Q2
「さぁ、じゃあ今日の講義はここまでにして、お茶にしましょうか。あぁ、ディナーも食べていってくださいね〜」

ルヴァの言葉に、少年たちは「はぁ〜」と大きく息をついてノートやペンを片付け始めた。

「まったくよぉ、もう少しゆったりと教えてくれたっていーと思うぜ」

「うん、俺、付いてくのに必死だよ」

「２人とも、予習してきてないから大変なんだよ」

「何だと。マルセル、１人だけいい子ぶってんじゃねーぞ」

「いい子ぶってなんかいないよ。当たり前のことでしょ」

「あ〜そうですねぇ。予習と復習はぜひやっていただきたいですねぇ」

ルヴァがにこにこしながら言うので、ゼフェルは「チェッ」と乱暴にカバンの中に用具を放り込んだ。



席を移し、お茶を飲みながら気ままな雑談となる。

「ルヴァ様、これ、ありがとうございました」

マルセルがカバンの中から本を取り出してルヴァに差し出した。

「どうでした、面白かったですか」

本を受け取りながらルヴァが尋ねる。マルセルがにっこりと笑った。

「はい、とっても」

「え、何だい、マルセル。何を読んだんだ」

「これですよ、ランディ。あなたも読んでみますか」

ルヴァから渡された本の表紙を見て、ランディは首を傾げる。

「どうしたんだよ、ランディ。何の本なんだ」

ゼフェルが覗き込む。

「うん。このタイトル、どういう意味だろうと思って」

「何だぁ…『注文の多い料理店』？　何だよ、これ。料理屋のガイドブックか」

「もう、ゼフェルもランディも何言ってるの。これは小説だよ」

「へぇ〜。小説かぁ。やっぱり料理の話なのか？」

「料理屋で何かが起こるって話だ、違うか？」

「う〜ん、確かに料理店が舞台だし、料理にまつわる話っていえばそうなんだけど…」

マルセルは苦笑しながら、ルヴァを見た。

「あ〜そうですねぇ。確かに料理に関係はしてますねぇ…」

「何だよ、２人して妙な笑い方しやがって。いったいどんな話なんだよ」

「う〜ん、百聞は一見に如かずといいますからね。自分で読んでみるのがいいんじゃありませんか」

「うん、それがいいよ。ランディもゼフェルも読んでみて。ゾクゾクしてドキドキするよ」

「へ？」

「ひょっとして…怖い話なんか？」

「うん」

「マルセル、怖い話は苦手だったんじゃないのか」

「うん。怪談なんかは苦手だけどね。でも、これは怖いけど面白かったよ」

「ふぅん…」

ランディとゼフェルは不思議なものを見るように、その本を見詰めた。

「その作家は短編をたくさん書いていますけど、ちょっと変わった感じのお話がいくつもありますから、いくつか読んでみるといいですよ。私は、好きな作家の一人ですねぇ」

「へぇ…んじゃまぁ読んでみるかな」

ゼフェルが本をカバンにしまう。

「面白かったら、後で俺にも回してくれよ」

「あぁ」

少年たちのやりとりを見ながら、ルヴァは嬉しそうだった。




「ここのディナーもうまいけどよ」

食事をしながらゼフェルがふと言い出した。

「どうかしましたか、ゼフェル」

「さっきの本じゃねーけどよ、たまにはレストランみたいなところで豪華な料理もいいなーって思ってさ」

「ゼフェルにしちゃ珍しいこと考えたんだね」

マルセルが笑う。

「いーじゃん、別に。なんてーか、たまにはむっちゃ豪華なモン食ってみたくねー？　まぁ、作法がどうのマナーがどうのなんてのは願い下げだけどさ」

「俺は別に豪華な料理じゃなくてもいいよ」

「あぁ、てめーはハンバーガーで満足できるヤツだからな」

「それ、なんだか馬鹿にしてるように聞こえるんだけど」

「大正解だぜ。バカにしてるに決まってんだろ」

「ゼフェル！」

「あーもう、食事のときくらい静かにしてよ、２人とも」

「お〜や、ディナーの最中もにぎやかだねぇ〜」

突然の華やかな声に、皆驚いたようにそちらを見た。

「あ〜オリヴィエ、よくいらっしゃいました」

