では第１問です。

Q1

「あぁ、風が気持ちいいですね～」

湯飲みを手に、ルヴァは微笑んだ。
テラスを吹き抜ける風は、爽やかに心地よい。

「ええ、そうですね」

リュミエールも同じように微笑む。

「ま、聖地はいつもいいお天気だけどね～」

オリヴィエがゆったりと笑う。
いつもながらの穏やかな休日だった。

「ねえ、ルヴァ、何か面白い話をしてよ」

ふっと思いついたようにオリヴィエが言い出した。
おや、とルヴァが目を向ける。

「面白い話、ですか」

「うん。難しい謎とかじゃなくってさあ、子供の頃の話とか何か可愛い話がいいなあ。ね、リュミちゃん」

「ええ、そうですね。わたくしも何かお聞きしたいです」

「そうですかぁ。じゃあ何か考えましょうか」

ルヴァは一口お茶を飲むと、湯飲みを手に包むようにして、考え始めた。

「子供の頃といっても、聖地に上がる前はずっと砂漠にいましたからねえ…。そんなに変わった体験もしていませんよ。砂漠の生活というのは…」

ルヴァは遠い昔の砂漠の思い出を話し始めた。
オリヴィエとリュミエールは、見たことの無い砂漠に思いを馳せながら聞いていた。

「…そんなふうに砂漠しか知りませんでしたから、初めて砂漠の外の大きな町に行ったとき…５つか６つの頃でしたっけ…、そのときには別の世界に来てしまったように驚いたものです」

「町もあるんだ」

「ええ。ラクダに乗って何日も歩いていかなきゃいけないくらい遠くでしたけれどね。隊商の一員だった叔父が、何事も経験だからって、連れていってくれたんです。見るもの全てが珍しくって、ホントに驚きっぱなしでした」

「ふうん…。リュミちゃん、何笑ってんの」

「あ、いえ…。そのときのルヴァ様を想像してみたら、ずいぶん可愛かったので…」

「ああ、確かにそうだね」

オリヴィエとリュミエールは顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
ルヴァは恥らうように苦笑を浮かべる。

「で、その町で、どんなことがあったのさ」

まだ僅かに笑いながら、オリヴィエが尋ねた。

「そうですねえ…大きな図書館や書店がありましたから…」

「いかにもルヴァだね。他には？」

ルヴァの言葉を、オリヴィエはあっさりと遮る。
話の腰を折られたルヴァは、「あ、ははは…」と笑いながら次の話題を探していった。

「あ～それなら何をお話ししましょうか…ああ、私が初めてサーカスを見たのもそのときでしたよ」

ルヴァは何を思ったかクスクスと笑い出した。
オリヴィエとリュミエールは呆気に取られてルヴァを見詰める。

「サーカスは、今思えばごく普通のプログラムばかりでしたが、とっても面白くって、私は夢中になって見ていたんです。空中ブランコも馬の曲乗りもホントに見事でした…」

うんうんとうなずきながら、ルヴァは話し続ける。
その表情がいかにも可愛らしくて、オリヴィエとリュミエールはルヴァの笑顔に見惚れていた。

「ところで、ですね…」

サーカスの話が一段落したところで、ルヴァが２人を見てクスッと笑った。

「サーカスのテントは天井がずいぶん高かったのですが、その高いところから何本もロープが降りていて、必要に応じていろんな用途に使われていたんです。で、それを見ながら私はどうしても気になって仕方がなかったんですよ」

「え、何、どういうこと？」

「何が気になったといわれるのですか」

戸惑う２人に、ルヴァはまたクスッと笑う。

「あのね、『あのロープは、どうやってあそこに結びつけたのだろう』とか、『いらなくなったらどうやって撤収するのだろう』とか、そんなことです。子供にとって、その天井はひどく高かったんですよ」

「変なこと考えるねえ。小さいときからさすがルヴァだってことかな」

「それで、その疑問は解決したのですか」

「いいえ。単なる観客でしかない私には知りようもありませんでした。ですから今でもちょっと気になってます」

ルヴァは面白そうに笑った。

「まあ、実際には謎でもなんでもなくって、当たり前の方法があるのでしょうけれどね。せっかくですから、ちょっと考えてみましょう」

「は？」

突然の展開に、オリヴィエとリュミエールはびっくりして目を見合わせた。
どうやら、またいつものように問題が出されるようだ。
ルヴァに知られないようにして、２人はそっと肩をすくめた。

「簡単に、ロープは２本にしましょう。

高い天井から２本のロープが降りています。
ロープはそれぞれ天井に設置されている環に結び付けられています。
２本の距離は５０ｃｍくらいで、手を伸ばせば届くくらいです。
このロープを２本とも外してしまいたいのですが、外すのは人の手で外さなくてはいけません。
ロープを登っていって、片手で結び目をほどくことは簡単にできますし、手を離せばロープは勝手に落ちてきます。

さて、うまく２本とも外すにはどうしたらいいか、わかりますか」

「そんなの、ロープを登っていって外せばいいんじゃないの」

「オリヴィエ、それで１本は外せますけれど、２本目が無理です」

「あ、そっか。じゃあ、どうすればいいのよ」

「さあ…わたくしにも見当がつきませんが…」

小声で話し合う２人を見ながら、ルヴァはにっこりと笑った。

　　　　　問：２本のロープを安全に外す方法を考えてください。