「ルヴァ」 「オスカー」と返事をする間もなく、抱き締められ熱い口付けを贈られる。 ぼうっとなったところを抱き上げられ、寝室のベッドの上に放り出された。 「オスカー…」 装束を解くのももどかしいように、オスカーはルヴァに覆い被さって再び口付ける。 何度も繰り返される口付けの合い間には「ルヴァ…」と甘くささやく声が耳を刺激する。 口付けたまま、オスカーの手はルヴァの装束を緩めてゆく。 はだけられた首筋から胸元へ、オスカーの唇がたどってゆくのにつれて、ルヴァの口から切ない喘ぎ声が漏れる。 「はぁっ…んっ…んんっ…」 「我慢しなくていい、声を出せ」 「あっ…あ…んっ…」 「もっとだ。もっと声を聞かせてくれ」 「あ…あぁぁ…んっ…ん…あんっ…」 「ルヴァ…俺の名前、呼んで」 「ぁっ…オ…オス…カ…」 「ルヴァ…」 「オスカー…」 「ルヴァ…」 「大丈夫か、ルヴァ」 声を掛けられて、「えぇ…」と返事をしながら、ゆっくりと意識が戻ってくる。 目を開けると、水差しとグラスを手にしたオスカーがベッドの脇に立っているのが見えた。 まだぼんやりとしている視界の中で、グラスの外側に付いた水滴が光って見える。 「水、飲むか」 ささやくようにオスカーが訊ねる。 微かに頷くと、オスカーはグラスの水を一気に口に含んで身をかがめた。 口移しで与えられた水は冷たくて気持ちよかった。 「もっと…」とねだると、オスカーは笑いながら水差しの水をグラスに注いだ。 ベッドに戻ったオスカーは、ヘッドボードにもたれてルヴァをその腕の中に抱えこんだ。 すっぽりと抱え込まれたルヴァは、そっとオスカーの胸にもたれて、自分よりも熱い体温を感じていた。 「なぁ、ルヴァ…」 「え？」 「昼間の話…。妙な形でだったけど、あいつらにはっきりさせることが出来てよかった」 「あぁ、あなたが私のことを呼び捨てにするって、あのことですか」 「笑うなよ。そう、そのことだ」 「別に、どうでもいいことじゃありませんか」 「そうは言うけどな、俺は目上の人を呼び捨てにするような人間じゃない。なのにどうしてルヴァだけ…って、オリヴィエなんかは結構気にしてるみたいだったからな。ルヴァとのことを勘繰られるんじゃないかって、心配してたんだぜ」 「私は…知られても構いませんけど」 「そうはいかないだろ。…まぁ、いつまでも隠しておけることじゃないかもしれないが…。そのときは、誰かにばれたからじゃなくて、俺からちゃんとジュリアス様に打ち明けて認めていただくから」 「オスカー」 嬉しそうに微笑むルヴァに、オスカーは軽く口付ける。 「でも、これで俺がルヴァをルヴァって呼ぶことの理由がはっきりしたからな。もう誰にも気兼ねはいらないってわけだ」 「気兼ね、なんてしてたんですか」 「してたさ。何だよ、何笑ってるんだよ」 「オスカー」 「ん、何だ」 「大好きですよ…」 オスカーは微笑んでルヴァを抱き締める。 「でも、あれだな、外では「ルヴァ様」って呼ぶのもいいかもしれんな」 「え、どうしてですか」 「人前では「ルヴァ様」と呼び、敬語を使って話して、プライベートでは「ルヴァ」って呼び捨てにして、そして愛し合うんだ。ちょっといいと思わないか」 「バカ…」 「てっ！　つねることないだろ。禁断の恋みたいで楽しいと思ったのに…」 「知りません…」 「じゃあ、プライベートの時だけ「様」付けするのはどうだ」 「オスカー…」 「人前では今までどおりでいて、２人きりになったとたん、態度がガラリと変わるんだ。「ルヴァ様、口付けさせていただいてよろしいですか」とか「ルヴァ様、お召し物を脱がせて差し上げましょうか」…とかさ」 いかにも面白そうに笑うオスカーを、ルヴァは呆れ果てて眺めていた。 「なぁ、楽しそうじゃないか」 「オスカー…」 「何だ？」 ルヴァは伸び上がるようにしてオスカーの耳元で「おやすみなさい」とささやくと、身体をずらして横になり、上掛けにくるまってオスカーに背を向けた。 「お、おい、ルヴァッ。何だよ、冗談だって。なぁ、怒ったのか。怒ったんなら謝る。もう妙なコトは言わないから。なぁ、こっち向いてくれよ、おい、ルヴァ…」 焦った声音で呼び掛けるオスカーの声を聞きながら、クスリと笑うと、ルヴァは気持ちよさそうに目を閉じた。 オスカーに愛されていることの幸福感で自分が満たされていることを感じる。 　 　（私は、幸せですね…） 眠りに落ちる前に、声になるかならないかの大きさで「オスカー愛してます…」と言ったルヴァの声は、焦り続けるオスカーの耳には届かなかったらしい。 静かな寝息を立て始めたルヴァの背に向かって、オスカーはまだ哀願を続けていた…。

オスカー様編です。 情熱的でおバカなオスカー様です(笑） ブラウザのＢａｃｋでお戻りください。