２００１．１０．１
謹呈：トーコ様 ９０００hit 記念
あれからどのくらい経つかな。 そんなには経っちゃいねぇ。 オレが厄介な視察を終えて、報告書をまとめてる時のことだった。 参考にするといい本があるからって言われて、ルヴァんとこ行ったんだ。 「なぁ、ルヴァ、もういーよ。無理して探さなくたってよ、報告書ぐれぇ書けるって」 「ダメですよ。ちゃんと過去の資料を踏まえた上で書かないと不完全な書類になりますからね〜」 ルヴァは本の山をかき回しながらそう言った。 さっき、ルヴァが目当ての本を取り出そうとした時、ちょっとしたはずみで本棚の本が雪崩落ちてきたんだ。 ルヴァの邸の書庫は本で埋もれている。 本棚だってべらぼうにでけぇ。 落ちてきた本の量は‥‥かなりのものだ。 とっさに腕をつかんで引っ張り出したんで、ルヴァは無事だったけどよ。 あれだけの本を片付けると思うとぞっとするぜ。 手伝わねーわけにゃいかねーだろな。 「だってよ、ルヴァ‥‥元々こんなことは予想されてなかったんだぜ。 抜かしてもいぃんじゃねー？」 「何言ってるんですか。 これが必要なファクタだってことがわかったのはあなたの視察の成果でしょう。 ちゃんと書かなきゃいけませんよ」 「‥‥‥」 「あぁ、ほら、ありましたよ」 本の埃を払いながら、ルヴァは嬉しそうに言った。 「じゃあ、お茶にしましょうか」 美味そーに茶ァ飲んでるルヴァの顔を見ながら、オレは出された茶を一気に飲み干した。 なんと名付けたらいいのかわからない、妙に激しい感情が沸き上がってきていた。 「‥なぁ、ルヴァ‥‥」 「はい？」 「報告書とかよ、オレがちゃんとしたモン書かねーと、ルヴァの責任‥‥になるのか？」 「どうしてです？」 「だって‥‥ルヴァは、その‥オレの教育係だから‥‥」 一瞬目を丸くしたルヴァは、おかしそうに笑った。 「ゼフェル‥‥あなたはもう一人前ですよ。教育を受ける期間は終わってるでしょう？」 「じゃあ‥‥ルヴァはもうオレの教育係じゃねーのか？」 「え？ あぁ、そうですね、そういうことになりますね‥‥」 「‥教育係じゃなくなったら‥‥ルヴァはオレの何になるんだ？」 「え‥‥」 ルヴァは戸惑ったようにオレを見た。 「オレはルヴァの何なんだ？」 「ゼフェル‥‥」 「なぁ、ルヴァ、どうなんだよ！」 「守護聖の仲間、同僚‥‥ではいけませんか？」 「イヤだ！！」 気が付いたらオレはルヴァの前に立ちはだかっていた。 「同僚なんて‥‥他のやつらと一緒くたじゃねーか！ ルヴァはオレだけのルヴァでなきゃイヤだ！ ルヴァはオレの特別で‥‥オレはルヴァの特別でなきゃイヤなんだ！！」 叫んだ勢いのまま、オレはルヴァにキスしていた。 テクニックも何も無い、ただがむしゃらに想いをぶつけるだけのキスだった。 ルヴァの手から湯呑が床に落ちたのも気が付かなかった。 しばらくして、オレは「ルヴァが‥‥好きなんだ‥‥」とつぶやいて身を起こした。 ルヴァはあっけにとられたように固まっていて‥‥ そうして、オレを見て「困った人ですねぇ‥‥」と言って微笑んだ。 その顔‥‥ 守護聖なんてやつらは、みんな美形ぞろいだ。 ジュリアスとクラヴィスはもう文句の付けがたい一対だしよ、 オスカーの野郎は目線送るだけで女なら誰でも夢中になっちまう男前だし、 リュミエールは男とも女ともつかない神秘的な美しさだ。 