「あの、わたくしはこれでもう失礼します…」 酔って眠りかけている２人を起こさないように、そっと挨拶をすると、リュミエールは部屋を出ていこうとした。 「待ってよ、何言ってるのよ、リュミちゃん」 眠りかけていると思ったオリヴィエが、立ち上がってリュミエールを捉まえる。 「今夜は夜通し飲むんでしょぉ。ほら、突っ立ってないで座って」 えっと思う間もなく元の席に座らされて、リュミエールはいささか焦りを覚えた。 　　このままではルヴァ様を探しに行けなくなってしまいます… 「でも、オリヴィエ、わたくしは…」 「いいからいいから。はい、グラス持って」 グラスが押し付けられ、新たな酒が注がれる。カティスが作った傑作が、芳醇な香りを放っている。リュミエールの好む系統の酒だった。 　　でも、今はお酒どころではありません。ルヴァ様を探さなくては… 「あ、あの…」 「何よ。まさか注がれたお酒、そのまま放っておこうってんじゃないでしょうねぇ…」 「オリヴィエ…目が据わってますよ」 「いーじゃない、私の目だもの。座らせようが立たせようが私の勝手でしょぉ」 　　オリヴィエ、字が違います… 酔っ払いに何を言っても無駄かもしれない、と思いながら、リュミエールはグラスを空けた。 　　美味しい…さすがカティス様ですね… 一瞬うっとりし掛けて、リュミエールは自分をたしなめる。 　　そんなこと考えているときではありません！ 「オリヴィエ…わたくしはこれで…あっ」 立ち上がろうとして、後ろから肩を押さえられ、倒れ込むように腰を下ろす。 「帰るなよ、もっと飲もうぜ」 「オスカー！」 「ほらグラス出せよ」 逡巡するリュミエールの腕をつかんで、オリヴィエがリュミエールにグラスを差し出させる。 かなり酔いの回ったオスカーが、危なっかしい手つきで酒を注ぐ。 「オスカー、私にもちょうだい」 オリヴィエが自分のグラスを出す。 そのグラスにも酒を注いで、今度はオスカーがオリヴィエにグラスを突きつける。 オリヴィエが手に持ったボトルの酒をオスカーのグラスに注いだ。 「ん。じゃあ乾杯しましょ。ほらほら、リュミちゃん、何してんの。はい、カンパ〜イ」 ２人の勢いに飲まれてまたグラスを重ねる。 　　ダメです…わたくしはルヴァ様を…ルヴァ様を… 「ちょっと、リュミちゃん、しっかりしなさいよ」 オリヴィエの声が遠くに聞こえる。 　　なんだか、気持ちがいいです… そのまま意識が途切れた。 鳥の声にふっと目が覚める。 気が付くとソファに寝かせられていた。 周りを見ると、オリヴィエはソファにもたれて、オスカーは床に大の字になって、眠っている。 起き上がると頭が痛んだ。 カーテンの間からは朝の日差しが差し込んできている。 　　一晩、飲み明かしてしまったのですね… ルヴァを探し出して、週末を２人で楽しく過ごそうと思ったのに、一晩を無駄に費やしてしまった。その上、この頭痛…。このままではルヴァの前に顔を出すことさえままならない…。 リュミエールは泣きたい気持ちで、大きなため息をついた。 　　　　　【　Ｅ　Ｎ　Ｄ　】