Q1


土の曜日の昼下がり、今日も地の館ではまったりとお茶会が開かれている。

「今日も聖地は平和だね〜」

オリヴィエがのんびりとした声をあげる。
その声に、どこかつまらなそうな響きを感じて、ルヴァとリュミエールは顔を見合わせて微かに笑い合う。

「平和が何よりですよ。もう宇宙の危機はこりごりです」

ルヴァがおっとりとした物言いでつぶやく。

「そっか。ルヴァは『宇宙の危機』ってヤツを体験したことがあるんだっけ」

「ええ。あなたがたが聖地にいらっしゃるずっと前にね」

ルヴァは遙か昔を思い出すように、視線を宙に向けた。

「守護聖になったときに、そのいきさつを研修で学びました。わたくしたちが歴史として学んだことを、ルヴァ様は体験していらっしゃったのですね」

リュミエールがしみじみとした眼差しでルヴァを見詰める。
オリヴィエも同じようにルヴァに視線を向けた。

２人の視線に気が付いたルヴァは、困ったように笑った。

「そんなふうに見られると、なんだか自分がとっても年を取っているような気がしてきますよ…」

「え、あの、そんなつもりでは…」

明るい笑いが飛び交った。

「何だ、楽しそうだな」

爽やかな声とともにオスカーが姿を現した。

「おや、オスカー、いらっしゃい」

「邪魔するぜ、ルヴァ。これ、土産だ」

オスカーはピンクのバラをルヴァに渡す。
無造作に束ねたように見えて、その実細かいところまで気を配ってまとめてあることを見て取って、オリヴィエとリュミエールは目を見合わせて小さく肩をすくめた。

オスカーを交え、中堅３人とルヴァはのんびりと四方山話を楽しんだ。
やはり聖地はまったりと平和だった。



少しして、今度は年少守護聖の３人が、宿題になっているレポートをルヴァに渡しにやってきた。
一緒にお茶をどうかと勧められ、慌しくお茶を飲みお茶菓子を食べ、ひとしきり昨夜のゲームの状況をしゃべりまくると、少年たちはこれからゲームの続きをするからと言って帰っていった。

「やれやれ、忙しいやつらだな」

少年たちが消えた後を見送って、オスカーはポツリとつぶやく。

「何、年寄りじみたこと言ってんだか」

オリヴィエがからかうように笑う。

「ルヴァ様、レポートの出来はいかがでしたか」

少年たちのレポートを読み終わったルヴァにリュミエールが声を掛ける。

「ええ、まぁ、３人とも頑張ってますよ。いいレポートですね」

ルヴァの口調は、どこか寂しそうだった。

「おや、その口振りでは、あんまりいい出来ではなかったようだねぇ」

耳聡く聞きつけたオリヴィエがクスッと笑う。

「そんなことはないですよ。課題に対しては、３人ともきちんとまとめていますし、よく出来ています」

「では、何がご不満なのです？」

訝しげに尋ねるリュミエールに、ルヴァはちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。

「いえ…。課題の他に、ちょっとおまけの問題を付けておいたのですけれどね、そちらに答えてくれたのは１人だけだったので…」

「おまけの問題、ですか」

「ははぁん。ルヴァ、あんた、また妙な問題出したんだね」

「妙な問題じゃないですよ。ちゃんとした確率の問題なんですから」

「へぇ〜。どんな問題なの？」

「おい、オリヴィエ、余計なことを言うなよ。またややこしい問題に悩まされるのがオチだぜ」

オリヴィエの腕を引っ張って、オスカーが小声で言う。

「いいじゃない。少しくらい刺激があった方が楽しいってもんでしょ。ね、リュミちゃんもそう思うでしょ」

「わたくしは別に刺激は無くても構いませんが…。ええ、その問題は見てみたいですね」

「ということだから、ルヴァ、その問題見せてよ」

「おい、オリヴィエ、よせってば」

「うるさいね。あんたもガキどもと一緒にルヴァの講義受けた方がいいって陛下に進言してあげようか」

「冗談でもそんなことするなよ、バカヤロウ」

「バカって何よ。脳味噌筋肉のくせに一人前の口きくんじゃないよ」

「なんだよ、それ」

「オリヴィエもオスカーも、それくらいにしてください」

リュミエールが静かな声でたしなめる。
オリヴィエとオスカーは、口を閉じて苦笑を浮かべた。

「ルヴァ様、その問題をわたくしたちにも見せていただけますか」

「ええ、これです」

ルヴァはレポートの中から１枚抜いて３人の前に置いた。
３人の視線が集中する。

「どうです、あなた方も解いてみますか」

ルヴァはにっこり笑って３人を見回した。

―――――
おまけの問題：これは必須ではありませんが、できるだけ解いてくださいね。

袋の中に玉が１つ入っています。
玉の色は白か黒のどちらかで、白である確率と黒である確率は同じです。
ここに白い玉を１つ入れ、袋をよく振ってから１つ取り出したら白い玉でした。
さて、袋の中に残った玉が白である確率はどれだけですか？

―――――

「あぁ、なるほど…」

「これはガキどもは引っ掛かりそうだねぇ」

「なんだよ、これ。どういう意味だ」

問題を読み終わった３人は、それぞれに声をあげた。
ルヴァは楽しそうに微笑んでいる。

問：袋に残った玉が白になる確率はいくつでしょう。どう考えたかも書いてくださいね。

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