眠れない･･･ 何度目かのため息をついて、リュミエールは腕の中のルヴァを見た。 リュミエールの苦悩とは対照的に、なんとも安らかな風情でルヴァは眠っている。 「ルヴァ様･･･」 そっとつぶやいて、無理にでも眠ってしまおうと目を閉じる。 なんとかまどろみかけた頃、押し付けられる身体の感触と「リュミエール･･･」と呼ぶ微かな声で、また眠りから現実に引き戻された。 目を開けて見ると、ルヴァは相変わらず平和そうに眠っていた。 どんな夢を見ているのだろうか、幸せそうな微笑を浮かべながらリュミエールに擦り寄っている。 「･･･リュミエール･･･」 と、微笑んだ口元から、また甘やかに言葉がこぼれてくる。 （ルヴァ様･･･わたくしの夢を見ていらっしゃるのですか？） 耳元にそっと「ルヴァ様･･･」とささやきを落とす。 「ルヴァ様･･･愛しています･･･」 起きているときにはなかなか言えない言葉を吹き込む。 ルヴァは嬉しそうに笑った。 ルヴァの手が、大切なものを慈しむようにリュミエールを抱きしめる。 眠っているのに･･、いや、眠っているからこそのルヴァの振る舞いが、リュミエールを嬉しがらせる。 と同時に、それは危ういところで理性を保っているリュミエールを苛む。 （･･･ルヴァ様、どうしましょう･･･。本当に、わたくしはもう限界です･･･） ため息。 切なげに寄せられる眉間の縦じわ。 そんな気持ちも知らぬままの、ルヴァの無垢な微笑み。 （･･･ルヴァ様･･･） リュミエールの手が、震えながらルヴァの頬に触れる。 指先が頬から耳の下を通って蒼緑の髪に行き着く。 柔らかな手触り。 ルヴァの口から、ささやかな吐息が漏れる。 （･･･あぁ･･･もう･･ダメです･･･。申し訳ありません･･･ルヴァ様･･･） リュミエールは耐え切れず、ルヴァを引き寄せてその唇に口付ける。 触れるだけの口付けが、次第に熱を帯びてきて、強くルヴァを求める。 舌先で促すとルヴァは軽く唇を開いてリュミエールを受け入れた。 舌を絡め吸い上げる。 熱い息を交換する。 「･･あふ･･･」 飲み込めないで溢れた唾液が頬を伝う･･･ 唇からまぶたへ、耳元へ、首筋へ、リュミエールの唇がゆっくりとたどっていく。 まだ目を覚まさないまま、ルヴァが「･･あ･･･」と声をあげる。 リュミエールの理性は、危険信号を発している。 このまま進んでいってはいけない、と、過去のしくじりを思い出させて止めようとする。 かつて、二人が結ばれて程無い頃･･･ ルヴァに思いが通じたのが嬉しくて、 ある日、もうどうにもその気持ちが止められなくなって、 「明日も執務があるからいけませんよ」と言ったルヴァの言葉を聞き入れることが出来なくて･･･ 一晩中、ルヴァを抱いた。 「･･･リュミエール･･もう･･･許してください･･･」と懇願するルヴァの声も耳に入らなかった。 ルヴァが意識を失っても、やめることができなかった。 「ルヴァ様･･･愛しています」とささやきつつ、夢中で抱き続けた。 朝になって、ルヴァは起き上がることが出来ず、朝の会議を休むことになった。 それでもルヴァは午後になると聖殿に出仕し、辛い身体を叱咤して執務をこなした。 リュミエールはひたすら謝るしかなかった。 手伝うことも許されず、ただ身をすくめて見守っていた。 そのあと何日も、リュミエールはルヴァに触れさせても貰えなかったのだ。 もう二度と無体なことはしないと何度も約束して、ルヴァに「仕方がありませんね･･･」と苦笑と共にキスして貰ったときは本当に嬉しかった。 その時の後悔と反省の思いを、理性はリュミエールの心によみがえらせる。 今ここでルヴァを抱いてはならないと、リュミエールを押しとどめる。 リュミエールも、頭ではわかっていた。 しかし、感情はもう止められなかった。 ルヴァが愛しい。 ルヴァが欲しい。欲しくてたまらない。 この手に抱き締めて、この思いの全てを注ぎ込みたい。 考えている間も、リュミエールの手はルヴァの夜着をくつろげていく。 露わとなった胸元に、手を這わせ、口付ける。 ルヴァは、切なく吐息を漏らし、身悶える。 夢うつつの内にリュミエールの頭を抱き寄せ、その水色の髪をまさぐっていたルヴァが、おや、という感じで覚醒し始める。 