さて第２問です

【№１３７】

Q2

新しい女官たちの噂話も一段落したころ、元気な足音と共に、少年たちがやってきた。
たちまち賑やかさを増した中で、ルヴァは楽しそうにお茶を淹れる。
森で遊んできたという少年たちに、ルヴァは茶菓子だけでなく軽食もいろいろ用意させた。
食べながら飲みながら、少年たちは様々なことを話し続ける。
少年たちの話はあちらに飛びこちらに飛び、次々と話題を変えて盛り上がっていた。
予想外の展開を繰り広げる話を、大人たちは面白く聞いていた。

「ねえ、オスカー様」

突然マルセルがオスカーに向かって言った。

「ん、なんだ？」

「オスカー様は川でボートを漕いだことがありますか？」

「川でボート…？」

森の木に登る話をしてたんじゃないのか、と戸惑いながらオスカーは答えた。

「もちろんあるさ。士官学校の訓練でもやったしな」

「池でボート漕ぐより大変ですよね」

「ああ、そりゃそうだ。流れがあるからな。急流をさかのぼるのはけっこう骨だぞ」

「ね。大変なんだよぉ」

ゼフェルとランディに向かって、マルセルは得意げに胸を張った。

「ああ、わかったわかった。おめーはすげーよ。俺はそんなボートなんて漕いだことねーや。俺の育ったところにはそもそも川なんてもんは無かったしな」

少し乱暴な口調でゼフェルが言った。
どうやら、ここへ来る前にマルセルが故郷にいる頃川でボートを漕いだという話をしたようだ。
それがどれほど大変なことかというマルセルの主張がゼフェルにはうまく伝わらなかったということらしい。
自然豊かな土地で育ったマルセルに比べて、工業惑星出身のゼフェルは経験してきたことがずいぶん違う。
大人たちはちょっと心配そうにゼフェルを見ていた。
その大人たちの心配も知らぬげに、フフンとゼフェルは笑った。

「その代わり、クルマの流れに乗ってバイク飛ばすのは得意だったぜ」

「それは僕には無理だよ。バイク乗れないんだもん」

「俺もバイクは乗れないよ。ボートはせいぜい公園の池くらいだし。やっぱり俺は自分の足で走るのが一番好きだな」

「おめーらしいや」

少年たちは屈託なく笑い合っている。
大人たちはホッとしたように、笑みを浮かべていた。

「でね、僕はお父さんとボートで川をさかのぼっていたんだけど、うっかりして帽子を飛ばしてしまって、しかも必死で漕いでたからすぐには気が付かなかったんだ。あっと思った時には、もう帽子はうんと川下を流れてて、ボートを引き返して帽子を追い掛けてもなかなか追い付かなかったんだよ」

マルセルは改めてボートの話をし始めた。

「そうか、川は流れてるもんな。帽子もどんどん流れていっちまうんだ」

「うん、そうなんだよ、ゼフェル。流れていっちゃうから追い付くのが大変なんだ」

「そうかあ。川下のものを追い掛けるのは大変なのかぁ…」

マルセルの話にゼフェルもランディも感慨深そうにうなずいていた。
少年たちの話をニコニコして聞いていたルヴァが、我慢しきれないように口を開く。

「あ～今マルセルが言ったような状況に関する問題があるんですよ。簡単な計算の問題ですから、解いてみませんか」

少年たちは、突然のことに驚いてルヴァを見詰めた。

「なんで問題なんか解かなきゃなんねーんだよ」

ゼフェルが抗議するような声をあげる。
オリヴィエがクスッと笑った。

「おや、問題を出されて逃げ出そうとするんだ」

ゼフェルの顔にカッと朱が走る。

「なんだと！　俺がいつ逃げ出したよ！」

「逃げないの？」

「逃げるもんか。おら、ルヴァ！　さっさと問題出せ！」

ゼフェルは挑戦的にルヴァを見詰める。
オリヴィエはそんなゼフェルを見てクスクスと笑った。

「ゼフェルったら…」

マルセルが小さなため息をつく。
ルヴァは楽しそうに少年たちを見詰めると、問題を話し始めた。

「さっきマルセルが言ったように、ボートで川をさかのぼっているときに帽子を飛ばしたとしましょう。
気が付いてボートの向きを変えたときには、帽子は３キロ下流を流れていました。
そこからボートを漕いで帽子を追いかけます。
ボートの速さは流れの無いところで時速３キロ、川の流れが時速２キロとすると、
帽子に追い付くまでどれだけの時間が掛かるでしょうか。
さあ、考えてください」

ルヴァはにっこりと笑って少年たちを見回した。

「川の流れが時速２キロってことは、帽子はその速さで流れてるってことだよな？」

「ボートの速さは何キロだっけ？」

「３キロだよ。時速３キロ」

少年たちはワイワイと賑やかに問題を考えている。
ルヴァは満足そうにうなずいて新しいお茶を淹れ始めた。

「ちょっと、オスカー」

「なんだよ、オリヴィエ」

「他人事みたいにしてるけど、もちろんこれ解けるんだよねえ」

「当たり前だ。ガキどもと一緒にするなよ」

「ふうん。じゃあ答えてよ。何時間掛かるの？」

「あ…ちょっと待て」

オスカーは慌てて考え始める。
いつもながらの２人のやり取りを、リュミエールは微笑みながら見守っていた。

　　　問：ボートが帽子に追い付くまでには、どれだけの時間が掛かるでしょうか。
　　　　　どう考えたかも説明してくださいね。

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