「ルヴァ様、お茶のお変わりはいかがですか」「えぇ、お願いします」ルヴァはリュミエールに向かってにっこりと笑った。「オリヴィエ、あなたは」「ん、そーね、もらおっかな」綺麗にルージュを塗った唇がにっと笑う。ふくよかなお茶の香りが漂う。いつもどおりの３人のお茶会の午後だ。のんびりとした、平和な空気が流れている… 「ねぇ、ルヴァ～。なんか面白い話してよ～」「え、話ですか…話ねぇ…そうですねぇ…」ルヴァはゆっくりとお茶を口にする。「これは私が聖地に来るずっと前の話なんですけどね…」ルヴァは遥か遠くを見詰めるような眼差しで語り始めた。「…隣の村にとってもお金持ちだけどちょっと変わり者の男がいましてね。その男には息子が二人いたんですけど、あるとき男は二人の息子にこう言ったんです。『息子たちよ。私ももう年老いた。そこでお前たちのどちらかに財産を譲って隠居しようと思う。どちらに跡目を譲るかはラクダレースによって決めたい。明日の朝、それぞれ一番自慢のラクダに乗って村の門のところへ来るように』息子たちは喜んで家に帰り、最高のラクダを選び出してしっかり世話をし、翌日に備えました。え？ラクダって何だ、ですか？あぁ、あなた方はご存じないかもしれませんねぇ。ラクダというのは砂漠に適応した動物で、わたしたちは乗用にも運搬にも、馬ではなくラクダを用いるのが一般でしたよ。えぇ、普段はおとなしいんですが、走らせればかなりの速さで走りましたね。ラクダの習性にはいろいろと面白いものがあって、例えば… え、ラクダはわかったから、息子たちの競走に戻れ？あ、あぁそうでしたね… さて、翌日、二人の息子は自慢のラクダに乗って自信満々で村の門までやって来ました。噂を聞いた村人たちも見物に詰め掛けていました。スタートの合図を待ち構える息子たちの前で、男は宣言しました。『さぁ、息子たちよ、隣の村まで砂漠を越える競走をするのだ。ここにお集まりの皆さんを証人として、私は宣言する。お前たちのうち、このレースに勝ったラクダの持ち主に私の全財産を譲ろう』見物人はどよめき、兄弟は自分こそが勝者になるのだという意気込みを露わにしてお互いを見合いました。ところが、父親はさらにこう言ったのです。『ただし、普通のレースでは面白くない。今回のレースでは遅く着いたラクダを勝ちとする！』見物人は再びどよめきました。空にはぎらぎらとした太陽が顔を覗かせています。まもなく灼熱の昼間となるのです。そんな中を相手より遅く着くためにラクダをのろのろと進ませるなんて、考えただけでも恐ろしいことです。皆、自分はそんな変わり者の親を持たなくて幸いだったと、兄弟の方を気の毒そうに眺めました。『もちろん、少しでも不正が行われたら、財産はどちらにもやらん。それどころか、私たちと敵対している国へ資金援助として全財産を寄付してしまうぞ。棄権することも許さん。さあ、スタートせよ！」兄弟たちは仕方なくラクダをスタートさせました。少しでも相手より先に行かないようにと、必死でラクダをあやつり、のろのろと進んでいきます。見守っていた村人たちがそれぞれの家に帰ってしまっていった後も、二人はまだ村の入り口からさして遠ざかってはいませんでした」ルヴァは言葉を切ってお茶を飲む。リュミエールがすかさずお代わりを注いでくれた。「炎天下の砂漠で遅さを競う、か…。う～っお肌に悪そう」オリヴィエが大げさに身を震わせる。「それで、ルヴァ様、そのレースの結果はどうだったのです」「そこがこの話の面白いところなんですよ」ルヴァはリュミエールに謎めいた微笑を送った。「私の村がゴール地点となっていたので、私の村の人たちはどちらが勝つのだろうと村の入り口に集まって、砂漠の向こうを眺めていました。えぇ、まだ幼かった私も弟と一緒に見物に行っていましたよ。すると、まだ着くはずもない早い時間に、遥か遠くに微かに砂煙が立つのが見えたのです。驚いて見詰めていると、すぐにラクダの姿が現れました。２頭のラクダが先を争ってものすごい勢いで走って来るのです。我々が見ている前を、２頭のラクダは一気に駆け抜けました。もちろん、父親は宣言したとおり、勝者となった息子に全財産を譲りました」「ちょっと待ってよ、ルヴァ…。それ、遅く着く競走でしょ」「えぇ、そうですよ」「じゃあ、なんだってそんな勢いで走らせてくるのよ」「さあ、どうしたんでしょうねぇ。なにしろ昼間の砂漠は地獄ですからねぇ。早く着きたいと思ったんじゃないですか」「それにしたって、おかしいじゃない。先を争って駆けてくるなんて…」「実はそこに秘密があるんですよ。財産は欲しい。昼間の砂漠で干からびるのは嫌だ。さあ、二人はどうしたのか…。わかりますか」「あら、突然パズルなの？よぉし、考えてみようじゃない」「…勝つ方を決めておいて後で財産を折半するとか…そういった不正は行われていないのですね」「えぇ、レースは全く公正なものでしたよ」リュミエールとオリヴィエは不思議そうな顔で考え始める。ルヴァはにこにこと笑いながらお茶を飲み干した。
	問：灼熱の砂漠でのろのろ競走をするのを免れるために兄弟二人はどのような方法を考えたのでしょう。ルヴァのいうとおり、不正はまったく行われていませんよ。

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