今、自分を攻めたてている快感が、夢の中の出来事ではなく現実であると、目覚めた頭が次第に理解してゆく。理解した途端に驚いたようにルヴァは目を明けた。 「リュ、リュミエール･･･あなた、何をして････」 うろたえた口調でルヴァが問いただす。 リュミエールは答えない。答えないで、ただルヴァへの愛撫を続ける。 「･･･リュミエール･･･いけません･･･」 押し寄せる快感に抗いながら、ルヴァは弱々しく抗議する。 「･･･ダメだって言ったじゃないですか･･･あ、あぁっ･･･」 頭は理性に目覚めても、身体の方は既に与えられる刺激を受け入れて快感に打ち震えている。 「･･･ダメです、リュミエール･･･リュミエール･･･あっ･･･ああっ･･･」 抗議の声はいつの間にか甘い喘ぎ声に変わっていた。 「ルヴァ様･･･」 「んっ･･･ああんっ･･･リュ･･ミ･･エール･･･」 ルヴァの身体の感じやすいところを次々にリュミエールの両手がたどってゆく。 切なげに吐息を漏らすルヴァの口を、リュミエールの唇が塞ぐ。 熱い口付けが交わされる。 ルヴァの両手がリュミエールの背に回され、強く抱き締める。 リュミエールの愛撫が続く。 与えられる快感があまりにも大きくて、 そのくせ決定的な快感を与えられなくて、 ルヴァは焦れたようにリュミエールに身体を摺り寄せる。 「リュミエール･･･リュミエール･･･もう･･･あっ･･･」 切なげに首を振るルヴァ･･･ 「･･･お･･願･･いっ･･･リュミエールっ･･･」 「ルヴァ様･･･」 リュミエールが身体を進め、二人は一つになる。 一瞬、声を上げのけぞったルヴァが、必死でリュミエールにしがみつく。 ルヴァのまなじりに溢れた涙を唇で吸い取って、強く強く抱き締める。 ゆっくりとした動きが次第に激しくなって、二人は呼吸を合わせて絶頂へと昇ってゆく。 「･･くっ･･･あぁ･･･あぁぁ･･･」 「･･あぁっ･･･はうっ･･･ん、んん････あぁぁっ･･･」 絶え間のない喘ぎ声が室内を充たしていった。 朝になった。 満ち足りた気持ちで目覚めたリュミエールは、腕の中に抱え込んだルヴァを愛しそうに見詰める。 （･･･すみません、ルヴァ様･･･。またわたくしは････） （･･･あなたがいけないのですよ、ルヴァ様･･･そんなに可愛くていらっしゃるから･･･） 微笑んでそっと額に口付けを落とす。 ルヴァを起こさないよう気を付けてベッドを出ると、シャワーを浴び身なりを整える。 階下に下りて、二人分の朝食を頼み、地の館への伝言を言付ける。 「ルヴァ様はこちらから出仕なさいますから、正装を一揃い届けていただくように、お願いしますね」 執事は、いつの間に地の守護聖の来訪があったのかなどという驚きはかけらも見せず、微笑んで「かしこまりました」と応えた。 寝室に戻るとルヴァはまだ眠っていた。 （ルヴァ様･･やはり、無理をさせてしまいましたか･･･） リュミエールはベッドに腰を下ろし、指でルヴァの髪を梳く。 眠ったまま、ルヴァは気持ち良さそうに笑みを浮かべた。 眠っている時のルヴァは、素直で可愛らしい。 だが･･･、 さて、目を覚まして、昨夜のことを思い出して、 その時ルヴァは、リュミエールに微笑みかけてくれるだろうか･･･ それとも、リュミエールはまた平謝りに謝らないといけないのだろうか･･･ 早く起こして恋人と朝の挨拶を交わしたいような、 起こすのが怖いような、 複雑な気持ちでリュミエールはルヴァを見詰める。 この年上の恋人は、照れも手伝って、時にひどく頑固だから･･･ 起こそうか、どうしようか･･･ 決心がつきかねて、リュミエールはいつまでもルヴァの髪を撫でていた。 |
| ２００２．３．２３ |
あんまりリュミエール様に忍耐を強要しても・・・というわけでもないのですが(笑）突発的に書きたくなってしまいましたので・・・・（＾＾； 攻のリュミ様ではあっても、強くなり過ぎないように、と、その点には気を付けたつもりですが・・・ ま、たまには情熱的なリュミ様を、と。 隠すほどのものではございません。相変わらずぬるいですが、これ以上はちょっと・・・（＾＾； いかがでしたでしょうか？(笑） |