Ｑ２


クラヴィスが光の執務室に入ったとき、ジュリアスは机の上の書類に集中していて、周りは何も見えていないようだった。
クラヴィスはそっと近付いて、その耳元にささやいた。

「ジュリアス…」

「ぅわぁっ！…なんだ、クラヴィスではないか。突然何をする」

「私はただ…お前に呼びかけただけだが…」

「黙って入ってきて、いきなり耳元に息を吹き掛けるやつがあるか！」

「近付いても気が付かないお前が悪い…」

「何っ」

思わず立ち上がってクラヴィスを睨みつけたジュリアスは、一つ深呼吸すると、再び腰を下ろした。

「どうした」

「そなたの相手をしている暇はない」

「ほぅ…」

クラヴィスは面白そうにジュリアスの手元を覗き込んだ。

「今日の案件にそれほどやっかいなものがあったとは思わぬが…」

「やっかいというわけではないが、これだけの書類が回ってきている。これを片付けてしまわないと…」

「なるほど、さすがに首座殿は勤勉なことだな」

「ヒト事のように言うな。そなたのところにも同じくらい行っておろう」

「そうだったかな…」

「まったくそなたというやつは…」

はっきりとため息をついたジュリアスは、その時間も惜しいというように、書類に目を落とす。

「なぜ、そう急ぐのだ」

「何を言う。今日は金の曜日だぞ。終わらせてしまわねば来週に持ち越してしまうではないか」

「週末だけではあるまい。お前はその日の仕事を残すのがイヤなのだ。子供の頃からそうだった」

「悪いか。今日するべきことは今日のうちに済ますのが当然であろうが」

「片付かなかったものは次に回せばよい。本当に緊急のものさえ処理しておけばそれでかまわぬだろう」

「そうはいくか」

「いく…」

「呆れたやつだ…」

ジュリアスは間近に立つクラヴィスを見上げる。

「それで、何か用だったか」

「いや、用というほどのこともないが…今夜のディナーの約束を覚えているかどうか確認にきた」

それは口実で、単にジュリアスの顔が見たかった、などとは言わないまま、クラヴィスは軽く微笑んでジュリアスを見詰めた。

「確認などせずとも、ちゃんと覚えている。だからこうして…」

ジュリアスははっと口をつむった。
そのために、今日は絶対に残業はしたくないと思って、急いで書類を片付けているのを知られるのは悔しかった。

「どうした。だからこうして…何だ」

「何でもない。とにかく覚えている。それで文句はなかろう」

「あぁ、文句はないな…」

むきになって書類を読んでいるジュリアスの頬が、微かに赤く染まっているのを見て、クラヴィスは愛しそうに微笑んだ。
そっと片手を伸ばして、ジュリアスの顎をすくい上げ、その唇に軽く口付ける。

「では、まぁ頑張って仕事を片付けるのだな」

「言われずとも片付ける。そなたも戻って自分の職務を遂行せよ」

「やれやれ、生真面目な首座殿だ」

クラヴィスは手持ち無沙汰そうに机の正面に回ると、ジュリアスの前に積み上げられた、未処理の書類をパラパラとめくり始めた。

「何をしている。自分の仕事をせぬか」

「ほほぅ、これはなかなか面白い報告書だな」

「ヒトの書類で遊ぶな。…なにが面白いのだ」

「これだ」

「これは…ここで処理するものではないぞ」

「あぁ、間違って紛れ込んだのだろうな。これはルヴァが子供らに課したレポートのようだ。だが、興味深い内容だ」

「何なのだ…」

「うむ、休憩を取って気分転換するにはいいかもしれん。来い」

クラヴィスは、ジュリアスの手を取って椅子から立ち上がらせ、ソファへといざなう。

「何をする。…まぁ、一休みしてもいい時刻だが」

「茶でも淹れて、その２つのレポートを見てみろ」

「結局、自分が茶を飲みたいだけではないのか」

ぶつぶつ言いながら、ジュリアスは紅茶の準備をする。
紅茶のいい香りが執務室に漂う。

「で、何だというのだ」

「その２枚のレポートは同じ状況でまとめられたものだが、２枚の内容が一致しているかどうかわかるか」

「何？」

ジュリアスは２枚のレポートを見比べる。

「これは、ゼフェルとマルセルが書いた、庭園の花園での蜂の観察記録だな。ルヴァはなぜこんなレポートを書かせたのだ」

「さぁな。見たものを正確に記録する練習ではないのか」

「しかし、見事に違う観点で書かれている。２人は同じ時に一緒に観察したらしいが…」

ジュリアスは興味を持ったらしく、熱心に２枚のレポートを読み始めた。


ゼフェルのレポート
・１４匹の蜂は黄色く、残りは茶色だった。
・１２匹は雄。
・１３匹は大きく、残りは小さかった。
・黄色い蜂のうち５匹は雄。
・黄色い蜂のうち４匹は大きい。
・雄蜂のうち大きいのは３匹。
・黄色くて大きい雄蜂は１匹だけ。
・どの蜂も、大きいか、黄色いか、雄かのどれかだった。
マルセルのレポート
蜂の半分はクローバーに、１/４はタンポポに集まっていました。
１/７の蜂はクロッカスが好きでした。
どの花へ行くか決められないで、空を舞っている蜂が３匹いました。
花園にいた蜂はそれで全部です。


「いかにもそれぞれの性格が出ているが、これがどうしたと」

「その２つのレポートの内容が一致しているかどうか、比べてみよ」

「内容が一致しているかどうかだと…。これほど内容が違うものをどう比べよというのだ」

目を上げると、クラヴィスが笑みを浮かべて見詰めていた。

「わかった。共通する項目を探して比べてやろう。もし疑わしい事実が出てくるようなら２人を呼んで叱責してやる」

ジュリアスは真剣にレポートを読み返す。
その様子を見ながら、むきになっているジュリアスはなんて可愛いのだろう、とクラヴィスは考えていた。

問：２つのレポートは同じ時に書かれたものと見てよいでしょうか。
　　こういう点で２つのレポートは一致している。あるいは一致していないと、証明してください。

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