Q1

「ルヴァ様、いらっしゃいますか」

「あぁ、リュミエール。どうぞ入ってください」

「失礼します」

ゆったりとした動作でリュミエールは地の執務室に入ってきた。

「オリヴィエは…まだのようですね」

「えぇ、まだいらっしゃってませんが、どうかしたのですか」

「いえ…少し前にわたくしの執務室にオリヴィエがやってきて、ちょっと王立研究院に行ってくるから、先にルヴァ様のところに行ってて欲しいと言っていったものですから…」

「あなた方は…」

思わずルヴァは笑いを漏らす。

「ルヴァ様、どうかなさいましたか」

「いぃえ、何でもありませんよ」

ルヴァは尚も笑いを浮かべる。
まったく、この若い友人たちは、人の執務室を休憩室か喫茶室のように思っているのだから…

「それならそのうち来るでしょうから、お茶でも淹れてのんびり待っていましょうか」

「はい」



お茶を淹れ、なんとなく世間話をしていると、しばらくしてオリヴィエがやってきた。
ソファに座るなり「はぁぁ」とため息をつく。

「おや、どうしたんです、オリヴィエ」

不審そうにルヴァが尋ねる。
リュミエールも気遣わしげにオリヴィエを見詰めた。

「何か難しい事態でも発生しましたか」

「え？あぁ…。ううん、何か起こったわけじゃないよ。調べたい事は簡単に片付いたしね」

「では、どうしてため息なんか…」

「うん、ちょっと疲れちゃってさ…。ねぇ、ルヴァは知ってるかな、研究院に今研修に来ている２人」

「あぁ、双子の研究員が研修に来ているとかいう話でしたねぇ。会われたんですか」

「うん。会ったよ。見事にそっくりでね、胸に付けてるネームプレートが無きゃどっちがどっちだか、さっぱりわかんない」

「そんなに似ているのですか」

「似てるね。まさに瓜二つ。だけど、疲れたのは似てるからだけじゃないんだ」

「と言いますと？」

「うん、ルヴァは面白がるかも知れないな。でも…、リュミちゃんは当分研究院に行かない方がいいかも」

「どうしたんです」

「その双子は、ルヴァと同じようにややこしい問題出して人を悩ませるのが趣味なんだよ」

「あ…私はそんな趣味は…」

反論しようとしたルヴァに、オリヴィエは「あるでしょ？」とにっこり笑った。

「それで、その双子に悩まされてきた、ということですか」

「そーなんだよ、リュミちゃん。も、ややこしいったらなかったね」

「あの…どんな問題だったんですか」

「ルヴァ、あんた、楽しそうだねぇ」

オリヴィエはジロリとルヴァを睨む。

「あ…いえ…そんなことはありません…けど…」

ルヴァは「あははは…」と小さく笑った。

「ま、いいわ。どんなだったか話したげるから…その前にお茶ちょうだい」


ゆっくりとお茶を飲み茶菓子を摘まむと、オリヴィエはおもむろに話し始めた。

「その双子の研究員…アランとエドって言ってたけど、２人ともややこしい理屈を考えるのが好きで、その上人をからかうのが好きってヤツらでね、
用事を済ませて一休みしてた私にお茶を出してくれて、少し話してたんだけど、こんなこと言い出したんだよ。

『僕たちの部屋に一組のカードがあります。もちろんカードには赤と黒がありますけど…、
僕は赤いカードを持っているときは本当のことを言いますが、黒いカードを持っているときはウソをつきます』

そう言ったのはアランのネームプレートを付けた方で、エドのネームプレートを付けた方はこう言った。

『反対に、僕は黒いカードを持っているときは本当のことを言いますが、赤いカードを持っているときはウソをつきます』

わかったかと聞くから、まぁねって答えたんだけど、そしたらこんなことを言ったんだよね〜。

『僕たちはこれから部屋に戻って、赤か黒のカードを持ってきて何か言いますから、どちらが誰か当ててください。あ、もちろんネームプレートは外してきますからね』

そんな面倒なことゴメンだと思ったけどさ、せっかくの挑戦を逃げるのもなんだから、いいよって言っちゃったんだよねぇ〜。おかげで、何回もややこしいの考える羽目になった…」

「それは…お疲れ様でしたね」

しみじみとそう言ったルヴァが、同情するような口振りとは裏腹に、どんなふうだったかを知りたがっているのは明らかだった。
小さく肩をすくめると、オリヴィエは話を続けた。

「いろんなのがあったけど、全部は覚えてないよ。
う〜ん、例えばこんなのがあったね…

２人で部屋に行って少ししたら、１人だけが出てきて、『僕は黒いカードを持っています』って言ったんだ。それだけで、アランかエドかどっちか当てろってね。

あ〜、もう１つ思い出した。こんなのもあったっけ。

今度は２人とも出てきてこう言ったんだよ。

１人目『僕たちはどちらも黒いカードを持っています』

２人目『それは本当じゃありません』

これだけなんだよ。これでどっちが誰か当てろって笑ってるんだ。
こんなのを何回か繰り返してさぁ…。
降参したら守護聖の沽券に係わると思ったから、頑張って考えたんだよ。あ〜疲れた！」

ソファの背に身体を投げ出して、オリヴィエはまたため息をついた。
ふとルヴァの様子に目をやったリュミエールは、微かに苦笑を浮かべる。

　（ルヴァ様、すぐにも研究院に飛んでいきたい、という顔をしていらっしゃいますよ…）

問：後の問題に答えてください。１人目と２人目の、どちらが誰でしょう？
　　どう考えたかも答えてくださいね。


では第２問へどうぞ　⇒⇒