森の湖o

「リュミエール、危ないな…」

「…オスカー…」

「どうしたんだ、こんなところで」

「あなたこそ。どうしてこんなところにいらっしゃるんです」

「俺か？　俺は…何というか…月が綺麗だから散歩に来た、というところかな…」

リュミエールは体勢を立て直しながら、オスカーを見る。
どうせまた、どこかの女性の所へ行って来たに違いない。
妙に機嫌の良さそうな、余裕のある態度だった。

「で、お前は？　夜の森なんぞになにしに来たんだ？」

「わ、わたくしも…ただ散歩に来ただけです…」

「ふうん…」

「何です？」

「いや、何でもない。じゃあ特に用は無いんだな」

「…えぇ、何もありません」

「そうか。なら、ちょっと付き合え」

「え…？」

「ちょっといい酒を手に入れたんだ。オリヴィエでも誘おうかと思ったんだが…」

オスカーはリュミエールを見て、ニッと笑った。

「たまにはお前と飲むのもいいなと思ってさ。ここで会ったのも何かの縁だと思って、飲もうぜ」

「あ、あの、わたくしは…」

「用は無いんだろ…」

「…え…えぇ…」

「じゃ、行こうぜ」

オスカーはリュミエールの手首をつかんで、ズンズンと歩いてゆく。
湖の傍までくると、一頭の馬が草を食んでいた。
オスカーの声に応えて駆け寄ってくる。

「さ、乗ってくれ」

オスカーはリュミエールを横座りに馬の背に座らせると、自分もひらりと飛び乗った。

「オスカー、あの…」

「しゃべるな、舌を噛むぞ」

弓から放たれた矢のように、馬は勢い良く走り出した。
リュミエールは慌ててオスカーにしがみつく。

「そうだ。しっかりつかまってろ」

リュミエールを抱きかかえるようにして、オスカーは楽しそうに馬を走らせる。

　　…ルヴァ様…

リュミエールは胸のうちでつぶやく。
泣きたい気持ちだった。

　　【　Ｅ　Ｎ　Ｄ　】