【№１３６】


Q2



ルヴァの出した問題も無事解き終え、まったりとしたところへオスカーがやってきた。

「よお。新年そうそう相変わらずだな」

「そう言うあんたも変わり映えがしないね、オスカー」

オスカーとオリヴィエの応酬もいつもどおりの風景だった。
ルヴァとリュミエールは顔を見合わせてそっと笑いあった。

「さて、せっかくオスカーがいらしたことですし、そろそろお茶よりアルコールにしましょうか？」

ルヴァの提案は一も二もなく受け入れられた。
折しも新年の特別イベントとして雪がちらつき始めたので、これは「雪見酒」だな、と笑いながら乾杯する。


「あんた今日はもうお仕事無いの？」

オリヴィエがオスカーに向かって尋ねる。
オスカーはもったいぶってうなずいた。

「ああ。聖殿の警備については特に問題は起きていない。当番の顔触れを確認して帰ってきた」

「新年だというのにご苦労様でしたね、オスカー」

ルヴァの言葉に、オスカーは嬉しそうに微笑んだ。

「そんなふうに言ってくれるのはルヴァだけだ。優しい言葉が身に染みるぜ。こいつらは、自分がのんびり茶ぁ飲んでるときに俺が駆け回っていても、それが当たり前だと思ってるからな」

「心外ですね、オスカー。わたくしたちは、いつもあなたに感謝していますよ」

「そうそう。聖地の安全はあんたによって守られてるんだからね～」

真面目な顔で、リュミエールとオリヴィエが言う。
オスカーは大げさにため息をついた。

「なんてウソくさい言葉だろーな、ホントに。ま、いまさらお前たちに何も期待はしてないけどさ」

「ウソだなんてとんでもない。本当の気持ちですよ」

「リュミエール、そう言ってるお前の目は今にも笑い出しそうなんだがなぁ」

「おや、そんなはずはないのですが…」

一瞬の間があって、３人は同時に声をあげて笑い出した。

「本当に仲がいいですね、あなた方は」

ルヴァは楽しそうに３人を眺めて、グラスの中身を少しだけ舐めていた。

「同期というのはいいものですねぇ」

アルコールに弱いルヴァは既に酔っているのか、クスクスと笑いながら中堅の３人を眺める。

「そういえば、去年はめずらしく３人で視察に行く、なんてこともありましたねえ」

「そうそう。行った行った。初めてだったよね、３人で行くのは。リュミちゃんとオスカーはよく一緒に行動してるけどさ」

「ああ。サクリアの関係でリュミエールと一緒のことはけっこうあるな」

オスカーがうなずく。

「視察の内容は困難なものではありませんでしたし、なんだか同期の旅行のようで楽しかったですね」

「うんうん、面白かったよね～。オスカーは夜の街に遊びに出ることができなくってつまらなかったかもしれないけど…」

「視察先でそんなことするか。俺より、お前こそショッピングに行きたくてうずうずしてたんじゃないのか」

「そこに抜かりはないって。ちゃ～んとお買い物は楽しんできたからね」

「そんな時間あったか？」

「あったよぉ。そりゃもうたっぷりと」

「リュミエール、お前、オリヴィエが出掛けたの知ってたか？」

「ええ、一緒に行かないかと誘われましたから」

「…それで、お前も行ったのか？」

「いえ、わたくしは…」

「だよな。そんな不埒なヤツはオリヴィエだけで充分だ」

オスカーは、チラリとオリヴィエに視線を走らせる。
オリヴィエは声をあげて笑った。

「何言ってんだか。オスカー、リュミちゃんはね、私の誘いを断って、美術展のハシゴをしてたんだよ」

「ええ、なかなか興味深い催しがいろいろありましたから…」

微笑み合う２人に、オスカーは盛大にため息をつく。

「お前ら、視察をなんだと思ってるんだよ」

「なんだと言われましても、わたくしたちの用件はすぐに終わりましたから」

「うん。仕事に追われていたのはオスカーだけだったもんね～。あんたが現地の研究員や要人たちと難しい話をしているうちに、私たちはあの星の文化の実情を視察してたってことさ」

「何が文化の実情だよ、ホントに。知らなかった。油断も隙も無いな」

オスカーのしょげた顔が可笑しいと、オリヴィエとリュミエールはまた笑い出す。
そんな３人の様子を見ながら、ルヴァはほのぼのした気持ちを味わっていた。


「あれ、オスカー、どうかした？」

フッと黙り込んで何かを考えているオスカーにオリヴィエが声をかける。
顔を上げたオスカーは「ああ…」とオリヴィエとリュミエールの顔を見詰めた。

「その視察…いつだっけ？」

「何？　オスカー、まだ物忘れなんて年じゃないでしょ。ルヴァじゃあるまいし」

オリヴィエがキャハハっと笑う。
ルヴァは「私はそんな老人じゃありませんよ」と苦笑した。


「昨年は下半期にいろいろなことが集中して起こったからなぁ、記憶が混乱しているんだ」

オスカーは首を傾げる。

(オスカー）「８月…だったか？」

(オリヴィエ）「え、９月じゃなかったっけ？」

（リュミエール）「ええ、９月だったと思います。…２０日、でしたか？」

（オリヴィエ）「ううん、１８日だったんじゃない？　ねえ、オスカー」

（オスカー）「うん…１８日…だったかな…。火の曜日、だったよなあ」

（リュミエール）「え？　水の曜日じゃありませんでしたか」

（オリヴィエ）「木の曜日でしょぉ？」


３人が口々に言うのを聞いてルヴァは苦笑を浮かべた。
月と日と曜日の３つについて、１人は１つ間違っていて、１人は１つしか合っていない。
そして、１人は１つも合っていない…。
あの月は、確か金の曜日から始まっていたし、日にちは月の数字の整数倍の数字だった。
この２つをヒントにしたら、あれが何月何日で何曜日だったかを考えることはできるだろうか…。
頭の中で軽くシミュレートしてから、ルヴァは３人に声をかけた。

「あなたがたの記憶もいいかげんですねえ…」
　　問：３人が視察に行ったのは何月何日何曜日のことだったでしょうか。



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