Q2



金の曜日のお昼までに答を出すようにと念を押されて、少年たちは地の執務室を出ていった。
今日の残りの執務をちゃんとやるようにと注意をされたのは、いうまでもない。

「やれやれ、騒がしかったね」

オリヴィエがわざとらしくため息をつく。

「変化があってよかったんじゃありませんか？」

リュミエールがクスクスと笑った。

「さて、そろそろ執務に戻りますか…」

「え〜、もう少しいいんじゃない？」

「そうですね、今日は回ってきている書類もあまりありませんでしたし…」

「リュミエールまでそんなことを言いますか」

ルヴァは面白そうに笑って、「じゃあお茶を淹れ直しましょうか」と言った。

そのとき、執務室の扉がノックされて、オスカーが姿を現した。

「よお」

「おや、オスカー、いらっしゃい。ちょうどお茶を淹れるところですよ」

ルヴァが笑顔で招き入れる。

「ああ、すまんな。濃い目に頼む。なんか頭が疲れた」

「オスカー、あんた、何やってたの？」

オリヴィエが冷やかすような視線を向ける。

「あぁ？　朝からずっと王立研究院に詰めてたぜ。新しいセキュリティシステムについて検討したいって言われてな」

「あ〜それは大変だったね〜。アンタの頭であそこの研究員たちと意見を戦わせるってのは大仕事だもんね」

「バカにするな、と言いたいが、実際そうなんだよな〜。あいつらの言うこと、というより言い方が難しいんだ」

「ま、確かにね。なんたって頭の容量が違うんだから普通の頭じゃ太刀打ちできないって。増してアンタの脳味噌は筋肉だしねぇ」

「なんだよ、それ。慰めてくれてるのか、けなしてるのか、どっちだよ」

「さぁ、どっちだろうね〜」

オリヴィエはクスクス笑う。

「オスカー、お疲れ様でしたね。お茶が入りましたからどうぞ」

釈然としていない表情のオスカーの前に、ルヴァがカップを置く。
オスカーは「あぁ、すまんな」と肩の力を抜いた。


しばらくして、少し落ち着いたらしいオスカーは、ルヴァに向かって少々抗議するような視線を向けた。

「どうかしましたか、オスカー？」

ルヴァは婉然と微笑む。

「あ、いや…　あのな、アンタのせいだって気はするんだが、アンタに文句を言う筋合いかどうか…」

「オスカー、あなた、ルヴァ様に何か文句を言おうというのですか」

「いや、そういうわけじゃないんだが…」

オスカーは、心を決めたように、ルヴァを見た。

「あのな…」

「はい？」

「研究院のやつら、最近俺の顔を見ると、やたら嬉しそうに、ややこしい問題を出してくるんだ。あれはアンタがけしかけてるんじゃないのか？」

「え〜、私は何も知りませんよぉ〜」

ルヴァは驚いて目を見張る。

「別に研究院でそんな話はしてませんし、問題出したりもしてませんよ…」

「ホントかぁ？」

オスカーは疑わしげにルヴァを見詰める。

「オリヴィエ、何笑ってるんです？」

リュミエールがそっとオリヴィエの袖を引いた。

「ん？　あのね…」

オリヴィエはそっとリュミエールの耳元に口を寄せた。

「あれ、私」

「え？」

「研究院の中でもそういうの好きそうな何人かに、『オスカーはややこしい問題を出されて苦しむのが好きだ。ぜひ難しい問題を出して欲しいと思っている』って吹き込んどいた」

「オリヴィエ…」

リュミエールは呆れたようにオリヴィエの顔を見た。

「いいじゃない。オスカーに対する研究員の親密度がグッとアップするよ〜」

オリヴィエは楽しそうに笑った。
リュミエールは小さくため息をついて、オスカーに同情するような視線を向けた。
オスカーはまだルヴァと向き合っている。

「それで、今日はどんな問題を出されたんです？」

尋ねるルヴァの表情は、抑えてはいるものの、好奇心で輝いているように見えた。

「アンタ、楽しんでるだろ。…まあいいや。メモしてきたぜ」

オスカーはポケットからメモ用紙を取り出す。
ワクワクするような眼差しで、ルヴァはオスカーの手元を見ている。

「ほら、オスカーに対するルヴァの親密度もアップしたよ」

リュミエールの耳元で、オリヴィエがクスクス笑う。

「こんな問題だ。
ああ、ルヴァだけじゃなくて、お前らも考えてみろよ」

オスカーはオリヴィエとリュミエールに声を掛けた。
２人は真面目な顔でうなずいた。

「じゃあ、いくぞ。

４人の男がいるんだ。
名前は、アレックス、ベンジャミン、チャールズ、ドミトリー　という。
４人の職業は、画家、デザイナー、作家、演奏家、もちろん順不同だぜ。
さて、次のヒントから４人の職業を当ててくれ。

１．もしベンジャミンが画家だとすると、ドミトリーは演奏家になる。
２．しかし、もしアレックスがデザイナーだとすると、ドミトリーは作家ということになる。
３．ドミトリーが演奏家でなければ、ベンジャミンは作家ではない。
４．もしもチャールズが作家だとするとベンジャミンは画家になる。
５．チャールズが演奏家でなければ、ドミトリーはデザイナーである。
６．いずれにしても、デザイナーはベンジャミンではない。

さあ、どうだ」

オスカーは挑戦的に３人を見回す。

ルヴァは少し考えてすぐに笑顔になった。
リュミエールもすぐに解き、少し遅れてオリヴィエも答を出した。
なんですぐに解けるんだよ、とオスカーはつまらなそうにつぶやいた。

問：４人の職業を当ててください。


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