Q１

「ルヴァ様〜」

テラスでお茶を飲んでいるルヴァの耳に、明るい声と共に、元気良く走り寄ってくる足音が飛び込んできた。
足音は、直接庭の方からテラスにやってくる。

「ルヴァ様こんにちはっ」

「…よお」

「あぁ二人ともいらっしゃい。まぁ、そこへお座りなさい。今お茶を淹れますね〜」

「いらねーよ、別に…」

「ゼフェルったらまた！…ルヴァ様、すみません。ありがとうございます」

「いいんですよ、マルセル」

ルヴァはにっこりと笑ってお茶を淹れる。
目の前に出されたお茶を一口味わって、マルセルはおもむろに話し出した。

「ルヴァ様、僕たち、朝からオレンジの収穫をしてたんです。僕のところの果樹園でたくさん実ったんですよ」

「っとによー。まぁ朝っぱらから人使いの荒ぇこと荒ぇこと」

「ゼフェル〜！！」

「まぁ、いいじゃありませんか、マルセル。ゼフェルもご苦労様でしたね」

「まあ、別にあれぐらい何てこたぁねーけどよ」

フンとうそぶいてカップを干す。

「それで、マルセル、今日は何かご用でもありましたか」

「えぇ。あの…オレンジをおすそ分けしようと思って持ってきたんですけど…」

マルセルは、何かを頭の中で整理するように、考えて話し始めた。

「僕たち、収穫したオレンジを全部持って、まずジュリアス様のところへ行ったんです。
いくつか差し上げたら、とってもいい出来だって褒めてくださったんですよ。
僕、嬉しくって…」

ルヴァは、うんうんそうでしょうね〜と頷きながら聞いている。

「なぁマルセル、結局ジュリアスはいくつ持ってったんだ？」

「あのね、最初にあった分の８分の１だけ持っていかれたんだよ」

「ふ〜ん…」

「で、その後歩いてたらオリヴィエ様に出会ったんです」

「あぁ、なんかあいつもオレンジ持ってなかったか」

「持ってらしたよ、１個だけど。で、僕がいくつかいかがですっていったら、そうだね〜って考えて、
両方合わせた分の半分持っていかれて…」

「けっこうたくさん抱えていったよな、オリヴィエのヤツ。
んで、次に出会ったのがオスカーだったよな」

「うん、そうだったね」

「あいつが持ってったのは…」

「クラヴィス様のちょうど倍だったよ」

「そっか、オスカーの後はクラヴィスんとこ行ったんだっけ」

「うん。クラヴィス様はお昼寝してらしたのに、オレンジの香りで目が覚めたって微笑まれて…」

「微笑んだ、だとぉ。にた〜っと笑っただけじゃねぇか。
で、クラヴィスはいくつ持ってったんだよ」

「僕、半分どうぞって差し上げたら、そんなにはいらないからって１個返してくださったんだ」

「あぁ、そうだったな。で、ルヴァんとこ来る途中でランディ野郎に出会ったわけだ」

「そうそう。ランディはジョギングの途中だったよね。
で、運動のあとはビタミンCがいいんだって言って…」

「いくつ持ってったんだ」

「３分の１」

どこまでこの話は続くのだろう…そう思ってルヴァは聞いていた。
いつの間にかゼフェルとのやりとりになっていたマルセルが、ふいにルヴァの方を向いた。

「それで、そのままルヴァ様のところへ来たんですけど…」

マルセルはちょっとゼフェルを睨んだ。

「聞いてください、ルヴァ様、ゼフェルったらひどいんですよ」

「なんだよマルセル。あんまり美味そうだったから、ちょっとかじっただけじゃねーか」

「ちょっとじゃないでしょう！　
ルヴァ様〜、気が付いたら途中でゼフェルが次々とオレンジを食べてるんです。
だから、これだけしか残らなくって…」

マルセルはルヴァにオレンジを１個差し出した。
おや、とルヴァの目が丸くなる。

「次々って俺ァそんなに食ってねーぞ」

「５個以上食べてない？」

「食ってねえ！
それに、最後の一つは半分に割っておめぇにやったろ。
おめぇだって美味そうに食ってたじゃねーか」

マルセルは首をすくめてヘヘッと笑った。

「というわけで、一個になってしまったんですけど、どうぞもらってください」

「おう、味の方は保証するぜ」

「ええ、ありがとう、マルセル。喜んでいただきますよ」

にこにこと笑っていたマルセルが突然「あぁ〜っ！」と叫んだ。

「どうしたんだ、マルセル」

「ゼフェル〜どうしよう。なにか忘れてると思ったら、リュミエール様に差し上げてないよ」

「あぁ、そういやそうだな」

「どうしよう。もう収穫出来そうなのは残ってないし…」

おろおろするマルセルに、ルヴァはにっこりと笑った。

「大丈夫ですよ、マルセル。リュミエールには私からおすそ分けしますから。
これを半分ずつにしてね」

あぁよかった、とマルセルはホッとしてもう冷めてしまったお茶を飲み干した。
ルヴァが新しいお茶を全員に淹れた。

「よおルヴァ。俺たちが最初に何個のオレンジを収穫したかわかるか？」

「今のお話は全部整数で考えればいいのですか」

「整数って何、ゼフェル…」

「分数や少数じゃない、ちゃんとした数のことだ」

「えぇそうですよ。マルセル、あげた数も残った数も、何個と数えられる状態だったのですね。
『５個と３分の１個』などというふうにはならないのですね」

「はい、そうです、ルヴァ様」

「それなら…わかりました。ずいぶんたくさん収穫しましたね」

ルヴァは二人に向かって微笑みかけた。


問：マルセルとゼフェルは何個のオレンジを収穫したのでしょうか？

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