「うん、ちょっと届けるものがあってね。これ、明日までに見といて」

言いながら書類の入っているような角封筒を手渡す。

「あぁ、それはお手数を掛けましたね。ありがとうございました。ついで、といっては何ですけど、あなたもご一緒に召し上がっていかれませんか」

「ありがと、ルヴァ。でも自分ちで食べてきたから…そうだね、お茶だけお相伴しようかな」

勧められた席に腰を下ろして、オリヴィエは少年たちを見回した。

「で、何の話でそんなに盛り上がってたのさ」

「あ、始まりは僕がルヴァ様からお借りした本だったんです…」



一通りの顛末をきいたオリヴィエはニッと笑った。

「その話なら私も読んだことあるよ。うん、面白かったね」

「ホントか、オリヴィエ」

「ホント。面白いよぉ。でも…」

「でも、何だよ」

「想像力とか感性とかが鈍いと面白さがわかんないかもね」

ゼフェルとランディは思わず顔を見合わせた。探るように見詰め合う。
オリヴィエが陽気に笑った。

「そんな心配しないで、とにかく読んでみることだね」

「あ、あぁ、そーだな」

２人は不安げにうなずいた。



「そういえばさ、その話に出てくる店とは全然違うけど、妙なレストランに出会ったことがあるよ」

お茶を飲んでいたオリヴィエが、ふと思い出したように言った。
ルヴァと少年たちは、何なのだろう、と、興味深げにオリヴィエを見た。

「どんなお店なんですか？」

マルセルが尋ねる。

「うん。そのレストランにはねぇ、メニューが７つしかなかった。どれもとびっきり美味しいけどね」

「たった７つですか！」

ランディが驚いた声を上げる。

「そう。７つだけ。でも、妙だってのはそのことじゃないんだ」

オリヴィエは楽しそうに笑った。

「メニューは７つ、えーと、伊勢海老のスープ、甘鯛のカルパッチョ、鴨のソテー、生湯葉のサラダ、イチジクのふろふき、ミントのゼリー、タルトタタン。そして、注文するときにやっかいな決まりがあったんだよ」

「決まり、ですか？」

「そう。こんなふうにね。

１．ミントのゼリーを注文するときは、イチジクのふろふきも注文しなければいけない。
２．生湯葉のサラダを注文しないなら、伊勢海老のスープを注文してはいけない。
３．ミントのゼリーを注文するなら、甘鯛のカルパッチョを注文してはいけない。
４．伊勢海老のスープと鴨のソテーは、そのどちらかを注文した場合、もう一方も注文しなければいけない。
５．甘鯛のカルパッチョを注文しないなら、生湯葉のサラダを注文してはいけない。
６．タルトタタンを注文するなら、イチジクのふろふきを注文しなければいけない。
７．甘鯛のカルパッチョを注文しないなら、タルトタタンを注文してはいけない」

「はぁ…？　なんだ、そりゃ」

「それが、その店での注文のルールだったんだよ」

「わがままな店だな…。そんなんじゃ食いたくねーものまで頼むことにならねーか」

「まぁね〜」

「そんな無茶が出来るって、つまりそれだけ美味しい店だってことですか」

「うん、そういうことなんだろうね」

「そうなんだ…」

少年たちは、どんなに美味しいのだろうか、と、想像してうっとりとなった。

「あ〜、面白いお店ですねぇ、オリヴィエ」

「そうでしょ、ルヴァ」

「えぇ」

ルヴァは少年たちに向かって、にっこりと笑った。

「あなたたち、今のオリヴィエの話がわかりましたか」

「ん？　あぁ。それがどうかしたか」

「ではね、このお店で３品注文するとしたら、何通りの注文方法があるかわかりますか」

「何だって？」

「え〜、また問題なんですかぁ」

「ルヴァ、あんたって…」

当惑する少年たちを見回し、オリヴィエは楽しそうに笑った。

問：このレストランで３品注文するとしたら、何通りの注文方法があるでしょうか。可能な組み合わせを答えてください。

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