Q2

「さて、ガキどもも引き上げてったし、私たちもお仕事に戻ろっか…と言う前に、もう１杯お茶ちょうだい」

オリヴィエがカップを差し出す。
ルヴァは、苦笑しながら新しいお茶を淹れ始めた。

「オリヴィエ…」

困った人ですねぇ…という表情でリュミエールがつぶやく。

「なぁに、リュミちゃん。何が言いたいのかな」

「いえ…別に…。ただ、わたくしたちもそろそろ執務に戻った方がよいのではと思っただけです」

「そぉ？　リュミちゃんだけ先にお仕事に戻ってもいいよぉ」

フフン、とオリヴィエはリュミエールを横目に見ながら笑う。

「気を使ってくださらなくても、わたくしもちゃんとお付き合いいたしますよ」

リュミエールも同じような笑顔でオリヴィエを見返す。

「さぁ、お茶が入りましたよ～」

のんびりしたルヴァの声が執務室を柔らかな空気で満たす。

ノックの音がした。

「よぉ、ルヴァ、邪魔するぜ…って、お前たち、まだいるのか」

元気よく入ってきたオスカーは、オリヴィエとリュミエールの姿に気付くと、たじろいだように立ち止まった。

「いるよ。いちゃいけない？」

面白そうにオリヴィエが笑う。

「いや、そうじゃないが…」

「オスカー、どうぞ座ってください。今、お茶を淹れますから」

ルヴァがにっこりと笑って席を勧める。

「あ、ああ…」

オスカーは勧められた席に素直に座った。

「わたくしたちがいると、何か問題でもあるのですか、オスカー」

「だから、そうじゃないって」

オスカーはオリヴィエとリュミエールの顔を見て軽くため息をついた。

「お前らがいると、話があっちの方に行くことが多いだろ…」

「何よ、あっちの方って？」

「いや、だからさ…すぐにややこしい問題が出たりするじゃないか」

一瞬なんのことだ、と訝しげに眉をひそめた２人は、すぐに「ああ…」と合点がいって笑い出す。

「笑うなよ」

「いいじゃない。案外あんたも可愛いところがあるねぇ」

オリヴィエはオスカーの顔を見ながら笑い続ける。

「でも、オスカー、そんなことを言って逃げていると、子供たちからも逃げることになりそうですよ」

まだ笑みを残した顔で、リュミエールが言った。

「どういうことだ」

「子供たちも難しい問題を出し合ったりしているようですから」

「は？　何だそりゃ…」

戸惑うオスカーに、リュミエールとオリヴィエはさっきの少年たちの話を語って聞かせる。
オスカーの表情が見る見る暗くなった。

「なんだよ、それは。そんなところにルヴァの影響を受けることはないじゃないか」

「ま、あきらめることだね。幸い、ランディはあんたとおんなじようなものだから、師弟の関係は逆転しないと思うよ」

「慰めにもなんにもなってないぞ、それ」

お茶を淹れることに集中しているルヴァの耳にも３人の会話は聞こえていて、苦笑を抑えて知らないふりをするのに、ルヴァはいささか苦労した。

「さあ、お茶をどうぞ」

「あぁ、すまん」

オスカーはおとなしくお茶を受け取って味わうように飲み始める。

「やっぱり、ルヴァの淹れる茶はうまいな」

「何よ、その女の子を口説くときのようなセリフは」

「本心だから仕方がないだろ。俺はコーヒー党だが、出されたものは何でも飲む。どんなものでも飲まなきゃならんときもある…」

オスカーの言葉にオリヴィエは首を傾げたが、リュミエールが「あぁ…」と思い付いた。

「オスカー、あなた、外に視察に行ってらしたんでしたね」

「そういうことだ。向こうにしてみれば最上級のもてなしをしてくれるんだが、口に合うとは限らない。それでもにっこり笑って飲んできたんだ」

オスカーはまた湯飲みのお茶を飲んだ。

「ルヴァの淹れてくれる茶は本当にうまいと思う。身構えることもなく、ゆったりと味わうことができて、俺は本当に嬉しいんだ」

「ルヴァにしてみたら、喜んでいいのかどうか微妙な感想だねぇ」

オリヴィエの言葉に、ルヴァは困ったように微笑んだ。

「で、そんなこと言うってことは、今回の視察は大変だったってことなのかな？」

オリヴィエに言われて、オスカーは一瞬答えるのをためらった。
少しの間があってから「いや…」と答える。

「いや、全体としては、それほど大変な視察ではなかったぜ。例によって、いくつかの星を飛び回ってきたが、どの星でも担当の中にとびっきりのレディがいたからな」

「相変わらず呆れた男だねぇ」

オリヴィエが大げさに嘆く。
オスカーは思い出すままに語り始めた。

「該当星系には主要な惑星が５つあって、俺はそれを全部回ってきたんだ。
星の名前は…外側から順に、デネボラ、メグレス、マルカブ、アルフェラツ、シャートだったな。
これを全部回ったんだが、すぐ隣の星に移動したことはなかったぜ。
それぞれの星のレディたちは、５人とも美しかったが髪の色はみんな違ってた。
名前は…アロア、イリス、ウルスラ、エウロペ、オリガだった。
アロアの次に出会ったのが黒髪のレディで、その次がアルフェラツのレディだったな。
デネボラのレディの次がブロンドのレディで、その次がイリスだった。
ブロンドのレディに出会った星のすぐ内側の星ではウルスラに出会ったな。
アロアの星とエウロペの星は隣り合っていなかったなぁ…」

オリヴィエが呆れたようにオスカーを見た。

「何、それ？　あんたまさかその５人とよろしくやってきたんじゃないだろうね」

「バカなことを言うな。俺は真面目に視察をしてきたんだぜ」

「それにしても変なふうに覚えているのですねぇ。それではどの星に誰がいたのかもわからないのではありませんか？」

リュミエールに追求されてオスカーは少し焦ったように首を捻った。

「え？　あ、いや…ちゃんと覚えているはず、なんだが…これじゃわからないか？」

「いいえ、それだけ覚えていれば全部わかりますよ」

おっとりとルヴァが言ったので、オスカーはホッとしたように笑顔を浮かべた。

「だよな。これだけ覚えていればわかるよな」

「ええ、わかりますよ。今、オスカーが言ったことだけで、どの星に誰がいたのか、考えてみませんか」

「え！　結局問題になるのか！？」

オスカーが困惑したような声をあげる。

「あきらめて考えな。アンタは私たちより有利なはずでしょ」

「そりゃそうかもしれんが…」

オスカーは考えるより思い出した方が早い、とばかりに、目を閉じてじっと集中し始めた。

問：どの星にどんな名の女性がいたのかを答えてください。

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