Q2

「なんっか、ごまかされてるよーな気がするんだよなー…」

「ゼフェル、ぶつぶつ言ってないで、早くその計算片付けちゃってよ。そこが解けないと次に行けないんだから」

「お、おう」

「あ〜俺、限界だぁ。もう何も考えられないよ」

「てめーはいつだって何にも考えてねーんだから、大丈夫だ。泣き言言わずにとっととデータをまとめやがれ」

「ひどいな。俺だってちゃんと考えるときは考えてるぞ」

「はいはい。反論する余裕があるならそのエネルギーは問題解くのに使ってね」

「そんなことばっか言って、マルセル、おめーはどうなんだよ」

「僕の担当分で、やれるところは済ませたよ。２人が今やってるとこ終わらせないと、やることないんだ」

「そーかよ。んじゃ、ちょっと待ってな」

ゼフェルはまた計算に取り掛かった。


土の曜日の午前中いっぱいを費やして、課題は完成した。
３人がかりでようやく解けるような課題だった。
マルセルの館に集まって課題を片付けた３人は、そのままランチタイムとした。
食べながら、ゼフェルはブツブツと文句を言い続ける。

「ゼフェル、さっきから何言ってるんだ？」

「ん？　俺たちが、ルヴァにごまかされてンじゃねーかってことだ」

「俺たちがルヴァ様に？　よくわからないな。どういうことだい」

「俺にわかんねーモンがてめーにわかるはずねーや」

「何だと！」

「やめてよ、２人とも。ゼフェルが言ってること、僕もわからないよ。説明してくれる？」

「あ、ああ。つまりだな、俺たちは、オスカーの行った島だのなんだのをちゃんと解いただろ」

「うん」

「解いたら、課題を一つ減らしてくれるって約束だったじゃないか」

「減らしてもらってないか？　いつもなら２題出ている課題が今週は１題だぞ。それも３人で１題なんだから約束以上に減らしてもらってるとも言えるぞ」

「そこがごまかしだってんだよ」

「どういうこと？」

「確かに数は減ってるぞ。数は減ってるけどな、いつもはこんなに厄介な課題じゃねーだろ？」

「あぁ、そういえばそうだね」

「そうかなぁ。いつもだって難しいじゃないか」

「ああ、おめーはそうだろーよ」

一瞬脱力したような顔をしたゼフェルは、再び真剣な表情になった。

「とにかく、これはごまかしだ。量より質ってヤツじゃねーか。ルヴァに文句言ってやる！」

「ゼフェル、無茶いうなよ」

「何が無茶だ！　俺はだまされねーぞ。一言言わなきゃ収まらねー」

「どっちにしても今からルヴァ様のところへ課題を出しに行くんでしょ。そのときに言うなら言ってみたら？」

「おう、言ってやるぜ。おい、ランディ、さっさと食っちまえよ。ルヴァんとこ行くぞ」

「え〜、待ってくれよ」

ランディは食べかけていたサンドイッチを慌てて飲み込んだ。



３人が出来上がった課題を手に地の館を訪れたとき、地の館ではいつものメンバーが集まって、のんびりとしたお茶会が始まっていた。

「俺たちを課題で苦しめといて、自分たちは優雅にお茶飲んでるってのはいい態度じゃねーか」

挨拶もそこそこに、ゼフェルが悪態をつく。
ルヴァは何も言わず、にこやかに微笑んで、マルセルが差し出す課題の束を受け取った。
リュミエールとオリヴィエが少年たちをお茶に誘う。
席に着いて、お茶を受け取りながらも、まだゼフェルは静まっていなかった。

