「…クラヴィス様」 「…乗れ…」 馬車の扉が開く。 「いぇ、あの…」 一瞬ためらったが、クラヴィスの視線に促され、「はい…」と頷いて馬車に乗る。 「何をしていた…」 ゆっくりと馬車が走り出してから、しばらくしてクラヴィスが訊ねる。 「ルヴァ様を…お探ししておりました」 「ルヴァか…ルヴァなら…」 「クラヴィス様、ルヴァ様の行く先をご存じでいらっしゃいますか」 「ルヴァは例の惑星に行った…」 クラヴィスはゆっくりとリュミエールを見た。 「突然のことだったが…どうやらお前に伝言を残すヒマも無かったようだな」 「…はい…」 　　ルヴァ様…そうだったのですか… 「今夜は帰っては来るまい」 「…」 「リュミエール…」 「はい」 「このまま私の館に来ぬか。お前の好みそうな酒がある…」 「…ありがとうございます」 突然の空白。その寂しさを思い遣ってくれるクラヴィスの心遣いが感じられて嬉しかった。 「ルヴァが留守の間にお前が泣くようなことになったら、ルヴァに叱られる…」 冗談とも本気ともつかないように言って、クラヴィスが笑った。 「…はい…」 リュミエールは微笑み返す。 その時、自分でも思いがけない涙がこぼれた。 「…あ…」 涙がこぼれたことに戸惑って、止めようとすれば更に涙は溢れてくる。 ルヴァの不在がそれほどにこたえているのだろうか。 「だから、泣くなと言っている…」 クラヴィスはそっとリュミエールを抱き寄せる。 「…はい…」 クラヴィスの胸の中で、リュミエールは小さく応えた。 「大丈夫だ。ルヴァは無事で帰ってくる…」 「…はい…」 馬車は、闇の館に向かって、静かに走り続けていった。 　　　　【　Ｅ　Ｎ　Ｄ　】