BACK2000.9.4
宇宙空間にわずかながら歪みが生じた。
今すぐどうのということはないが、無視できるほどでもない。
王立研究院の継続点検事項がいくつか増えた。
平行して、地の守護聖ルヴァがその原因の究明に当たる。
これも、急を要することではなかったのだが、
ルヴァはその知的好奇心に火を付けられてしまったようだ。
日々の執務の合間を縫って、
時間のある限り、ルヴァは研究院か図書館でデータや文献をあさっていた。
もちろん私邸にいる時も同様に、書斎か書庫で時を過ごしている。
地の守護聖の私邸の書庫といえば、その蔵書量は半端ではない。
ルヴァは、昼も夜も、こころゆくまで調べものに没頭することができた。
この事態がありがたくないのは、夢の守護聖オリヴィエである。
昼休みも、午後のお茶の時間も、夜の憩いの時間も、そして休日も、
二人で過ごすことの出来る時間を全部、
古めかしい書物やら、レポートやらに奪われてしまっているのだから。
「でもね」
とオリヴィエはつぶやく。
「それはまあ、いいんだよ。ルヴァがこういう人だってのは百も承知で好きになったんだしさ････。
それに、私がこうして同じところにいさえすれば、ルヴァの姿をずぅっと眺めていられるんだしね〜」
半ばため息をつきながら、オリヴィエはカップの紅茶を飲み干す。
ここはルヴァの私邸の書斎。
金の曜日の夜。
休日前夜のディナーを二人で楽しんで、そして････
というはずだったのに、ルヴァは心ここにあらずといった感じで食事を済ませ、
食べ終わるやいなや本棚に張り付いているのだ。
１時間･･･２時間経ってもいっこうに終わる様子はない。
オリヴィエならずともため息の一つも出ようというものだ。
「だけど、これだけは黙っちゃいられないねっ」
オリヴィエは立ち上がるとルヴァの元へ進んだ。
ルヴァは、天井まで届く書架に掛けられた可動式のはしごの上の方に座り込んで、
目の前の棚から引き抜いた本を､読み耽っている。
「ルヴァ、ルヴァッ」
オリヴィエの呼びかけもまるっきり耳に入らない様子で、ルヴァは本に集中している。
「ルヴァッ、ルヴァッ!!」
再度、オリヴィエは呼びかける。はしごを叩かれた振動が、ようやくルヴァを現実に引き戻した。
「あ、あぁ、オリヴィエ。どうかしたんですか〜」
のんびりとした声が降ってくる。
「どうかしたじゃないわよ。とにかくすぐにそこから下りといで！」
「えー、でも私はもう少しここらの本を調べたいんですけど････」
オリヴィエのすさまじい視線に、声がだんだん小さくなる。
「いいからっ。下りてこなきゃ、私が上ってって引き摺り下ろすからねっ」
「あぁ、待ってください、今下りますから」
よっこらしょ、という感じでルヴァが下りてきた。もちろん手には何冊かの本を抱えている。
すかさず、オリヴィエがその本を取り上げる。
「あ････」
ルヴァの視線は本を追ってさまよう。
「ルヴァ、本は逃げないよ」
「はい？」
とルヴァがオリヴィエを見つめる。
「本も資料も、むきになって追いかけないと消えてしまう物じゃないでしょ。
第一、宇宙の歪み自体、あせって解明する必要もないんだし」
「それは･･そうなんですけどね･･･」
「もっとのんびりと、余裕を持ってあたった方がうまくいくんじゃないの。
寝ないわ、食べないわ、じゃあんたの身体の方がまいっちゃうよ」
「私は･･食べてるし、寝てますよ」
「何言ってるの。さっきは私と一緒だったからなんとかテーブルに着いてたけど、
最近のあんた、調べものの片手間に食べられるようなものばっかり用意させてるって聞いたよ。
寝る時間だって殆ど無いっていうし･･･｡
そんな無茶ばっかりしてると、健康を損ねるし、お肌だって荒れちゃうんだよ！
（あらやだ、ルヴァったら相変わらずのすべすべつやつやのお肌だわ･･･。
ろくにお手入れもしてないし、こんな無茶してるのに････
いいわね〜って、そうじゃなくて！！）
