Ｑ２

「久し振りに穏やかな休日ですね」

リュミエールがフッとつぶやくのを耳にして、ルヴァは楽しそうに微笑んだ。

「やっぱり出掛けてきてよかったですねぇ…」

「ええ…」

リュミエールも微笑を返す。


休日というと何人もの守護聖仲間が訪れてきて、賑やかなお茶会になることが多い。
それはそれで楽しいけれど、なんとなく今日は２人きりでいたくって、朝食を済ませると早々に馬車を出して出掛けてきたのだった。
森の入口で馬車を降りると、あとはのんびりと森の散策を楽しんだ。
陽が高くなる頃に小さな湖の辺に着いた。みんながよく行く大きな湖ではなく、ひっそりとしたたたずまいのこの湖には訪れる人もあまりいない。

陽だまりに腰を下ろし、湖面を渡る風に吹かれながら、２人はゆったりとした時を過ごした。
リュミエールがハープを奏でるのに合わせて２人で歌を口ずさんだり、
ただ寄り添って静かに湖を眺めていたりしながら、
２人は満ち足りた幸せを感じていた。

太陽が頂点を過ぎて、ほんの少し傾きかけた頃、バスケットに詰めてきたお弁当を広げた。
お弁当は、２人の好物ばかりが用意されていて、爽やかな空気が風味を添え、ステキなランチタイムだった。

「あ〜美味しかったですねぇ〜」

「ルヴァ様…」

「はい？」

「サラダのドレッシングが…口元に付いてます」

「え？　あ、あぁ、すみません」

慌てて口元を拭う。

「とれました？」

「いいえ、まだ残ってます…」

リュミエールが、つ、と身体を寄せ、顔を近付けてルヴァの口元の汚れを舌で舐めとる。

「あ…」とルヴァが声を洩らす。

「ルヴァ様…」

「…リュミエール…」

見詰め合う瞳。近付く唇…
誰もいない、２人だけの時間。
リュミエールはゆっくりとルヴァを横たわらせる…

その時、風に乗って人の声や足音が聞こえてきた。
誰かが、話したり笑ったりしながらこちらに向かって走ってくる。

２人は身を起こし居住まいを整える。

なんだか寂しそうなルヴァの様子に、リュミエールはクスリと笑ってその耳元でささやく。

「ルヴァ様、続きは夜になってから…しっかりとして差し上げます」

「あ…」

赤く染まった頬を、吹き抜ける風が冷ましていった。



やがて、見詰める２人の視線の先に、少年たちが姿を現した。
ランディを先頭に、ゼフェルとマルセルが続いている。
走ったり飛び跳ねたりしている少年たちの足元には、１匹の犬が行ったり来たりして走り回っていた。

　（あれは…ランディがいつも一緒に走ったりフリスビーをしたりしている犬ですね…）

少年たちは、ルヴァとリュミエールの姿を見つけて、嬉しそうに走り寄ってきた。

「ルヴァ様、こんにちは！」

「こんにちは、リュミエール様！」

「よぉ！　なんだ、２人でピクニックかよ」

「こんにちは、マルセル、ランディ、ゼフェル…」

「食事はもう済ませてしまいましたけど、お茶請けのお菓子ならありますよ。いかがですか」

「わぁ、ありがとうございます！」

少年たちはてんでに腰を下ろしてマドレーヌやらクッキーやらを食べ始める。

「あ〜もう走り回ってクタクタだぜ」

「ゼフェル、だらしないなぁ。俺なんかまだまだ走り足りないくらいだよ」

「あー、ホントにお前は体力バカだよ」

「バカってなんだよ！」

「あー、また。もうケンカはダメだってば」

「わかってるよ、ケンカなんかしないって」

「そうそう。バカ相手にむきになったってしゃーねーしな〜」

「ゼフェル、お前、まだそんなこと…」

「２人とも、その辺でお止めなさい。いい加減にしておかないと、マルセルがかわいそうですよ」

ゼフェルとランディは、目を見合わせると、「はーい」と返事をする。
それに続けて犬が「ワン！」と吠えたのがあまりにいいタイミングだったので、みんな思わず笑ってしまった。


「なぁ、ルヴァ」

「なんです、ゼフェル」

「この犬、面白ェーんだぜ」

「おや、そうなんですか。どんなふうに面白いんです？」

「今、俺たち走ってきたじゃん。そうするとさぁ、こいつも一緒に走るんだけど、その走り方がさ、なぁ、マルセル」

「うん、そうだね。ルヴァ様、この子ったら、３人の誰かのところへ走って行って足元ギリギリに並んだと思うと、反転して別の誰かに向かって走っていくんです。で、そこまで行くとまた向きを変えてっていうふうに、走ってる間じゅうずっと、３人の間を行ったり来たりしてたんですよ」

「俺、いつもは１人で走ってるから、そんなことするなんて気が付かなかったなぁ」

「面白ェから３人バラバラになって走ってきたんだ。話するのに大声出さなきゃいけねーからたいへんだったけどよ」

３人は思い出して楽しそうに笑った。
その様子を見て、ルヴァとリュミエールは微笑を交わし合った。

「それは興味深い性質ですねぇ。あぁ、それで面白い問題が出来ますよ」

「はぁ？　問題ィ…？」

ゼフェルが情けない声を出す。

「えぇ。そうですねぇ…、こんなのはどうです。

マルセルとゼフェルが先に出発します。話しながらですから、そうですね、時速３ｋｍで歩いていくとします。
１時間後にランディが後を追いかけて時速６ｋｍで歩いていきます。
ランディと一緒に出発した犬は時速１０ｋｍで走っていって、マルセルとゼフェルに追いつくと向きを変えてランディのところへ戻ってきます。ランディのところまでくると、また反転してマルセルたちの方に走っていきます。
こんなふうにして走り続けるとしたら、ランディが２人に追いつくまでに犬は何ｋｍ走ることになるのでしょうか。

どうです、わかりますか」

にこにこと問い掛けるルヴァに、少年たちはあとずさった。

「何ｋｍ走ったかって…それ、えらくややこしい計算になるんじゃねーか…」

「いいえ、そんなややこしい問題ではありませんよ。落ち着いて考えてごらんなさい」

「…ルヴァ…ひょっとして、２人でいるの俺たちに邪魔されて、怒ってんじゃねーか」

「まさか…」

ルヴァは軽やかに笑う。
少年たちは、頭を寄せ合って考え始めた。


一心に考える少年たちを見ながら、リュミエールはそっとルヴァの頬に口付けた…
問：ランディが２人に追いつくまでに、犬は何ｋｍ走ることになるのでしょうか。
考え方とともに答えてください。

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