２００６．７．７ 地の館を訪ねてきたリュミエールは、テラスで何かしているルヴァを見付けて声を掛けた。 「ルヴァ様…」 「あぁ、リュミエール…。よくいらっしゃいました。ちょっとだけ待っていてくださいね」 「ルヴァ様、何をなさっているのです」 リュミエールの視線の先で、ルヴァはせっせと何かを書いている。 「今夜は七夕ですから、七夕の飾りをしようと思ったのですよ」 ルヴァが示す方を見ると、テラスの端になにやら細い竹のようなものが立てられ、色とりどりの色紙で作られた飾りがいくつもさげてあった。 「七夕…の飾り…ですか…」 「ええ。七夕の伝説はご存じありませんでしたか」 「はい。存じません。どんな伝説なのですか」 「ある恋人たちのお話なのですよ」 ルヴァは手を止めて話し始める。 勧められたイスに腰をおろして、リュミエールはその話に聞き入った。 「…それで、年に１度、２人が逢うことの出来る日をお祝いするのです。それを七夕と言うのです」 「切ない恋のお話ですね…」 リュミエールは感慨深げに言った。 「では、その飾りは２人の再会を祝ってのモノなのですか」 「元々はそうだったのでしょうけれど、だんだん意味が変わってきましてね、こうして笹を飾って、そこに願い事を書いた短冊を結び付けると願いが叶う、なんていうふうになってきたのですよ」 「願いが叶う…？」 「ええ。古くは、小さい子たちが字が上手になることを祈った、ということらしいのですが、今はそれにこだわらずに自分の願い事を書きますねぇ」 「ルヴァ様はなんとお書きになったのです？」 「他の飾りを作っていましたから、短冊はこれから書くんですけれど…」 ルヴァはにっこりと笑ってリュミエールを見た。 「リュミエール、あなたも短冊を書きませんか」 「え？」 「ね。一緒に書きましょう」 ねだるように誘ってくるルヴァは、なんとも言えないほど可愛かった。 ルヴァを見詰めながら、リュミエールは「ええ」と微笑む。 それぞれ何枚かの短冊を書いて、２人で笹に結び付ける。 「リュミエール、何を書いたんです？」 ルヴァが手を伸ばして、上の方に結び付けられた短冊を自分の方に向ける。 「『宇宙の平和と女王陛下の御世の繁栄を』。いいですねぇ。真面目なあなたらしい内容です。えーと、こっちのは…　リュ、リュミエール！　なんですか、この短冊」 「『ルヴァ様がもっと我侭を言って甘えてくださるように』。わたくしの心からの願いですが」 「リュミエール…だからといって、これは…」 「ルヴァ様だって…」 リュミエールはルヴァが結んだ短冊を次々と見ていく。 「『宇宙の安定と秩序の維持』、これはマトモですが、『もっとたくさんの本を読む時間が出来ますように』とか、『ゼフェルがあまり無茶をしませんように』とか、『ゆっくりした週末が過ごせるように』とか、ずいぶん私的な願い事だと思いますが…」 「でも、私的といってもあなたのは…」 ルヴァはまた別の短冊を読む。そこには『ルヴァ様が常に強くわたくしを求めてくださるように』と書いてあった。ルヴァの頬が赤く染まってゆく。 「いけませんか」 「だって…」 「ルヴァ様…」 リュミエールはルヴァを抱き寄せて１枚の短冊を示す。 「この『ゆっくりした週末が過ごせるように』という願いですが、ここに‘わたくしと一緒に’と付け加えてはくださらないのですか」 ルヴァの耳元でささやきながら、リュミエールはルヴァを抱き締める。 「あ、あの…」 「わたくしと一緒にゆっくりした週末を過ごしたい、とは願ってくださらないのですか」 「リュミエール…」 ルヴァは動悸が激しく打つのを感じた。 頬が熱い。 「ルヴァ様…」 リュミエールは短冊を離してルヴァをしっかりと抱き締め、口付ける。 甘く情熱的な口付けは、満天の星を背景にして、長く続いた。 リュミエールの胸に抱き寄せられたまま、ルヴァは切ない吐息を漏らしながら星空を見上げた。 美しい星だ、とルヴァは思った。 リュミエールといるから、余計に美しいのだと思った。 「…リュミエール…」 「はい？」 「私の本当の望みは…『リュミエールといつまでも一緒にいられますように』ということです…」 「ルヴァ様」 リュミエールは嬉しそうにルヴァを抱く手に力をこめた。 「その望みは、わたくしの望みでもあります。わたくしも、いつまでもルヴァ様と一緒にいたいです」 「リュミエール…」 そして、深い口付けが交わされる。 このまま、永遠という時間が過ぎればいい…とでもいうように２人は抱き合っていた。 ふと身を離してリュミエールがクスリと笑った。 「リュミエール？」 「ルヴァ様とこうして過ごす時は本当に幸せなひとときですが、気を付けなければいけないのかもしれませんね」 「え？　どうしてですか」 「ルヴァ様と共に過ごすことに夢中になって仕事を怠けると、引き離されて年に１度しか逢えなくなるかもしれません」 「は？」 ルヴァは驚いてリュミエールを見詰める。 リュミエールは大真面目な顔でルヴァを見た。 一瞬の後、どちらからともなく２人は笑い出した。 笑いながら抱き合って、笑いながら口付けを交わす。 幸せな恋人たちの上に、美しい星の光が降りそそいでいる。 そろそろ夜半に近付こうという、七夕の夜の出来事だった… 　　　ＥＮＤ もう８日になってしまいましたが、まだ七夕の夜の続きです(笑） ということで、七夕のお話を… 今年の七夕も曇りでした。 ま、元々太陽暦の７月７日は梅雨の真っ最中なのですから当然といえば当然ですね。 伝統的行事は旧暦で行いたいものです。