SWEET HEART　２００２．１１．１１


「あ〜、少し疲れましたね〜」

左手で右の肩をほぐしながら、ルヴァは少し首を回す。

土の曜日の今日、ルヴァは朝から書斎に籠もって本の山に埋もれていた。
この間、ある案件を処理したときに、気になった事柄。
直接その案件とは関係ないのでそのままにしておいたが、時間が出来たらぜひゆっくりと調べてみたい、と、ルヴァは密かに楽しみにしていた。
そして今日、やっと、ルヴァは心ゆくまで調べ物に没頭することが出来た。
通常の職務の内容とさして変わらないようなものだが、純粋に自分の好奇心を満たすためだけに書物を繰るのはなんとも楽しい。ルヴァは食事を取るのも忘れて次々と本を読み漁った。

一応の結論を得、満ち足りた思いで顔を上げると、窓の外は既に夕焼けの色を見せていた。
ルヴァは指を組んだ両手を上に上げて、ぐぅ〜っと伸び上がる。１日机に向かっていた背筋が少し悲鳴を上げた。




心地よい疲れが身体を満たしていた。
さて、食事をして入浴を済ませたら、朝までゆっくりと眠ろう。
明日は…明日は何をしよう。続けて関連事項を調べてみてもいいのだけれど…
などと考えながら自室のドアを開けると、華やかな色彩が振り返った。

「お疲れ様、ルヴァ。ん〜、その顔だとしっかり成果はあったようだね。楽しかった？」

「オリヴィエ…来ていたんですか」

嬉しそうな戸惑いを見せて、ルヴァが微笑む。

「呼んでくださればよかったのに」

「声は掛けたよ。全然気が付かなかったみたいだけどね」

「あ…そうでしたか…すみません…」

「本に没頭してるときのルヴァは、言ってみればどこか別の世界に行っちゃってるようなものだからね〜。あきらめてる」

からかうように言われて、ルヴァは苦笑を浮かべる。

「それに、書斎に籠もって好きなだけ調べ物するって、最近あんまりしてなかったでしょ。本に埋もれて過ごすなんて私は絶対やりたくないけど、ルヴァにとっては最高に幸せな時間だもんね。邪魔したくなかったんだ」