オリヴィエだって、あの化粧落として素顔になった方がきれーなくれーだし‥‥ そんな華やかな連中の中で、ルヴァは整っちゃいるけど地味なヤツなんだと思ってた。 なのに‥‥なのに‥‥ 照れたような困ったような顔で笑ったルヴァは、 今までみたこともねぇほどきれーだった。 んー、なんて言えばいいんだ‥‥あでやかってのか？ ふわっと柔らかくって、あたりがほわっと明るくなるような感じだった。 周りのものが目に入らなくなるくれぇ魅惑的で‥‥ ルヴァは、おっとりとした顔の裏にこんな表情を秘めてたんだ‥‥ バカみたいに突っ立って見惚れているオレの前で、ルヴァは続けて言った。 「‥‥私がやっとのことで気持ちを抑えているのに‥‥本当にあなたは‥‥」 え？ ルヴァは今なんて言ったんだ？ それって、ルヴァもオレのこと好きだってことか？ ルヴァの顔を見詰めたまま、オレはもう一度ルヴァに近付いていった。 顔を寄せるとルヴァは静かに目を閉じた。 そっと抱き締めて、今度はちゃんとしたキス‥‥。 角度を変えて何度も繰り返す。 舌の先で促すと唇が少し開かれた。 そっと舌を滑り込ませる。 舌を絡め、吸い上げる‥‥ ルヴァの腕がオレの背中に回される。 オレのキスに、ルヴァははっきりと応えてくれた。 オレとルヴァがお互いの気持ちを知ったいきさつはそんなふうだった。 それ以来、オレたちは「恋人同士」ってやつになった。 用事があって執務室に行った時や、会議から引き上げる時、昼食に出かける時‥‥ 目が合えば微笑んでくれる。 周りに人目が無いのを確かめて抱き寄せるとそっと身を預けてくれる。 キスを仕掛けると、微かに頬を染めて応じてくれる。 休日に一緒に過ごすことも増えた。 傍にいて、好きなときに抱き締めてキスして‥‥ だけどよ、そのうちにそれだけじゃ満足出来なくなったんだ。 キスだけじゃ足りねー。 もっと、もっと何もかも‥‥‥ 心も身体も、 ルヴァの全てをオレのモノにしたくなった。 抱きてぇって言ったら、ルヴァはどうするだろう‥‥ 好きだって言ったときと同じように、 ちょっと困ったような、はにかんだ笑顔でうなづいてくれるだろうか‥‥ 「もうすぐあなたのお誕生日ですね、ゼフェル」 午後のお茶の時、ルヴァがそう言った。 オリヴィエもリュミエールも来なくって、珍しく二人っきりだった。 「あぁ？」 かじりかけのせんべいから目を上げたオレに、ルヴァはにっこりと微笑んだ。 「プレゼントは何がいいでしょうねぇ？」 言われてオレは思い出した。 誕生日だとか、クリスマスだとか、いろんな時にルヴァはそう聞いてきた。 その度にオレは「んなものぁいらねー！」と突っぱねた。 それでも、ルヴァは次の機会にもそう聞いてくれた。 オレ‥‥ルヴァを悲しませていたのか‥‥ ルヴァは微笑んだままオレが応えるのを待っている。 欲しいものを言ったら喜んでくれるんだろーか‥‥ 何か言わなきゃ‥‥ オレの欲しいもの‥‥オレの欲しいものってなんだ？ 「何でもいいのか？」 「ええ、何でも」 これまでと違う俺の反応に、ルヴァは嬉しそーに言った。 「オレ‥‥」 口を開くまでは、最新式の工具セットでもねだろーかと考えていた。 だのに、オレの口は勝手に言葉を綴っていた。 「オレ‥‥ルヴァが欲しい！」 「はい？」 「ルヴァが欲しい。ルヴァの全部をオレのモノにしてぇ‥‥」 「ゼフェル‥‥」 「ルヴァを抱きてぇ。