けないんだから…」

「すみません。でも、ちゃんと引っ掛かってくださって嬉しいですよ」

ルヴァはまた嬉しそうに笑った。

「ほら、笑ってないで。どうせならもう少し問題出したら？」

「はい？」

「他にもあるんでしょ、問題」

「えぇ…まぁ、ね」

オリヴィエに正面から見詰められて、ルヴァは困ったように返事をした。

「じゃあ、ちゃっちゃと言って」

「はぁ…それじゃ…」

ルヴァはちょっと考える。
みんな、どんな難問が出てくるかと、ルヴァを見守っていた。

「やっぱり振り子時計なんですけど、一つ時を打ってから次に打つまでの間隔が５秒だとします。いいですか？」

ルヴァは周りを見渡す。皆、ルヴァを見ながらうなずいた。

「では、２つ聞きますね。一つ目、その時計を聞いてで６時だとわかるには何秒かかるでしょう。二つ目、同じくその時計を聞いて１２時だとわかるには何秒かかるでしょう」

言い終わって、ルヴァは「どうです？」という表情で皆の顔を見た。

「それさっきと何か違うのか？」

「２つ…って…え、？」

あちらこちらから、戸惑いの声があがった。
ルヴァはにこにこと微笑みながら、それ以上は何も言わずゆっくりとお茶を飲んでいる。

しばらくして、リュミエールが「あぁ…」と納得したようにうなずいた。

問：この時計の音を聞いて６時と１２時がわかるにはそれぞれ何秒かかるでしょう。

　　　どう考えるのかもお答えくださいね。　


では２問目へどうぞ…　⇒⇒