優しく微笑みかけるオリヴィエに、ルヴァも嬉しそうな笑顔を返す。

「えぇ、本を読むのは、私にとって掛け替えの無い楽しみです」

そう言いながらゆっくりとオリヴィエに近付く。

「でも、それと同じくらいに…あなたと過ごす時間はこの上ない喜びなのですよ」

おや、というようにオリヴィエが眼を見開く。

「あなたがこうして私を待っていてくださるから、私は書物の中から無事戻ってくることが出来ます」

近付いて、そのままオリヴィエに寄り添う。

「ただいま、オリヴィエ…」

「ルヴァ…お帰り…」

オリヴィエは静かにルヴァを抱き締める。そして、優しい口付けを送る。




「さぁ、食事にしませんか。今日はゆっくりしていってくださるんでしょう」

「ん…」

オリヴィエはそっと顔を近づけて、ルヴァの耳元にささやいた。

「朝まで、ゆっくりと、ね…」

「ぁ…」

ルヴァが頬を染めて俯く。その頬に、オリヴィエは軽く口付けを落とした。





食後のお茶を楽しんでいる途中で、ルヴァが「あぁ」と声を上げた。

「そうそう、あなたに差し上げようと思っていたものがあるんですよ。なかなかお渡しする機会がなくって…」

「あら、ありがと。何なの？」

「お渡しするまで内緒です」

「え〜」

「さ、お茶のお代わりはいかがです」

「ルヴァ…」

ため息と共に軽く睨んでみせるオリヴィエ。
ルヴァがクスッと笑ってお茶を飲み干した。





「これなんですけどね…」

ルヴァは引き出しの中から一つの包みを取り出した。

「この間視察で下りた星で手に入れたんです。すぐに差し上げたかったんですけど、あなたは入れ替わりに視察に出掛けてしまったから…」

「何よ、それずいぶん前のことじゃない」

「えぇ、なんだかうまく機会がつかめなかったんです」

「聖殿じゃ毎日のように顔合わせてるし、こうやって一緒に過ごすことも何度もあったよねぇ…」

「そうなんですけどね…つい…」

「まったく、情があるのか無いのかわかんないね」

「そんなこと言わないで、貰ってください」

はい、と差し出された包みを、オリヴィエは拗ねるような顔を作って受け取った。
包みを解いて中身を見た途端、無理に装った不機嫌さはあっという間に消え去る。

「すっご〜い。これエメラルドの原石じゃない。こんな大きなのは珍しいよ」

「私には単なる鉱物標本に過ぎませんが、あなたには別の価値があるでしょうから…」

「うん。ルヴァ、ありがと」

「本当言うと、少し迷ったんです。ちゃんとカットして、アクセサリの形に加工してから差し上げるのとどちらがいいか」

ルヴァは、オリヴィエを見てにっこりと笑う。

「でも、あなたは、ご自分の好みをちゃんとお持ちだから、ヘンに加工するよりは原石のままの方がいいかなと思ったので…」

「ありがと、ルヴァ。すっごく嬉しい」

「そうですか。よかった…」

嬉しそうに原石を見詰めていろいろ考えているオリヴィエの様子を、ルヴァは楽しそうに見ていた。

　（オリヴィエはこれをどうするでしょうねぇ…。指輪でしょうか…イヤリングでしょうか…それとも…）



「決めた！」

オリヴィエが満足の笑みを浮かべる。

「決まりましたか。何にするんです」

「これはねぇ、このままの形で飾っておく」

「おや…」

「ルヴァがくれたものだから、最高のカットをして、ステキなアクセサリに仕立てて、見せびらかしたい気もするけど…」

オリヴィエはクスッと笑った。

「でも、そうすると誰にでもわかる形になってしまう。それよりも、このままにしておいて…想像するんだ。この中にどんな素晴らしい輝きが潜んでいるかって」

「オリヴィエ…」

「その輝きはルヴァがくれたものだから、誰にも見せないで、独り占めしたいからね」

オリヴィエはそっとルヴァを抱き寄せる。

「私だけがわかるんだ、その目立たない外見の中に、どんなに美しい輝きが存在しているのか…」

「オリヴィエ…？」

「誰も知らない…私だけがその魅惑的な姿を知ってるんだ…」

言うなり、オリヴィエはルヴァを抱き締める。

「ルヴァと一緒だよ」

「え？」

「ルヴァがどんなにステキか、誰にも教えたくない。独り占めしたい…」

「そんな…わたしなんて…」

「ルヴァ自身も知らないルヴァの魅力を、私だけが知ってる…」

オリヴィエは「ステキでしょ」と笑って、ルヴァに口付けた。







「…ルヴァ…」

「…ん…あ…あぁっ…オリヴィエ…オリヴィエッ…」


オリヴィエの愛撫を受けて快感の波にさらわれても、まだ切れ切れに残っている理性が、ルヴァになんとも言いようのない恥じらいの風情を添える。
その風情が、さらに熱くオリヴィエを煽ってゆく。
やがて、高まる快感に理性が飛んで、理性から解き放たれたルヴァは、やっと快楽に身を任せるようになる。
苦悶とも見える恍惚の表情を浮かべてオリヴィエを求めるルヴァ…
その唇からは絶え間なく甘い喘ぎが洩れる…
普段のルヴァからは想像もつかない、艶やかで淫らなルヴァ。
激しく攻め立てながら、オリヴィエはルヴァから目が離せない。

やがて、高い叫び声を放って、ルヴァは絶頂の時を迎えた。
その張り詰めた表情も、満足げに弛緩する表情も、全てがこの上なく魅惑的だ。
その様子を見詰めながら、オリヴィエは熱い精を放つ。




腕の中に抱き込んだルヴァの安らかな寝顔に、オリヴィエは優しく微笑みかける。

「ルヴァ…好きだよ…」

普段の、おっとりと穏やかなルヴァに、こんな艶やかな顔が秘められていると、誰が知っているだろう…

「誰にも知らせたくないね…」

オリヴィエはそっとつぶやく。
ルヴァは書物が恋人の朴念仁であると、誰にも好かれる好人物ではあるが恋愛には縁がないと、そう思っていてもらえばそれでいい。
誰もがルヴァを好きだけれど、恋愛の対象とは考えもしない、それでいい。

「アンタの最高に綺麗な姿は、私だけのものだよ。ね、ルヴァ…」

オリヴィエは優しくルヴァを抱き締める。

「誰にも見せない、誰にも触らせない、こんな可愛いルヴァはね」

「ん〜」と、ルヴァが身をよじる。

「…オリヴィエ…どうかしましたか…」

「ううん、なんでもない」

「そうですか…」

「ねぇ、ルヴァ」

「はい？」

「愛してる」

「ありがとうございます、オリヴィエ。私もですよ。私もあなたを…」

ほんのりと微笑んで、ルヴァは再び眠りに就く。
眠りに落ちる寸前の唇が微かに動いて「愛しています」と声にならない言葉を綴った。
オリヴィエは、嬉しそうな微笑みを浮かべると、ルヴァの身体を抱えなおす。

「おやすみ、ルヴァ…。良い夢を…」

額にそっと口付けを一つ。
オリヴィエは幸せそうにまどろみ始めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　Ｅ　Ｎ　Ｄ


お疲れ様でした。
妙なお話ですみません。
そもそもがオリヴィエ様のお誕生日がくるし何か書こうかなぁ…と考え始めたプレゼントネタでした。それが、お誕生日を遥かに過ぎ、二転三転したお話は何やら危ない方向にも行きかけて…結局こんな形にまとまりました。まとまっていないかもしれませんが(笑)
あぁ、そして、気が付けば今日はクラヴィス様のお誕生日です。
闇×地なお話もいいですよね。何か考えてみましょうか…(笑)

…などと、キリリクを溜めまくり、新刊の原稿を抱えていながら、またまた自滅の道を歩もうとする私です…（＾＾；