Q1

「お茶のお代わりはいかがですか」

お茶のポットを手にしたルヴァが訊ねる声に応じて何人かがカップを差し出した。
空は夕焼けの色を失い、そろそろ星の光が目立ち始める頃である。

「宵闇のお茶会、なんてのもたまにはいいねぇ」

きれいにマニキュアを施した指先でカップをもてあそびながら、オリヴィエが言った。

「そうだな。どっちかというとお茶よりもアルコールの方がありがたいけれどな」

美味しそうにカップのお茶を飲み干しながら、オスカーが応える。

「それはもっと夜が深くなってからでよろしいでしょう」

たおやかにリュミエールが微笑んだ。

「俺も酒の方がいいな…」

ぼそりとつぶやいたゼフェルの声はしっかりと全体に響き渡って、ルヴァが「ダメですよ、ゼフェル〜」と声を上げる。
マルセルとランディはリュミエール手作りのパイを食べるのに忙しい。

夕暮れの名残のような風が吹き抜けていった。
庭のそこかしこから虫の音が聞こえてくる。

熱いお茶を味わいながら、ルヴァは微笑んでふぅ…と息をはいた。



「どしたの、ルヴァ。さっきからなんだか思い出し笑いしてない？」

オリヴィエの指摘に、皆ルヴァを見詰める。

「そんなことないですよ。そんな…みんなして見ないでくださいよ〜」

「ルヴァ様、何を考えていらっしゃったのです？」

「あ…いえ、たいしたことじゃないんですよ。ただ、ふっと故郷のことを思い出したんです」

「故郷って、砂漠の惑星でしょ。この風景とどうやって結び付くのよ」

「砂漠の昼間はひどく暑いし、夜は夜でうんと冷え込むのですけれど…」

ルヴァは遥か遠くに視線を投げて微笑んだ。

「日が沈んでから夜になるまでのわずかな間は、程よい気温で風もさわやかで、よく星を見ながらお茶を飲んだりしていたんです。小さい頃、父方のいとこのアーマドがいろんな話をしてくれたのも、そんな時でした。そんなことがね、なぜだか突然浮かんできたんですよ」

「いとこのお兄さんか。いい男だった？」

オリヴィエの問いにルヴァは苦笑を浮かべた。

「さぁどうでしょう…。そんなふうに見たことはなかったですからねぇ…。冗談が好きで明るい人でしたけれど」

「ルヴァのいとこだったら、やっぱり頭いいんだろーね」

「よくモノを知っていてたいそう賢い人でした。幼い私には父親の次に尊敬する人でしたよ」

「へぇ〜。そんな人がいたなんて初耳だね。リュミちゃん、妬けない？」

からかうようなオリヴィエの視線を、リュミエールはさりげない笑みで受け止めた。

「そういえば、彼にはよくパズルの問題を出されたものです」

「今のルヴァと一緒じゃない」

オリヴィエは面白そうに笑った。

「でも、アンタのことだから、どんな問題でも解いちゃったんでしょ」

「えぇ、まぁ…。その度に彼は悔しがって、次こそはわからない問題を出してやるぞって言ってました」

「へぇ〜」

何人かの視線がゼフェルを見る。

「なっ何だよ。何で俺を見るんだよ」

うろたえるゼフェルに、マルセルはさらりと言った。

「だから僕、ルヴァ様に挑戦するの、もうやめなよって、いつも言ってるのに…」

「うっせーな。俺はルヴァに解けない仕掛けをぜってー作ってやる。覚悟しとけ！」

指を突きつけられて、ルヴァは困りましたねぇというように笑った。

「ねぇルヴァ、何かその頃の話を聞かせてよ」

「あぁ、俺も聞きたいな。ルヴァ、何か話してくれよ」

オリヴィエとオスカーが言うと、他の者も同意の表情でルヴァを見た。


しばらく目を閉じて何かを考えていたルヴァが、静かに目を開けにっこりと笑って一同を見回した。

「じゃあ、少しお話しましょうか」



「あるとき、ちょうどこんなふうに気持ちの良い風の吹く夕暮れでした。遠くの町に出掛けていたアーマドが帰ってきて、私と弟はやっぱりこんなふうにお茶を飲みながら、彼の話を聞いていたんです。町で見つけたいろいろなモノのことを話してくれた後、彼はこんなことを言ったのです…


「なぁ、ルヴァ、俺は面白いヤツと友達になったぞ。どう面白いかってのは今度また話してやるけど、そいつ、イブンには３人の子供があるんだそうだ。で、俺はその３人の年齢を聞いたんだ。

イブンは「彼らの年の積は３６だ」と言った。
俺が、「それだけではわからない」と言うと、イブンは「彼らの年の和は、君の年と同じだよ」と言った。
俺はしばらく考えたが、それだけではまだわからなかった。
そう言うと、イブンは「私の息子は、姉妹２人より１つ以上年が上だよ」と言った。
それで俺には彼らの年齢がわかったんだ」

そうして、アーマドはニィッと笑うと、「さぁ、ルヴァ、イブンの３人の子供の年齢を当ててみな」と言ったんです」


ルヴァは、言葉を切ってお茶を飲んだ。

「確かにアンタのいとこだわね、そのアーマドってのは」

あきれたようにオリヴィエが言った。誰もが心の中で強くうなずいていた。

「で、その話の続きはどうなったんだ？」

じれたようにオスカーが訊ねるのに向かって、ルヴァは楽しそうに微笑んだ。

「アーマドはそれだけしか言いませんでした。というところで、イブンの３人の子供の年齢がいくつなのか、考えてみませんか」

「結局、またこのパターンか…」

オスカーが情けなさそうにつぶやいた。

「そのとき、ルヴァ様は答えがおわかりになったのですね」

「えぇ、リュミエール。私はその問題を解くことが出来ました。アーマドはとっても残念がってましたよ」

遠い記憶をいとおしむように、ルヴァは微かな微笑を浮かべた。

問い：イブンの３人の子供の年齢はいくつでしょう。
　　どう考えたのかも答えてくださいね。

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