なー、ダメか？」 自分でも驚いたが、言い出しちまったら後には引けねー。 オレは息を詰めて、ルヴァの言葉を待った。 「あ‥‥」 ルヴァの視線がうろたえたように彷徨う。 「あの‥‥」 ルヴァはオレを見た。 そのままずっと見詰め合って‥‥ ルヴァは静かにうなづいた。 「わかりました。‥‥じゃあパーティーが終わったら私の邸に来てください」 「お、おぅっ」 オレはルヴァを抱き締める。 ふんわりと優しいキス‥‥ 「約束だ。‥‥逃げんじゃねーぞ」 冗談めかしてそう言うと、ルヴァはほんのりと頬を染めて「逃げませんよ」と微笑んだ。 守護聖の誕生日には補佐官主催で誕生パーティーが開かれる。 ガキじゃあるめーし、そんなもんいらねーと思うんだけどよ、 女王陛下も補佐官殿も、中身はいつまで経っても女学生のまんまだからな‥‥ いつもなら「無礼講にも程があろう」とジュリアスに叱責をくらうほど大騒ぎするけど、 今夜のオレは酒もほとんど飲んでねぇし、みんなからの祝いの言葉も素直に聞いた。 オリヴィエが意味ありげに笑いながら 「ゼフェルったら、なんかやたらと良い子じゃな〜い。何かあったの？」と聞いてくるぐれぇ、 そして、そう言われても「はんっ」と笑い飛ばせるぐれぇ、 パーティーの間、オレは上機嫌だった。 パーティーが終わった。 ルヴァに「じゃあ、後でな」と目配せして外へ出た。 いったん邸に戻ってからルヴァの邸に向かう。 エアバイクは目立つからやめた。 あれこれと考えながら歩いていたら、いつの間にかルヴァの邸の前だった。 いつものようにテラスからはいっていくと、ルヴァはちゃんとそこにいて、オレの顔を見てにっこりと笑った。 オレは真っ直ぐにルヴァに駆け寄る。 「ルヴァ‥‥」 ぐっと抱き締めて、ルヴァの首筋に顔を埋める。 柔らかな、いい匂いがする。 湯に入ったばかりのあまやかな風情‥‥ あ！ 「ル、ルヴァ‥‥あ‥‥オレ、シャワー‥‥借りていいか？」 唐突な問いに、ルヴァは一呼吸おいて「えぇ、どうぞ」と言った。 そうして「じゃあ、あの‥‥寝室で‥‥待っていますね」と、 上目遣いにオレを見上げて、はにかむように微笑んだ。 （オレより８cmも背が高ぇのに、どうしてそんなことができるんだ‥‥？） 勢い良く熱いシャワーを出して、頭から浴びる。 さっきのルヴァを思い浮かべるとそれだけで身体の中心がかっと熱くなりそうで、 オレはむきになって身体中を洗いたてた。 これ以上ないってほどきれいに洗い上げた身体をバスローブに包んで、 オレはルヴァの寝室に向かう。 自分の邸より馴染んでるよーな邸なのに、なんだか初めての場所のよーでドキドキする‥‥ なんでだ？ 軽くノックをしてドアを開ける。 微かに灯りの点る部屋の中に、ルヴァがいた。 オレの姿を認めて、そっと立ち上がるルヴァ。 オレは後ろ手にドアを閉め、ゆっくりと近付く。 見詰めあって立ち尽くす。 お互いの瞳の奥を見詰めて、そのまま身じろぎもしねーで突っ立ってた。 やがて、ルヴァの両手がゆっくりと動いてターバンに触れた。 「‥‥ゼフェル‥‥、このターバンの意味は以前にお話したことがありましたね‥‥」 「あ、あぁ‥‥」 見詰め合って視線を絡ませたまま言葉が行き来する‥‥。 「ゼフェル、あなたを愛しています」 ささやくようにそう言うと、 ルヴァは、昼間と同じようにきっちりと巻かれていたターバンを解いた。 