Q1


今日も平和に１日が終わろうとしている。
最後の書類を仕上げたルヴァは、この案件に関しては鋼の守護聖の所見を添えておいた方がよいだろうと判断した。
事務官を呼んで書類を回そうとしたルヴァは、ちょっと考えてから、よっこらしょ、と立ち上がった。

「私が直接持っていって説明した方が話が早いでしょうね」

そう。ただ書類を回しただけでは、すぐに取り掛かってくれる見込みは少ない。事務官に説明の伝言を頼んでもまともに聞かないかもしれない。
やはりルヴァ自身が出向くのが一番無難な方法だろう。

「悪い子じゃあないんですけどねぇ…」

ルヴァは小さくため息をつくと、地の執務室を後にした。


途中、夢の執務室の前を通り掛かったときに、不意に扉が開いて、オリヴィエが姿を現した。
ルヴァに気が付いて「おや」と驚いた顔をする。

「何？　もう帰るの…って、そんなことないか。書類持ってるもんねぇ」

「ええ。これが今日最後の仕事ですね」

「で、その書類はどこ行くの。まさか、私のとこじゃないでしょうね」

「あなたじゃありません。もう一つお隣ですよ」

ルヴァの視線を追うように、オリヴィエは隣の執務室に目を遣った。

「なるほど。それで地の守護聖自らお出ましってことか。あの坊やにさっさと仕事させるのは難しいもんね〜」

オリヴィエは愉快そうに笑った。

「面白そうだから、一緒に行っていい？」

「面白いことなんてありませんよ。そもそも、あなたも何か用事があって出ていらしたんじゃないんですか？」

「私？　別に用なんてないよ。お仕事が終わってヒマだったから、あんたンとこ行ってお茶でもしようかと思っただけ。だから、ちょうどよかったってとこだね。さ、行こ」

「あ、はぁ…」

なんだかわからないままに、オリヴィエに押されるようにしてルヴァは鋼の執務室に向かった。



「ゼフェル、ちょっとお邪魔しますね〜」

軽く声を掛けて、ルヴァは室内に入る。

「返事がないね」

後に続いたオリヴィエが、そう言いながら室内を見回す。

「いないのかなぁ…あぁ、いたいた。あそこでなんかやってるみたい」

オリヴィエが指差す先には床に座り込んでいるゼフェルの背中が見える。
様々な工具や部品に囲まれて、熱心に何かを組み立てているようだ。
よっぽど集中しているらしく、呼び掛けても気が付かない。
オリヴィエは足音を忍ばせて近付くと、ドンッと肩を叩いた

「ゼフェル、何やってるのっ！」

「うわっ！！」

心底びっくりしたらしい。
ゼフェルは声をあげて飛び上がった。
何かがコトンと音を立てて転がる。
オリヴィエが声をあげて笑った。

「バッカヤロー！　おどかすんじゃねー」

照れ隠しのように、乱暴な口調でゼフェルは言った。

「だって、いっくら呼んでも気が付かないんだもん。いいじゃない、びっくりするアンタも可愛いよ」

「バカ言ってろ」

「そんなに夢中になって何作ってたのさ」

「何って…あぁっ！」

ゼフェルは慌ててさっき転がった物体を取り上げた。

「あ！」

悲鳴のような声をあげると、キッとオリヴィエを睨みつける。

「どーしてくれんだよ。いざって時はてめーが責任とれよ！」

必死なゼフェルに対して、オリヴィエはフフンと笑いを浮かべていた。

「あの、ゼフェル…どうかしたんですか？　その装置は何なんです」

恐る恐るルヴァが声を掛けると、ゼフェルは初めてルヴァのいることに気が付いたらしい。
さりげなく手元を隠しつつ、「いや、何でもねー」とつぶやいた。

「何でもなくはないでしょう？　オリヴィエに責任を取れって言ったのは、何が起こったときのことなんです？」

ルヴァにじっと見詰められ、ゼフェルは一つため息をつくと、手に持った小さな機械に目を落とした。

「それ、何なんです？」

「…弾……」

「何ですって？」

「だから、『爆弾』だって！」

ヤケになったようにゼフェルは言った。
ルヴァとオリヴィエは、思わず顔を見合わせた。

「ゼフェル…あなた、またそんな危険なものを作ったんですか。この間も私の執務室を破壊し掛けたばかりじゃありませんか」

「あれは、ちょっと失敗しちまった…。ホントは音と光だけで、モノを破壊したりはしないはずだったんだ。だけど、今度のは違げーぜ。今度のは破壊力にメインを置いて作った。小さいけど、破壊力は大きいぞ」