「おい、ルヴァ！」

「はい、なんでしょう？」

「この間、オスカーの問題を解いたら課題を減らすって言っただろ？」

「えぇ、言いましたよ」

「俺たち、ちゃんと解いたよなぁ」

「はい」

「じゃあ、なんでいつもより課題がキツイんだよ。数が少なくなっても内容が難しくなってたら意味ねーだろ！」

「いえ、別にそんなつもりではなかったんですけど…。そんなに大変でしたか？」

「あぁ。すっげー大変だったぜ」

「でも、解けたんでしょう？」

「おう！」

「解いてみて、どうでした？」

「どうって…」

何を言われているのかわからず、ゼフェルは口ごもる。
その横で、マルセルが「あ！」と声をあげた。

「僕…なんだかさっきから妙な感じがしてたんだけど…なんだかわかった」

「マルセル、どうしたんだ？」

「あのね、王立研究院に行ってサクリアの分布を確認するときって、研究員の人に説明してもらわないと、データを見ただけじゃわからないでしょ。でも、さっきの課題を解いていたら、あのサクリア分布図がわかるような気がしたんだ」

「え、そうか？」

「うん。漠然とだけど、そんな気がするよ」

「よくわかりましたね、マルセル」

「ルヴァ様、じゃあ、やっぱりそうなんですか？」

「えぇ、そうです。あなたがたも、いつまでも研究員のサポートを頼ってばかりではいられないでしょう。そろそろ自力でいろいろわかるようにならないとね」

「それで課題が難しくなったってことかよ」

「えぇ。たまたま、先日のお約束と重なってしまいましたが、協力して１題ということでちょうどいいかと思いましてね。それとも、まだ時期尚早でしたか？」

「あ、いや、そんなことはねー。確かに俺らもレベルアップする時期だしな。遠慮しねーでどんどん難しい課題出してくれて構わねーぜ」

胸を張って主張するゼフェルを、大人たちは微笑ましく見守る。
マルセルがそっとゼフェルの袖を引っ張って「あまり調子に乗っちゃダメだよ」とささやいた。


納得した少年たちを交え、お茶会が再開される。
課題で疲れたらしく、少年たちも遊びに行こうという話にはならなかった。
とりとめのない会話が行き交い、のんびりとした空気が漂っていた。
平和で穏やかな、週末だった。


「ねえ、ルヴァ…」

ふと思いついたようにオリヴィエが言い出す。

「何か話してよ。軽いヤツ」

「またややこしい問題になんじゃねーのか」

ゼフェルがぼそりとつぶやく。

「ま、それもいいじゃない。あんたたち午前中は難しい問題解いてたんだから、軽い問題でクールダウンしなきゃ」

「バカ言え」

「そうですねぇ、じゃあ面白いものをお話ししましょうか」

「あ〜やっぱりだ。オリヴィエ、おめーのせいだぞ」

ゼフェルが睨んでも、オリヴィエは気にも留めていなかった。
ルヴァがゆっくりと話し始める。

「そうですねぇ…こんな問題はいかがですか。

ある町がありましてね、
その町にはいくつものクラブがあって、キサラギクラブもそのうちの１つでした。
このクラブについては、次のようなことがわかっています。

（１）町のどんな女性も、もしその人がすべてのクラブに入っているのでなかったら、キサラギクラブに入る。
（２）町のどの男性も、彼がはいっていないクラブがほかに少なくとも１つあるのでないと、キサラギクラブの会員になれない。
（３）どのクラブにせよ、そのクラブにはいっていない男性は、キサラギクラブにはいっているあらゆる女性を愛する。

さて、マリアはこの町に住む女性ですが、キサラギクラブの会員かどうかはわかりません。
ジャックもまたこの町に住む男性ですが、彼もキサラギクラブの会員かどうかはわかりません。
では、ジャックはマリアを愛するか、それとも愛さないか、わかりますか？

ちゃんと理由も説明出来ないといけませんよ。

さ、どうですか？」

話を終わって、ルヴァは湯飲みのお茶を飲み干した。
聞いていた面々は、さて、と考え始める。

「あ〜、まったくややこしい問題だぜ」

ゼフェルは大きくため息をついた。

問：ジャックはマリアを愛するでしょうか。それとも愛さないでしょうか。　　理由も合わせて説明してください。

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