Ｑ２

「あれ、ルヴァ…いないの？」

「留守ってこともないだろう。ほら、お茶の用意がしてあるぜ」

「今日はどこへもお出掛けの予定はないと思いましたが…」

「でもいないわよ、ほら」

「おかしいですねぇ…」

「まぁ、用意もしてあることだし、お茶にしないか。ノドが渇いた」

「え、でも…ルヴァ様のお留守に勝手にそんな…」

「ま、いいじゃない。勝手知ったるナントカってね」

庭の方から回ってきた中堅組３人は、無人のテラスの前でしばらく躊躇していたが、やがてオスカーとオリヴィエがテラスに上がりこみ、小さなため息を洩らしたリュミエールが後に続いた。


「それにしても、ルヴァはどこに行ったんだろうな」

ティーカップを傾けながらオスカーがつぶやいた。

「うーん、ここでお茶を飲みながら、本を読んでいたか読もうとしていた…ってところは間違いないんだけどねぇ…」

テーブルの上を指差してオリヴィエが言った。
確かに、いつもルヴァが座っている席の前には、お茶の入った湯飲みと数冊の本が置いてある。

「お茶を飲もうとして、何かを思い出して取りに行ったんじゃないか」

「うん、そんなところだろうね」

「探してきましょうか」

「あ、そうだね。リュミちゃんが一番勝手がわかってるしね…」

「オリヴィエ…」

微かに頬を染めて、リュミエールは立ち上がった。

「ルヴァを見つけたら、すぐに戻ってこいよ」

からかうように言ってオスカーがウィンクを贈る。

「襲ったりするんじゃないぞ」

「わかってますっ」

怒ったようにツンと顔を逸らした様子が可愛いと言ってオスカーとオリヴィエが笑う。
リュミエールは無言で２人の横を通り抜け、室内へと入っていった。

「…っ…」

「おや、オスカー何してんの」

「リュミエールのヤツ…通りすがりに俺の足踏んでいきやがった…」

「リュミちゃんもやるわね。純情なコをからかったりするからだよ」

「誰が純情だって？　それに、からかったのはお前が先だろ」

「それは、まぁ、日ごろの付き合いの差ってことかしらね〜」

「言ってろ」

「さてと、お茶のお代わりでも淹れようか…」



「つい時間を忘れてしまって…すみませんでしたねぇ…」

戻ってきたルヴァが、すまなさそうに微笑む。
リュミエールが探しにいってから、それほど時間は経っていない。
オスカーは、席に戻ろうとするリュミエールに、「遅かったな…」とささやいて、今度は肘で頭を小突かれた。

「さっき本を読んでいましたら、その中に出てきたような置物をこの間手に入れたのを思い出しましてね…探していたんですよ」

ルヴァは小さな包みを取り出して中身を出した。

「ぅわぁ！すっごい綺麗じゃない！」

すかさずオリヴィエが手に取ってしみじみと眺める。
塔のある城を模したその置物は螺鈿をちりばめた手の込んだ細工がなされている。
よく見ると２箇所が取っ手になっていて、小さな引き出しが２つ隠れていた。

「へぇ〜物入れになってるんだね」

「えぇ。こんな小さな引き出しですから、大きいものは入れられませんけれどね」

「指輪とか、宝石なんか隠すのにいいかもね」

「えぇ。まさにそういう使われ方をしたらしいですよ」

美しい工芸品ともいえるその置物を囲んで、ひとしきり話が弾む。


「そういえば…」

何杯目かのお茶をお代わりしながら、ルヴァが言った。

「こういう２つ引き出しがある物入れがいくつかあると、いろいろパズルが出来るんですよ」

「またパズルか…」

オスカーが困ったようにつぶやく。

「そんなに嫌がらなくても、よく考えさえすれば簡単な問題ですよ」

「あぁダメダメ。オスカーみたいな脳みそまで筋肉で出来てるようなヤツは考えることが出来ないんだよ」

「オリヴィエ、デタラメ言うな！」

「へぇ〜。じゃぁ、アンタは考えることが出来るってんだね」

「当たり前だ」

「ＯＫ！んじゃルヴァの問題を聞こっか」

「あ！…」

しまった！とオスカーが悔しがる。
苦笑しながら、ルヴァが話し始めた。

「まず簡単なものからいきましょう。こんなふうに引き出しが２つ付いたケースがあるとします。引き出しの１つにダイヤモンド、もう１つの引き出しにはエメラルドが入っています。さて、どちらかの引き出しを開けたときにダイヤが入っている確率はいくつか、わかりますか」

「それくらいわかるぜ。入っているのはダイヤかエメラルドかどちらかだ。２つに１つってことは、確率は２分の１だってことだ。どうだ、ルヴァ」

「その通りです、オスカー。よくわかってるじゃありませんか」

褒められて、オスカーは嬉しそうな微笑を浮かべた。

「では問題です。ここに引き出しが２つ付いたケースが３つあるとします。１つのケースはどちらの引き出しにもダイヤが入っています。１つのケースはどちらの引き出しにもエメラルドが入っています。３つ目のケースは１つの引き出しにダイヤが、もう１つの引き出しにはエメラルドが入っています。いいですか？」

３人は神妙な顔付きで頷く。

「さて、今３つのケースの中から１つを選んで、引き出しを開けたらダイヤが入っていました。そのケースのもう１つの引き出しにもダイヤが入っている確率はいくつでしょう」

「え、ちょっと待ってくれ、なんだって…」

オスカーが慌ててメモ用紙を探す。後の２人は暗算で答が出たようだった。ルヴァを見てにっこりと笑う２人に微笑を返して、ルヴァはゆっくりとお茶を飲み干した。

問：もう１つの引き出しにもダイヤが入っている確立はいくつでしょう。
　　考え方も書いてくださいね。
おわかりになりましたか？
答が出た方は下のアイコンから解答ページへお進みください。