蒼緑の、柔らかそうな髪がふわりと波打つ。 ターバンを解いて、恥じらうように頬を染めてオレを見るルヴァは‥‥死ぬほど可愛かった！ 年上だってことを忘れちまうくれー、儚げで、頼りなさそーで、 普段の、あの学者みてーに収まりかえった若年寄の雰囲気なんてかけらもねー‥‥ こいつはオレが守ってやるんだ、と、本気で思った。 強く抱き締めて耳元でささやく。 「ルヴァ‥‥オレ、ルヴァを離さねぇ。ずっと傍にいる」 「ずっと、だなんて‥‥そんなことは‥‥」 「うるせぇ。ずっとったらずっとだ。 何があっても、オレはルヴァの傍にいるから‥‥覚悟しやがれ！」 そうだ。離したりしねぇ。 たとえどっちかのサクリアが尽きたとしても、オレはルヴァを離さねぇ。 あいつみてぇにルヴァを置いていったりしねぇ。 あいつ‥‥ あいつとルヴァがどんな関係だったかなんて、もうどうだっていいや。 ルヴァは今、オレのためにターバンを解いてくれたんだから。 思いっきり抱き締めてから腕を緩めて向かい合うと、 ルヴァは嬉しそうに微笑んで「はい‥‥」と応えた。 ベッドに横たわってオレを見上げるルヴァは、いつものルヴァとは全く違う感じがした。 灰色の瞳が色に濡れてオレを見詰める。 切なげで一途な眼差し‥‥ ほんのりと色づく、まるで紅でも差したような唇に、オレはそっとキスを落とす。 始めはついばむように。 角度を変えて何度も何度も繰り返す。 次第に激しくなるキスに、身体の奥が熱く熱を持ってくる。 舌を絡め取り、吸い上げ、思うままに口腔を蹂躪する。 ルヴァの手がオレの背にしがみつく。 唇を解放すると、「‥ふあ‥‥」とルヴァの声が漏れる。 首筋に唇を這わせるとルヴァは「あぁっ‥‥」と声を上げた。 首筋から鎖骨へ、鎖骨から胸元へ、ルヴァの身体をオレの唇がたどっていく。 ルヴァの肌理の細かい滑らかな肌を、オレの掌が滑っていく。 唇が進むにつれて、 掌が這い回るにつれて、ルヴァの声はどんどん甘く潤っていく。 その声に煽られるように、オレはルヴァを抱いた。 ふっと目が覚めた。 朝まではまだまだ時間がある。 オレの腕の中で、ルヴァが静かな寝息を立てている。 目尻に少し涙の跡が見えて、オレはドキッとした。 ルヴァの無防備な寝顔が間近にある。 少し切なげで、でも、うんと幸せそうな寝顔だ。 オレに身体をあずけて眠るルヴァの、確かな質感がオレを幸せにする。 やっと手に入れた。 世間知らずの学者バカで、朴念仁で、説教好きで、 お節介で、鈍臭くて、お人よしで‥‥ ‥‥優しくて、温かくて‥‥ オレの腕の中で甘い吐息を漏らし、快感に身を震わせ、 可愛らしい声を聞かせてくれた‥‥ ‥‥ルヴァ。 おめーはもうオレのもんだ。 もう一生離さねぇ。大切にするからな。 そうしてオレは生涯最高のバースディプレゼントに小さくキスをし、 両腕でしっかりと抱き締めて、眠りについた。 ＥＮＤＥ |
| リクエストは、「ゼフェル様お誕生日記念作品『やがて新しい朝日が昇ってきて…』のあの夜に起こったこと」というものでした。 書き出してみると、やはりそれだけでは収まりが悪くって、結局、ゼフェル君とのそもそものいきさつ、を書いてしまいまいした（＾＾； 肝心の部分は相変わらず「なんとなく」通過しております(笑） トーコ様、こんな作品ですが、いかがですか？ |
