【№１３９】

Q1

土の曜日、地の館ではいつものようにまったりとお茶会が開かれていた。

「それで、どうだったの？」

お茶の合い間に、突然オリヴィエが尋ねた。
ルヴァは「はい？」と首を傾げる。

「え～と、何のことです？」

「ガキどもだよ。あいつらルヴァの出した課題にちゃんと答えてた？」

「ああ、あのことですか。ええ、ちゃんと正解していましたよ」

「へえ～すごいじゃない」

「どうやら３人で協力して解いたようですね」

「おや。それじゃあマルセルあたりが頑張ったってとこだね」

「ええ、そうでしょうね」

「それでもいいの？」

「ええ。３人で助け合うことはいいことですからね」

「なるほど…」

オリヴィエは面白そうに笑うと、リュミエールに「ルヴァらしいね」とささやいた。
リュミエールも「ええ」と微笑む。

「仲が良いということは本当にいいことですからね」

「うん、ま、あいつらはなんだかんだ言っても仲いいもんね～」

うなずき合う２人にルヴァはふわりとした笑顔を向ける。

「あなたたちも仲がいいでしょう？」

「え？　リュミちゃんと私のこと？」

「ええ。それとオスカーと」

「オスカー？」

「ええ」

「やめてよ。リュミちゃんと２人ならともかく、オスカーと一緒になんてしないでよ」

「だって、同期でしょう？　あなたたち３人はそれぞれの足りない分をうまく補い合っていて、いい仲間だと思いますよ」

「オスカーとぉ？」

オリヴィエが思いっきり不審そうな声をあげたとき、「俺がどうしたって？」と声が掛かった。
フフンという笑顔でオリヴィエが振り向く。

「おや、オスカー。あんたも来たの？」

「ああ。聖殿の警備の新しいシフトを決めてきた。新人がかなり入ったからな、けっこう厄介だったぜ」

「オスカー、お疲れ様でしたね。どうぞ掛けてください。今お茶を淹れますね」

「ああ、ルヴァ。すまんな」

どっかりとソファに腰をおろしたオスカーを、オリヴィエは値踏みするような眼差しで見詰める。
オスカーはジロリをオリヴィエを見返した。

「なんだよ。何見てるんだ？」

「ん？　まあ、力仕事の部分はあんたが担当してくれるかな～って考えてるとこ」

「なんだ、そりゃ…」

オスカーは救いを求めるようにリュミエールを見た。

「オリヴィエのヤツ、どうしたんだ？」

「ルヴァ様が、わたくしたち３人がそれぞれ足りないところを補い合っているとおっしゃったんです」

「補い合って、か。それで、力は俺っていうのか」

「そーだよ。あんたは肉体労働、私とリュミちゃんは頭脳労働」

「補い合うってそういう意味じゃないだろ？」

「それ以外にないじゃない」

「だって、頭なら俺だって使ってるぞ」

「そう？」

「ああ」

「ふ～ん…」

「なんだよ」

「ホントに頭使ってる？」

「使ってるさ」

「じゃあ、証明してよ」

「何をだ」

「あんたの頭が働いてるってこと」

「ああ、証明してやろうじゃないか。どうすればいいんだ」

オスカーは挑戦的にオリヴィエを見返す。
まんまとオリヴィエに乗せられていくオスカーを見て、リュミエールは密かにため息をついた。

「どうするって…」

オリヴィエはお茶を淹れ終わったルヴァに向かってにっこり微笑んだ。

「ねえ、ルヴァ」

「はい？」

「オスカーが難しい問題解きたいっていうから、何か問題を出してやってよ」

「ええ、いいですよ」

「おい、オリヴィエッ！」

ようやくオリヴィエの思惑に気が付いて、オスカーは悲鳴のような声をあげる。

「こうなってはどうしようもないですよ、オスカー。あきらめてルヴァ様の問題をお解きなさい」

リュミエールがにっこりと笑う。
オスカーは肩をすくめて小さくため息をついた。

「わかった。解けばいいんだろ、オリヴィエ。解いてやるさ」

「いい覚悟だねえ。じゃあルヴァ、うんと難しいヤツ出してやってね」

「ただし…」

「何？　何か条件でもつけたいの？」

「ウソツキだの正直者だのなんていう妙な問題じゃなく、現実にありそうな状況で、ちゃんと計算すれば答が出るような問題を出してくれ」

「なんなの、その条件は…」

オリヴィエは呆れたようにオスカーを見詰めた。
ルヴァは笑顔で「いいですよ」とうなずいた。

「じゃあ、普通に計算できるような問題にしましょうね」

「ああ。それなら答えてやるぜ」

「では、いきますよ。

『時速１８キロで進んでいる船が、正面にある大きな崖に向かって汽笛を鳴らしたら、４秒後にその汽笛のこだまが返ってきました。
音速を毎秒３４０メートルとすると、汽笛を鳴らしたとき船と崖との間は何メートル離れていたでしょうか』

どうですか、オスカー。これは単純な計算の問題ですよ」

「さあ、オスカー。サクサクと答えてもらおうじゃない」

「あ、ああ。ちょっと待て。今計算する」

そう言いながら、ペンを持ったオスカーの手はメモ用紙の上で止まったまま動かない。
オリヴィエは楽しそうにオスカーの様子を見詰める。
ルヴァとリュミエールは、そっと心配そうな視線を交わした。

問：船と崖の距離を求めてください。どう計算したかも説明してくださいね。