Valentine Kiss (2)　２００４．２．１５

「ルヴァ様…何か怒っていらっしゃいますか」

ティーカップから口を離し、いぶかしげにルヴァを見詰めてリュミエールが尋ねた。

「何を言うんですか。そんなことはありませんよ」

にっこりと微笑んでお茶を飲むルヴァだったが、その笑顔は確かに硬かった。
リュミエールは微かにため息をついて、今日１日の出来事を思い返す。
休日だから、ルヴァと一緒に森へ散歩に出掛け、お昼過ぎに水の館に帰ってきた。
それから今まで、そんなに時間は経っていない。
帰ってくるまでは、ルヴァに別に変わった様子はなかった。
その後、何かあっただろうか…。
怒らせるようなことをした覚えはない。
何も思い当たらない。
リュミエールは途方に暮れてルヴァを見詰める。

そ知らぬ顔でお茶を飲んでいるルヴァの視線が、フッと部屋の一角に動いたことに、リュミエールは気がついた。

　ルヴァ様、何をご覧になっていらっしゃるのです？

そちらには何があっただろう…。
振り向いてそちらを見るのはためらわれる。
リュミエールは、お茶を飲みながら考えを巡らす。
あちらにあるのは、…窓…花瓶を乗せた飾り台…小テーブル…サイドボード…
頭の中で視線を巡らしていったリュミエールは、（あぁ！）と思い当たった。

　ルヴァ様、あなたという方は…

自然と顔が綻んでくるのがわかる。
厳しい顔をしようと思っても、どうしても口元が緩んで微笑みになってしまう。
リュミエールは立ち上がってルヴァのところへ行き、ルヴァを抱き締めた。

「ルヴァ様…」

「リュミエール、どうしたんです、急に。離してくださいっ」

「離しません…」

「リュミエール！」

リュミエールを振りほどこうとするルヴァを、問答無用で抱き上げてソファに運ぶ。
膝の上に抱え上げ、抱き締めて深く口付ける。
いつになく身体を強張らせていたルヴァが、次第に緊張を解いて口付けに応え始める。
繰り返し、何度も何度も、熱い口付けが続く。
ルヴァが、もっと…とねだるように口付けに応える。
甘い口付けはさらに続いた。



「ルヴァ様…お気になさらないでください。わたくしはルヴァ様より他に誰にも心を動かしたりしませんから」

「え…」

自分の不機嫌の理由を知られてしまったとわかって、ルヴァはカーッと赤面してうつむいた。
うつむいて、リュミエールの胸に顔を埋める。
優しく抱き締めたリュミエールは、嬉しそうに微笑むとフッと視線を上げた。
リュミエールが視線を投げた先には、テーブルの上にうず高く積み上げられたチョコレートの山があった。
テーブルの足元にもチョコレートでいっぱいになった箱がいくつか置かれている。
最近聖地にも広まった、とある星の風習…。

「でも…嫉妬していただくのは何だか気持ちの良いものですね…」

「…リュミエール…」

ルヴァはますます強くリュミエールの胸に顔を押し付ける。
その頭を、リュミエールは優しくなでる。

「ルヴァ様…ありがとうございます」

「…」

「え？」

「…バカ…」

胸に顔を埋めたまま、くぐもった声が微かに聞こえてきた。
甘えるように押し付けてくる頭を、リュミエールは愛しそうに抱き締めた。



「ルヴァ様…」

リュミエールがそっと話し掛ける。おとなしく抱き寄せられているルヴァが「何です」と応える。

「ルヴァ様の館にも、きっとたくさんのチョコレートが届けられていると思いますよ」

「そんなことありませんよ。私なんて…」

真面目な顔で否定するルヴァに、リュミエールはクスリと笑う。

「本当におわかりになっていらっしゃらないのですね」

「え…」

「ご自分がどれほど可愛らしいのか、どれほど魅力的でいらっしゃるか…」

「…そんなことありませんってば…」

ムキになるルヴァを、リュミエールは微笑んで抱き締める。

「賭けても構いませんよ。たくさん届いているはずです」

リュミエールが何を言いたいのかわからなくて、ルヴァは身を起こしてリュミエールを見詰めた。
きょとんとしたその顔が可愛くて、リュミエールはますます笑顔になる。

「たくさんあればあるほど、わたくしは嬉しいです」

「え？」

「わたくしのルヴァ様が、それだけ多くの人に愛されているということですから」

ルヴァは、「そんな…」と、戸惑うような顔で聞いている。

「それに…」

リュミエールはルヴァの耳元でそっとささやく。

「それだけ多くの人に愛されているルヴァ様が、わたくしだけのものだと思うと嬉しくてたまりません」

「あ…」

ルヴァはみるみるうちに耳朶まで真っ赤になる。
ややあって、ルヴァは微かな声で言った。

「そうですね…あんなにたくさんのチョコレートが届けられるあなたは…私だけのものなのですね…」

そっとリュミエールを見詰めるルヴァに、リュミエールは極上の笑みで応える。

「はい。わたくしはあなただけのものです…」

「リュミエール…」

「ルヴァ様…」

お互いを見詰めながら、ゆっくりと近付いて、儀式のように静かに口付けを交わす。
口付けは次第に深く激しくなって、いつまでも甘く続いていた。

　　　　　Happy Valentine !
はい、バレンタイン創作２つ目です。続き、というわけではありませんので、独立して読んでいただければ。
こちらも砂吐きそうに甘い２人です。
お好きなように石でもなんでも投げてください（笑）

どうせ１４日前後には顔を合わせる機会はないし…と油断していましたら、突然少しだけ会うことになっちゃいまして、さりげなく知らない顔で話題にも乗せないで済ませました（笑）この年になりますと、バレンタインもずぼらなものです(爆)
皆様は幸せなバレンタインをお過ごしでしたしょうか。