Ｑ１

「あ〜今日も爽やかな良いお天気ですね〜」
窓をいっぱいに開け、ルヴァは朝の大気を深呼吸する。
まだひんやりと冷たい空気が気持ちいい。
今日は土の曜日で執務はお休みだ。
新しく届いた本の山はまだ未整理なまま机の上に山をなしているし、
ゼフェルが作ってくれた新作のルアーも試してみたい。
さて、何をして過ごしましょうか…と考えていたら、
「ルヴァ様、今日は何かご予定がおありですか」と後ろから肩を抱かれた。
振り返ろうとすると、そのまま身体を反転させられて、向かい合う形となる。
「おはようございます」とにっこり微笑む優しい瞳を見詰めて
「おはようございます、リュミエール」と返事をする。
そして、おはようのキス…


朝食を済ませて、テラスでお茶を飲む。
「久しぶりに森の湖にでも行ってみませんか」
「ルヴァ様、あのルアーを試してごらんになりたいのでしょう」
ルヴァはちょっと照れたように頬を染めて笑った。
「えぇ…なんだか大物が釣れそうな予感がするんですよ」
「ルヴァ様…」
リュミエールは声を上げて笑いだした。
「あの、どうしてそこで笑うんですか」
睨んでみても甲斐はない。笑い続けるリュミエールを見て、ルヴァも笑ってしまった。

「何何ィ？ずいぶん楽しそうじゃない」
「あぁ、いらっしゃい、オリヴィエ」
「んもう、そんな涙流して笑いながら挨拶してくれなくってもいいから…」
オリヴィエはイスを引き寄せて腰を下ろす。
「アタシにもお茶ちょうだい。あ、茶菓子もね」
「えぇ、ちょっと待っててくださいね」
ルヴァはポットのお湯の量を試してみて首をかしげると、厨房へお湯を貰いに行った。
これは…湖へ行くのは午後になりそうですね、とリュミエールは苦笑を洩らす。
「何よ、リュミちゃん、どしたの？」
「いえ、別に何も…」
「そう？…あら、あれゼフェルの声じゃない？」
「誰かと言い争っているようですね」
二人は近づいてくる人の声に耳を澄ました。
「だから、そんなヒマはねーって言ってるだろーが」
「そんな手間のかかるもんでもないだろ。お前ならあっという間に作れるぜ」
「おだてたって無駄だぞ。俺ァ作らねーからな」
庭を突っ切ってゼフェルとオスカーが姿を現した。
「ゼフェル、ご一緒にお茶をいかがですか」
「何よ、なんでオスカーがゼフェルの後追っかけてるのさ。そんな趣味あったっけ」
「バカなこと言ってんじゃねーや。あーノド渇いちまった。俺にも茶ァくれよ」
ちょうど戻ってきたルヴァが、はいはいと返事をしてお茶を淹れ始める。
「まったく頑固なヤツだな」と呟いてオスカーも腰を下ろした。
「で、何がどうしたっての？」
「オスカーのヤツ、ネズミがいるからネズミ捕りを作れって言うんだ」
「ネズミ…かぁ。オスカー、あんた飲んだまま寝ちゃうことが多いから、つまみとかの食べ物も出したままなことが多いでしょ。だからネズミが居つくのよ」
「うるさいな。食べ物の始末はちゃんとしてるぜ。いるもんは仕方ないだろ」
だいたいなんだって聖地にネズミがいるんだよ、とオスカーは小声でぼやいた。
「あ〜ネズミと言ってもですね〜、実験用のものが逃げ出して増えたものですから、イエネズミとかドブネズミとかではないんですよ」
「実験用…って、ルヴァ、まさかアンタが持ち込んだんじゃないでしょうね」
「えっ、ち、違いますよ。そんな睨まないでくださいよ〜」
「怪しいなぁ…。ま、いいわ。それよりオスカー、ネズミがいるんならネコ飼いなさいよ」
「ネコか…ネコなら俺が手に入れてきてやるぜ。可愛いヤツをよ」
「ネコはいいですね。わたくしは白くて毛足の長いコが好きです」
「短毛種もいいわよぉ。きりっとした感じでさ」
「どーせなら子猫にしよーぜ」
「あ〜私は三毛猫なんかもいいと思うんですけど…」
「勝手に話を進めるな！だいたい、ネコなんて、そんなにネズミ捕るのか？」
「捕る、捕る〜。大丈夫だって」
「…そうか？」
「あ、ところでネコといえば…オスカー、これ分かるかな〜」
「何だ」
「あのね、『５匹のネコが５匹のネズミを捕るのに５分かかるとしたら、１００匹のネコが１００匹のネズミを捕るのには何分かかるでしょう？』…分かる？」
「オリヴィエ、お前、俺をバカにしてるのか。
５匹で５匹を捕るのに５分なら、１００匹で１００匹を捕るのには１００分に決まってるじゃないか」
一瞬の沈黙の後、オリヴィエは盛大に笑い出した。
「お、おい、オリヴィエ」
「オスカー、ホントにアンタってば外さないわねー。もうおっかしー」
笑い続けるオリヴィエに、オスカーは心配そうに計算を始める。
その様子を見て、オリヴィエはさらに笑い続ける。
ゼフェルにそっと袖を引かれたリュミエールは「５分ですよ」とささやいた。

「ネズミといえば…」
ルヴァが静かに言い出す。
「え、何何？」
「こんな話があるんですよ」
興味深げに見詰める４人に向かってルヴァは話し始める。
「あるところに何匹かのネズミがいましてね、そこへ１匹のネコが来て３分の１のネズミを捕ったんです。
次にやってきたネコが残りの３分の１のネズミを捕って、
次にやってきたネコがさらにその残りの３分の１のネズミをを捕って、
次にきたネコが８匹のネズミを捕って、
次にきたネコが捕ろうとしたらもうネズミは１匹もいなかったというのですが…
さて、最初にネズミは何匹いたのでしょう」
「何だって？　ルヴァ、もう一度言ってくれ。ネコがどうしたって？」
ルヴァはもう一度繰り返した。
４人が計算を始めるのを見て、ルヴァはポットを手に立ち上がった。
　　さて、新しいお湯を貰ってくるまでに答えは出てるでしょうかね…
４人はルヴァがいなくなったのにも気が付いていない様子で計算に没頭していた。
問：ルヴァの話で、最初にネズミは何匹いたのでしょう？

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