Q2


ルヴァの指示に従って（半ば恐る恐る）オリヴィエはケーブルを切断した。
もちろんルヴァは正しいケーブルを指摘していて、爆発することなく起動は解除された。
ゼフェルが微かに「チッ」と舌打ちするのを聞いて、ルヴァはこっそりと微笑んだ。



「さぁ、ということでこの件は一応不問にしますから、聖殿を破壊するような実験は慎んでくださいね」

ルヴァに見詰められて、ゼフェルはしぶしぶといった体で「ああ…」と答えた。
その様子を慈しむように見ながら、ルヴァはにっこりと笑う。

「そもそも、なんであんたたちはここにいんだよ」

仏頂面でゼフェルはルヴァとオリヴィエを睨みつけた。

「え？　ああ、忘れていました。これを届けにきたんです」

ルヴァは持参した書類をゼフェルに渡した。

「何だ、これ？」

「私がまとめたんですけれどね、この案件に関してはあなたの所見を添えておいた方がいいと思いますから、内容をよく読んで、あなたの考えを書き添えておいてください」

「なんだよ、それ。めんどーなこと増やすんじゃねー」

ブツブツ言いながらゼフェルは書類を受け取った。

「今日中にジュリアスに回しておいてくださいね〜」

そう言い残してルヴァはゼフェルの執務室を後にした。

「そーゆーことだから、お仕事頑張ってね〜♪」

ハートマークでも付きそうな楽しげな声で言うと、オリヴィエはルヴァの後に続く。

渡された書類を見て、けっこう時間が掛かりそうだということがわかり、ゼフェルは、既に閉じられている扉に向かって「バカヤロー！」と叫んだ。




「あ〜面白かった。さてと、帰る前にお茶でもしない？」

楽しそうにオリヴィエは言った。
ルヴァはおっとりと「そうですね」と受けた。

「ゼフェルがあの書類を仕上げるまでには少し時間が掛かるでしょうからね。先に帰ってしまうのもかわいそうですし、少しお茶でも飲んでいましょうか」

「おや、優しいねぇ…っていうか、そもそも退出時刻間際に仕事回してんだよねぇ」

「でも、ゼフェルがあんなことをやっていなかったら、もっと早く取り掛かることができて、そんなに遅くはならなかったんじゃないでしょうかねぇ」

「自業自得ってことか。ま、どーでもいいよ。お茶にしよう」

「ええ。じゃあ、どうぞ。甘納豆のいいのがありますよ」

「おや。また主星の老舗からお取り寄せなんかしちゃった？」

「ええ、ちょっと、ね」

ルヴァとオリヴィエは、顔を見合わせ、声をあげて笑った。




お茶を淹れ、甘納豆をつまみながら、さっきのことを話していると、ノックの音がしてリュミエールがやってきた。
目の前の情景に、一瞬驚いたように目を見張る。

「もうお帰りになるかと思ってお誘いに来たんですけれど、今頃お茶ですか。珍しいですね」

「ええ、まぁ…なんといいますか…」

「ちょっと面白いことがあってね〜。ま、座って、座って」

部屋の主のように、オリヴィエが席を勧める。
ルヴァは、にっこり笑うとリュミエールのためにお茶を淹れた。

「で、何があったのですか」

ゆったりとお茶を味わって、おもむろにリュミエールは尋ねる。

「うん、あのね…」

オリヴィエが話し始めようとしたとき、またノックの音がした。
やってきたのはオスカーだった。
まだ執務中の雰囲気を漂わせ、手には書類を持っている。

「まだいてくれて助かったぜ。…なんだ、今頃茶会か？」

「あぁ、私たちのことは気にしないでいいから。ちゃっちゃと用事を済ませちゃいな」

お気楽なオリヴィエの言葉に、ジロリと視線を走らせながら、オスカーはルヴァに書類を渡した。

「すまんが、急いで確認して欲しい点があるんで、ここんとこ、頼む」

「はいはい…ああ、そういうことですか。ええ、ちょっと待っててくださいね。参考資料がありますから、わかりやすいようにまとめておきましょう」

「ああ、すまんな」

執務机の方にパタパタと走ってゆくルヴァを、オスカーはすまなそうに見送った。

「オスカー、掛けなよ。お茶が入ったよ」

「あ、ああ…」

オリヴィエに言われて、オスカーはソファに腰をおろす。
その前に、リュミエールがお茶のカップを差し出した。

「しかし、なんでこんな時間に茶ァ飲んでんだよ」

