MILKY 　WAY　　　２００３．７．７

ルヴァがそこに着いたとき、予想どおりの人影を見た。
　
　　夜には勤勉なんですね…

ルヴァは微かに笑いを浮かべる。
そっと歩いたつもりでも、近付く気配に気付いたのか、ゆっくりと振り返ってルヴァを見た。
星明りの中でも、その唇の端がふっと持ち上がるのがわかる。

「星見のお邪魔をしてしまいましたか、クラヴィス」

「いや…。珍しいな…お前がここまで上がってくるとは」

「いえね、今日はやっかいな作業を残してしまって、どうやら徹夜仕事になりそうなんですよ。それで、ちょっと休憩をと思いましてね…」

「…そうか…」

「お邪魔でなければ少し空を眺めさせていただけますか」

「別に…私は構わぬ。好きなだけ見てゆけ」

「ありがとうございます」

にっこりと笑顔を向けると、ルヴァはクラヴィスの隣に立って星空を見上げた。
楽しそうに星空を見詰めるルヴァを、クラヴィスは面白そうに眺めていた。
少しして、クラヴィスの視線に気が付いたルヴァは、恥ずかしそうに微笑んだ。

「ねぇ、クラヴィス」

「…なんだ」

「あなたもご存じのように、私は砂漠の星で生まれたのですけど、小さい時はよく星を見ました。晴れた日の砂漠の夜は素晴らしい星空なんですよ。まるで天地が二分されたように、星のある明るい半分が空で、星のない暗い半分が砂漠でした」

「…うむ…」

「そうして、故郷では人々は星をつないで様々な星座を夜空に描いていました。星座にはそれぞれに神話や伝説があって、弟によく話して聞かせたものです」

「そうだな、小さい頃、私も母にいろいろ聞いたように思う…」

「聖地に来てからは、星の配置そのものも故郷のものとは違いますし、あまり星座のことを意識したことはなかったんですが…」

「…どうした…」

言葉を切って笑みを浮かべるルヴァに、不思議そうにクラヴィスが訊ねる。

「最近の私は…星空を見上げると、そこに星座ではなくて人の姿を浮かべてしまうのです…」

「結局、言いたいことはそれなのだな…」

クラヴィスは小さくため息を漏らす。

「…はぁ…すみません」

「謝ることはない。どうせ、思い描く姿は私ではないのだし…」

拗ねたようなクラヴィスの口振りに、ルヴァは苦笑する。

「拗ねないでください。あなただって、星空に思い描く相手は私ではないでしょう？」

「…それはそうだが…」

見詰め合って、次の瞬間、二人は噴き出すように笑った。

肩を並べて、二人は夜空を見上げる。
星々の連なりに、愛しい相手の姿を思い描きながら。

ルヴァはサラサラと流れる長い髪の、すんなりとしなやかな彼の人の姿を星空に思い浮かべて、その隣にあるひとかたまりの星はハープにも見えると考えていた。

クラヴィスはひときわ強く輝く青い光の星に、彼の人の強い意志を秘めた眼差しを思い出していた。

「お邪魔をしました。そろそろ仕事に戻ります」

「そうだな。早く片付けて…本物に会いに行け」

「そう出来るといいんですけど…今夜は無理でしょうね…」

仕方がないですよ、とルヴァは笑った。

ま、頑張ることだな、とクラヴィスが笑った。

時刻はそろそろ日付も変わろうという頃、立ち去るルヴァと見送るクラヴィスの頭上には、降るような星空が輝いていた。

　　　Ｅ　Ｎ　Ｄ

七夕にちなんで、星空と恋人たちのお話を…って、何がなんだかわからないようなお話ですが…（笑)
ネオロマ５の最終回をご覧になった方はネタの出どころがおわかりになると思います（＾＾；
ささやかなお話ですみません…
七夕でもなんでもありませんが、とにかく満天の星空で水地で闇光です(笑)