【№１４５】


　Q1



土の曜日の地の館は、いつものようにまったりとお茶会が開かれていた。

「あ～今日もいいお天気ですねぇ～」

湯飲みを手に、ルヴァは嬉しそうにうんうんと笑顔でうなずいている。
お茶の席に同席しているオリヴィエやリュミエールは、晴れ渡った空に視線を向けた。

「ま、聖地はいつだっていいお天気なんだけどね」

愉快そうにオリヴィエが笑う。

「でも、気持ちいいよね～。故郷にいるころはこんな穏やかな日はめったになかったな…」

オリヴィエが故郷のことを口にするのは珍しい。
リュミエールは、不思議そうにオリヴィエを見詰めた。

「私の故郷は砂漠でしたからねぇ。太陽は苛烈で恐ろしい存在でした。こんなふうに柔らかで優しい日差しなんて想像もできませんでした。本の中に『日向ぼっこ』という言葉を見つけて不思議に思ったことがありましたよ」

ルヴァも故郷のことを語りだした。
今日は変わった日だ、とリュミエールは思った。

突然、妙にしっとりと落ち着いた雰囲気を打ち破るように元気な足音が響き、オスカーが姿を現した。
散文的な日常が戻ってくる予感に、リュミエールは安堵とも落胆ともつかないため息をついた。




「昨日、王立派遣軍に行ってきたんだが…」

お茶を飲み干すと、オスカーはぼそりと言った。

「何か、困ったことでも起こりましたか」

オスカーの表情を窺いながらリュミエールが尋ねる。

「いや、困ったことってわけじゃない」

「では何があったのですか」

「うん…。派遣軍のやつら、近いうちに体力強化のための競技会をするらしい」

「競技会、ですか」

リュミエールは思わずオリヴィエと顔を見合わせた。
わずかに肩をすくめると、オリヴィエはオスカーに言った。

「それならなんで浮かない顔してるのさ。体力バカのあんたには楽しい企画じゃない。それとも誘われなくって拗ねてるっての？」

からかうようなオリヴィエの口調にもオスカーはいつものように反発してこない。
オリヴィエとリュミエールは、再び顔を見合わせた。
少しして、オスカーは小さくつぶやいた。

「馬とか剣とかならよかったんだがなあ…」

「何の競技に参加するのです？」

リュミエールが尋ねる。

「…８００ｍと１５００ｍだ」

「中距離２つか。あんた、走るの苦手だっけ？」

訝しげにオリヴィエが言う。

「苦手ってこともないが、あんまり好きじゃない」

「いいではないですか。普段全力で走る機会などあまりないのですから、良い気分転換になるのではありませんか」
「そうそう。ランディなんか、しょっちゅうどっかの競技会に顔出しちゃあ走ってるよね～。あんたも負けずに走ってくりゃいいじゃない」

「そう簡単にいくか。俺にも対面ってもんがある」

「どういうことです？」

「つまり、あんたは炎の守護聖の名にかけて負けられないって暗くなってるってことだね」

「ああ、そういうことですか」

オリヴィエの解釈で納得がいったというように、リュミエールはオスカーを見てうなずいた。

「なんだよ、２人とも…」

「かっこつけなくっても、無心で走ってくればいいじゃない」

「かっこつけてるわけじゃない。わけじゃないが…」

オスカーはカップに口を付けたが、既に飲み干していたことに気付いて、カップをテーブルに置いた。

「あいつら、おれに勝つために中距離に強いメンバーを揃えてきやがった。挑戦されて黙ってるわけにはいかんだろう。…クソッ、剣か馬だったら良かったのに」

「それでは仕方がありませんね。全力を尽くして走ってくるしかないでしょう」

「そうそう。リュミちゃんの言うとおりだよ。頑張るしかないね。覚悟を決めな」

「気楽に言うなぁ…」

「当日は応援に行って差し上げますから」

「いいねえ。私も応援に行ってあげる。ついでにランディたちのお子様組も連れていこうか」

「お前ら、面白がってるな」

オスカーはジロリと同期の２人をにらむ。
オリヴィエは声をあげて笑った。

「まあ、たまには相手に花を持たせることも必要ですよ」

中堅たちの会話を楽しそうに聞いていたルヴァが、クスクスと笑いながらお茶のお代わりを差し出す。

「ルヴァ、俺が負けるって決めてるな」

「おや、だから沈んでいるんじゃないんですか」

オリヴィエがまた笑った。

「負けないように頑張るさ。それでいいんだろ」

オスカーは大きくため息をついた。



「じゃあ、頑張って走るオスカーを励ますために、徒競走の問題でもお出しましょうか」

湯飲みを手に、ルヴァがサラリと言った。

「は？　何だよ、それ」

戸惑うオスカーの姿に、オリヴィエは楽しそうに笑う。

「さすがルヴァだね。オスカー、身体を鍛える前にまず頭を鍛えなってさ」

「オスカー、ルヴァ様のご好意ですから、しっかり考えてくださいね」

「リュミエールまで笑うな。あぁ、またいつもの展開だ。ホントにもう…」

オスカーはガックリと肩を落とした。

「わかった。ルヴァ、問題を言ってくれ」

「よろしいですか。じゃあ、始めますね」

ルヴァはふわりと笑った。

「４人の少年が競走をしました。
そうですねえ、名前はアダムス、ビリー、クリス、ダニエルとしましょうか。
次のヒントから４人の順位を答えてください。

アダムスは、ビリーに追い抜かれましたが、クリスを抜きました。
ビリーは、ズボンのお尻が破れているのを、クリスを含む２人に見られました。
クリスは、一時はトップにいました。
ダニエルは、途中で転びましたが、２人追い抜きました。

さあ、わかりましたか、オスカー」

「あ、ああ…ちょっと待ってくれ」

オスカーは真剣な顔で考え始めた。
オリヴィエとリュミエールは顔を見合わせてクスッと笑った。
　　
　　問：４人の順位を当ててください。

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