「ゼフェル…」

話すに連れてゼフェルは得意そうな顔つきになってくる。ルヴァは大きなため息をついた。

「破壊力が大きいって、どのくらいなの？」

オリヴィエが興味深そうに尋ねる。

「執務室の壁を破壊するくらいかな。ここで爆発したら、あんたンとことつながっちまうな」

「ちょっと、冗談でもやめてよ、そんなこと」

「ゼフェル、爆発なんてさせないでくださいね」

ルヴァが困ったように言うと、ゼフェルは肩をそびやかして「フン」と言った。

「俺はここで爆発させる気はさらさら無かったけどよ、もう遅ぇーや。オリヴィエのお陰でドッカーンだぜ」

「私が何したって？」

「さっき、俺のこと驚かしたろ。あのときに起爆スイッチが入っちまったんだよ。ほら、聞こえるか？」

言葉とともに、ゼフェルはルヴァとオリヴィエに向かって手に持った『爆弾』を突き出した。
微かに「カチ、カチ」という音が聞こえる。

「どういうこと？」

オリヴィエが訝しげに尋ねる。

「だから、起爆スイッチが作動してるんだ。あと５７分２０秒で爆発するぜ」

「爆発するぜっていばってないで、早くそれ止めなさいよ」

「それが難しいんだな」

「何よ」

ゼフェルは手に持った『爆弾』を示す。

「この爆弾を止めるには、ここと、ここと…ここ、この３箇所のケーブルを切断すればいい」

「じゃあ、さっさと切断してよ」

「俺はやだぜ。切るんならあんたがやんな。ほれ、ニッパーはここにあんぜ」

「わかったよ、切りゃいいんでしょ、切りゃ。貸して。…どれを切るって？」

「そこのケーブルだ」

「３箇所とも、ケーブルは赤、黄、白と３本あるんだけど…」

「そのどれか１本が正しいケーブル。後の２本はダミーだ。ダミーを切ると、その途端に爆発するぜ」

「正しいの、どれよ」

「さ〜な。さっき叩かれたショックで忘れちまった」

「なんだって？」

「適当に切っても、３箇所それぞれ３分の１の確率だ。試してみな」

「や〜よ、そんな危険なこと。何かヒントはないの？」

「ヒントか…。じゃあ、俺の作った爆弾解除マシン『まかせて安心君１号』の検査結果を教えてやろう。こいつは正しいケーブルを調べてくれるんだ」

「へぇ〜そんなもんも作ってたの。じゃあ、簡単じゃない」

「ところがそー簡単にはいかねーんだな。『１号』は正しい答と間違った答を交互に答えるんだ」

「妙な機械だねぇ。で、最初に答えるのは正しい答？」

「決まってねー。最初が正解か間違いかはまったくのランダムに現れる」

楽しそうに説明するゼフェルを、オリヴィエは腹立たしげに睨み付けた。

「そんなデータ、全然使えないじゃないっ」

「じゃあ、もう１つおまけに、改良型『まかせて安心君２号』の出した結果も教えてやろう」

「その『２号』ってヤツは正しい答を答えるんだろうねぇ」

「おお。精度がグッと増してんぜ。３回に２回は正しい答を出す。正解を２回続けた後は間違った答を１回、その後はまた正解を２回、その後は間違いを１回ってな調子だな」

「また、最初にどっちを答えるのかはランダムだって言うんじゃないでしょーね」

「いい勘してんじゃん。そのとーりだぜ。最初が正解か間違いかはまったくのランダムだ」

「そんなんじゃ、やっぱり使えないじゃないっ」

「ま、試してみなよ。ほら」

ゼフェルは２枚の紙を取り出してオリヴィエに渡した。

「何これ。『赤-赤-白』と『白-白-黄』って、どっちがどっちのデータよ」

「さあ、どっちだろーな。ほら、急がねーと時間がなくなるぜ」

オリヴィエは２枚の紙を握り締め、振り返ってルヴァを見た。

「ちょっと、ルヴァっ」

「は、はいっ…」

「話は聞いてたでしょ。ゼフェルのことはあんたに責任取ってもらうからね。さっさと正しい答を出してちょうだい」

「…と言いましてもねぇ…。あのぉ、ゼフェル」

「何だよ」

「その『まかせて安心君』の答ですがねぇ。３本のうちダミーは２色ありますが、間違いの答がそのどちらを答えるかということは、何か法則はあるのですか？」

「ねーよ。これもまったくランダムだ」

「で、この３色のデータはどういう順番で調べたのですか？」

「ケーブルんとこにＡ、Ｂ、Ｃってあんだろ。その順番だ。２枚とも　Ａ-Ｂ-Ｃ　の順に調べた答だ」

「『１号』の答は正しい答と間違った答が交互で、『２号』の答は正しい答が２回続いたあとに間違った答が１回、ですね」

「ああ」

「他にまだ何か必要な情報はありませんか」

「ん〜…、ああ、これも言っとかねーとな。正しいケーブルをつないだとき、３色のケーブルのうち、在庫切れしてたのがあったぜ。ダミーつないだときは補給した後だから３色ともあったけどよ」

「どの色が在庫切れしてたんです？」

「忘れちまった」

「在庫切れしてたのは１色だけですか？」

「さあな。１色か２色か…、ま、３色でなかったことは確かだぜ」

ゼフェルは声をあげて笑った。
ルヴァは２枚のデータをじっと見詰めていた…
問：安全に爆弾の起動を解除するには、どのようにケーブルを切断すればいいでしょうか。　　　どう考えたかも書いてくださいね。

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