「うん、そのいきさつを今リュミちゃんに話そうとしてたところ。一緒に聞いていきな」

返事も待たず、オリヴィエはさっきの顛末を話した。



「ゼフェルのヤツ、この間ここで爆発騒ぎを起こしてジュリアス様に怒られたばかりだってのに、またそんな危なっかしいことをしてるのか」

呆れたようにオスカーがつぶやいた。
見回す視線の先に、まだ爆発の被害の跡がいくつか見掛けられる。

「ホント。ルヴァがいなかったらどうなったことやら」

大げさにため息をつくオリヴィエに、リュミエールがクスッと笑う。

「オリヴィエだけだったら、ゼフェルは自分でさっさと解除していたと思いますよ。ルヴァ様がいらっしゃったから、ゼフェルは挑戦してきたのでしょう」

「え？　　…ああ、そっか。いつだってゼフェルはルヴァに勝ちたくて一生懸命だもんねぇ〜」

「ええ、そういうことだと思います」

「いつもの挑戦、か。難儀な師弟だなあ。」

「あんたとランディの関係だって似たようなものじゃない」

「俺とランディ？」

「ああ、なるほど。確かに似ていますね」

「でしょ？」

オリヴィエとリュミエールはクスクスと笑い合った。

「何だよ。２人だけで分かり合うなよ」

オスカーは拗ねたように顔を背ける。
その鼻先に、書類と資料の束が差し出された。

「お待たせしてすみませんでしたね、オスカー」

オスカーが顔を上げると、ルヴァが微笑んでいた。

「あ、いや…こっちこそ。急がせてすまなかったな」

オスカーが立ち上がろうとすると、オリヴィエがその袖をグイと引っ張った。

「ぅわっ！」

ドスンと音を立てて、オスカーはソファに腰をおろした。

「危ないな。何するんだよ」

「あんた、ルヴァんとこ来て、そのまま帰るつもり？」

「は？　何のことだ」

戸惑うオスカーに、オリヴィエはフフンと笑った。

「ここに来たからには、ルヴァの出す問題を解いてから帰るってのが礼儀でしょーが」

「…そんな礼儀があるかよ！」

「あるに決まってんでしょ。ここ、ルヴァのテリトリーだよ」

「冗談はやめろ」

「冗談じゃないよぉ。しっかり本気」

「本気…って…」

「ええ、オリヴィエ、それはいいですね、」

リュミエールがにっこり笑った。

「せっかくですから、オスカーにしっかり頭を使っていただきましょう」

「何だよ、その言い方は。ルヴァ、あんたからもこいつらに何か言ってやれよ」

「あ〜、でも、それはなかなか楽しいことですからねぇ…」

「ね、いいでしょ。なんなら、オスカー限定ルールにしてもいいんじゃない？」

オリヴィエは完全に面白がっていた。
言い返そうとしたオスカーは、ルヴァがたいそう嬉しそうに微笑んでいるのに気が付いた。

　　　ルヴァが喜ぶんなら、それもいいかもしれんな…

「わかった。ルヴァ、問題を出してくれ」

ルヴァの顔が、更に輝く。
オリヴィエとリュミエールは驚いたようにオスカーを見詰めた。

「い、いいんですか、オスカー」

「ああ。構わんぜ。解けるかどうかは保障しないが、精一杯頑張ろう」

「そうですか！　ありがとうございます。じゃあ、リュミエールとオリヴィエも考えてくださいねっ」

「おや、とばっちりが来たか。もちろんいいよ」

「わたくしも喜んで考えます」

「そうですか。じゃあ、いきますね」

ルヴァは楽しくて仕方がないように、問題を出した。

「オスカーは女性が関係している方が考えやすいでしょうから、女性にしましょう。

ここに４人の美しい女性がいます。
彼女たちは皆妖精か魔女のいずれかです。
妖精は必ずウソをつきます。
魔女は本当のことを言ったりウソをついたりします。
彼女たちの発言から、それぞれが妖精か魔女かを当ててください。

Ａ「私たちの中に、妖精は１人以上います」
Ｂ「私たちの中にいる妖精は２人以下です」
Ｃ「私たちの中にいる妖精は２人以下です」
Ｄ「Ａは魔女です」

さあ、いかがですか」

ルヴァはにっこりと微笑んで３人を見回した。


問：４人の女性がそれぞれ何かを答えてください。どう考えたかも書いてくださいね。

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