「ルヴァ様…」 「リュミエール！」 嬉しそうな笑顔でルヴァが言った。 リュミエールも幸せそうな微笑を返す。 「あなたはオスカーやオリヴィエと一緒に帰ってしまわれたから、今夜は３人で飲み明かすのだろうと思っていました」 「その予定でオスカーのところに行ったのですが…」 リュミエールはにっこりと微笑む。 「やはりルヴァ様にお逢いしたくって、飲むのは２人に任せて抜けてきました」 「リュミエール…」 「今夜、わたくしと共に過ごしてくださいますか」 「えぇ、もちろんです、リュミエール…」 うつむいて小声で応えるルヴァが可愛らしい。 頤に指を掛け、上を向かせて口付ける。 「…んっ…んん…」 ルヴァが甘い声を洩らす。 リュミエールは優しくルヴァを抱き締める。 夜啼く鳥の啼き声が微かに遠く聞こえてくる。 ベッドに横たわったリュミエールは、ルヴァの身体を抱き寄せながらその声を聞いていた。 リュミエールの腕の中で、ルヴァは可愛らしい顔で眠っている。 愛を交わした余韻が、身体に心地好く残っていた。 満ち足りた安らぎを感じて、自然と顔がほころんでくる。 そっとルヴァの額に口付けると、ルヴァは「…ん……」と目を開けた。 ゆるゆると定まった視点がリュミエールを捉えると、ふわりと笑う。 「昼間は意外なお話を伺いました」 ルヴァを抱いたまま、リュミエールはそっと話し始める。 「え？」 「オスカーのことです」 「あぁ…」 「なぜオスカーはルヴァ様のことを呼び捨てにするのだろうと…ずっと思っていましたが、まさかルヴァ様の方から言い出されたとは考えてもみませんでした」 「…すみません」 ルヴァはすまなさそうに微笑む。 「まぁ、若気の至りといったところですか」 「もしルヴァ様がそうおっしゃらなければ、オスカーはちゃんと「様」を付けてルヴァ様を呼んでいたのですね」 「えぇ、そうでしょうね」 「そんなオスカーを、ちょっと見てみたかったと思います」 リュミエールはクスッと笑った。 触れ合った肌からその笑いが響いて、ルヴァもクスクスと笑いを洩らす。 その口元にリュミエールは微笑みながら口付けを落とした。 「でも…」 「え、何です」 何か言いかけるルヴァの口元に、リュミエールは耳を近づける。 ルヴァはフッと笑ってリュミエールを見た。 「あなたにも同じようにすればよかった…」 「え？」 「あなたにも、オスカーにしたようにお願いすればよかった…」 ルヴァはリュミエールを見詰めて、ねだるような口調で言った。 「リュミエール…、私のこと、「様」を付けず「ルヴァ」って呼んでください」 「ルヴァ様…」 「あなたに「ルヴァ」って呼んで欲しいんです…」 「あ、あの…」 「せめて、こうしている時だけでも…ねぇ、リュミエール…」 「でも…」 戸惑うリュミエールを見て、ルヴァはクスッと笑った。 「わかってます。あなたがそう出来ないことはね…」 「…すみません」 「ちょっと言ってみたかっただけです。気にしないでくださいね」 ルヴァはにっこりと笑うと、少し伸び上がるようにしてリュミエールに口付けた。 「おやすみなさい」 甘えるようにリュミエールに擦り寄って、ルヴァはゆっくりと目を閉じる。 リュミエールは、ルヴァの身体をそっと抱き締めて、その柔らかな寝顔を見詰めていた。 もう、ずいぶん前になる。ルヴァとこういう仲になったころ、何度かルヴァは敬称抜きで「ルヴァ」と呼んで欲しいと言った。リュミエールもなんとかしてルヴァの願いは聞いてやりたいと思うのだが、いざとなるとどうしてもそう呼ぶことが出来ない。そのうちにルヴァはその願いを口にしなくなった。口にしなくなっただけで、心の中では依然として、そう望み続けていたのだろう。 　（そうして差し上げられればよいのですが…） 眠ってしまったルヴァに向かって、声には出さないまま「ルヴァ…」と呼んでみる。 どうにも落ち着かない気恥ずかしさがリュミエールを苛む。 　（やっぱり…私には難しいです。ルヴァ様…） いつか、もっと成長して自分に充分な自信が持てるようになったときには、余裕を持って「ルヴァ」と呼ぶことが出来るのだろうか。 それとも、どこまで行ってもやはり自分にとっては「ルヴァ様」なのだろうか…。 「ルヴァ様…」と口にすると、甘い愛しさが湧き上がってくる。 先のことは先のことだ、とリュミエールは思った。 自然に「ルヴァ」と呼べるようになったらそうすればいい。 無理をすることはない。 今の自分にとってはどうしたって「ルヴァ様」なのだから、それで許してもらうしかない。 リュミエールは、起こさないように気を付けてルヴァにそっと口付ける。 眠ったまま、ルヴァがほわぁと微笑む。 世界の誰よりも何よりも大切で愛しい存在を抱き締めて、リュミエールは幸せな思いで眠りについた。

リュミ様編です。 わかっていながらちょっとわがままを言うルヴァ様、でした。 ブラウザのＢａｃｋでお戻りください。