とにかく、今日はもう本読むの止めて寝なさい！」
「でもオリヴィエ、もう少しで何かつかめそうなんですよ。
ず〜っと昔に読んだ何かと関連があるように思うんですよ。
それがなんだったのかは見つけてみないとわからないんですけど････」
「ルヴァ！！」
オリヴィエはルヴァの身体を抱き締め、話し続けるその口を、口付けでふさいだ。
愛情に充ちた、深く容赦のない口付け････。
ルヴァがわずかに身じろぎするが身体はしっかりと拘束され、口唇は解放されなかった。
ルヴァの意識が飛んだ。
オリヴィエは、意識を失ったルヴァを抱き上げると、
寝室まで運び、衣服をくつろげてベッドに横たえる。
「ごらんよ、ルヴァ。
あんたがいくら平気だって思ってても、あんたの身体はもう限界まできてるんだよ。
今夜は宇宙の歪みのことなんて忘れて、ぐっすりとお休み。
よく眠れるように、とびっきりの夢を贈ってあげる」
ルヴァの頬に軽く口付けすると、オリヴィエは部屋の灯りを落とした。
カーテンの隙間から朝の光が差し込んできた。
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
今日も美しい一日が始まったようだ。
オリヴィエは、腕の中に眠るルヴァを見つめた。
穏やかで安らかな、あどけない寝顔。
「ねぇ、ルヴァ。
あんたは、考え始めると眠るのも食べるのも、すぐに忘れちゃうけれどね、
少しは身体のことも考えなきゃだめだよ。
ま、無理しだしたら、私が止めてあげるけどさ。
それにしても、
このオリヴィエ様ともあろうものが、キスだけで一晩腕枕とはね〜。
ルヴァ、あんただからだよ。
････
あんただけだよ、私がそんなことするのは････」
オリヴィエはルヴァの額に優しい口付けを落とす。
やがて、ルヴァが目を覚ました。
「おはよ、ルヴァ」
微笑みかけるオリヴィエ。ルヴァの顔にほわぁ〜っと微笑が広がる。
「あー、おはようございます、オリヴィエ」
「よく眠れたようだね」
「ええ、おかげでなんだか頭がすっきりとしたような････あぁ〜〜っ！！」
突然身を起こすルヴァ。
「え、何、どしたの？」
「今、思い出したんですよ〜。あれは、書庫の二つ目の棚にあったはずです」
ルヴァは(彼なりには）急いでベッドから出ると、
服装を整えるのとターバンを巻くのとにじたばたしながら書庫に向かう。
そんなルヴァを見送りながら、オリヴィエは苦笑交じりに一つため息をついた。
（ま、仕方がないか。これがルヴァだもんね）
オリヴィエはベッドから出て、ん〜〜っと伸びをした。
と、突然立ち止まったルヴァが、ちょっと思い詰めたような表情で戻って来る。
「あのォ･･･オリヴィエ？」
「何、ルヴァ」
「あ、あの････心配してくれて･･ありがとうございました」
伸び上がって口唇に軽い口付け。
頬を微かに染めて、ルヴァは身を翻し走り去った。
残されたのは、口唇をおさえて呆然と佇むオリヴィエ････。
（ルヴァから、ルヴァの方から、キスしてくれるなんて････）
「極上････！」
「あーもう、これだからルヴァには適わないったら･･･」
でも朝食はちゃんと食べさせるからねっ、と考えながらルヴァの後を追うオリヴィエの顔は、
これ以上無いほど幸せそうに緩んでいた････。
《おしまい》
これは、まだキリ番の設定をしていないころに、
るるる様が何百番を踏んだの踏みそこなったのと、幻のキリ番ＧＥＴに燃えてくださってて（笑）
チャットの最中に、そうまで言ってくださるなら、じゃあ何かプレゼントしましょうかという話になって･･･
それでは「夢×地」なお話をとのリクエストをいただいて書いたものです。
水×地以外の作品を書くのは初めてのことでしたので、勝手が････。
なんか、ただ甘々の話になってしまいました･･･（^.^； ちゃんと夢×地になってますか･･･？
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